全てを破壊するために突き進む日

小紫-こむらさきー

1 今日は全てを破壊するために突き進む日

 俺ことバッファロー太郎には三分以内にやらなければならないことがあった。

 みなさんご存知の通り、今日は全てを破壊するために突き進む日だからだ。

 四年に一度、閏年の象徴である2/29の正午に外に出て全てを破壊するために突き進む。

 そんな日に俺は寝坊をした。あと三分で家を出ないといけない。

 この日のために昨日は僕たち家族はお互いに角をワックスで磨きあった。

 ぴかぴかになった角で、硬い木も、金属で作られた柵も、ヒグマも、人間も全てを破壊する。

 昨日は寝る前に入念にストレッチを行い、半身浴も行った。それから耳ほぐで耳を温めながらホットアイマスクを付けて寝た。四年に一度の祭りなので学校も会社も休みだ。大晦日よりも多く店が閉まる。バッファロー村のみんなで一丸となって全てを破壊するからだ。

 父さんも母さんも弟も家にはいない。何故ならもうとっくに家を出ていたからだ。うっすらと記憶に残っている。

「バッファロー太郎、大丈夫なの? お母さんたちは先に行くわよ。ちゃんと起きるのよ?」

「うるせえなババア! ちゃんと起きられるっていってんだろうが!」

 俺はそのまま二度寝を決め込み、正午の三分前に起きたのだ。

 三分で出来ることを考える。全てを破壊するための装備を調えようにも、もう時間がない。

 どうすればいい。

 刻々と時間が過ぎていく。家の窓からは全てを破壊するために突き進む準備を追えたバッファローのみんなが意気揚々と歩いているのが見える。

 みんな黒いゴワゴワとした毛皮の上にアブの死体をはりつけたり、かっこいいタトゥーシールを貼り付けたり、燕尾服を着たりと精一杯のおしゃれをしている。こんな中、普段着で出ていけば恥をかいてしまうだろう。

 あれでもない、これでもないと服に悩んでいるだけであっと言う間に二分半が過ぎていた。

 追い詰められた僕に、一つの天啓が舞い降りてくる。

 そうだ。破壊するのは物だけではない。全てだ。常識も倫理観も破壊しなければ全てを破壊するために突き進むとは言えないだろう。

 つまり、答えはこうだ。

--ゴーン、ゴーン

 正午を告げる鐘がなる。遠くにある人間たちの村からはウーウーと危機感を煽るようなサイレンがけたたましく流れている。

 俺は自分の部屋から窓をブチ割って外に飛び出した。そして、外に出てからの破壊は、己の羞恥心だ。

 Tシャツを両手で引きちぎり雄叫びをあげる。そして、ズボンとパンツを脱ぎさり、さながら野生のバッファローのようにありのまま、生まれたままの姿になった。

 裸一貫、黒い毛皮に覆われてテカテカと光るのは草だけで育てられた立派な筋肉と股間に隆起する立派な第三の角。

 俺を見た近所のバッファロー権三郎が雄叫びを上げ、俺に続いて服を引きちぎる。雄叫びは連鎖し、まるで野生のバッファローさながらの美しい全裸の群がそこにあった。

 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れは止まらない。

 破壊された人々のビルから登る土煙に向かって俺も走り始めた。

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全てを破壊するために突き進む日 小紫-こむらさきー @violetsnake206

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