第4話 和葉への報酬

 ◆side和葉◆


 やっとひろくんが告白してくれた。私の心は喜びでいっぱいだった。


『ひろくんっ、ひろくんっ!』


 嬉しさが抑えきれずに、ひろくんの胸に頬ずりしていると、頭の中に声が響いた。


 ──もしも〜し、和葉さ〜ん?


『へ? あっ、女神様? あれ、時間も止まってる……?』


 目の前のひろくんは完全に静止している。瞬きすらしない。


 ──やっと気付いてくれましたか〜? さっきから呼んでたのに反応ないから困ってたんですよ〜?


『あのっ、いや、これは……。ごめんなさい……』


 あんなにひろくんに甘えている姿を見られたと思うと恥ずかしくなる。でもまさかこんなタイミングで……。


 ──うんうん、嬉しいのはわかりますけどね〜? 彼、びっくりしてましたよ〜? ダメじゃないですか〜、あっちの力をここで使ったりしたら〜。


『あぅ……、ごめんなさい……』


 思い余ってつい……。だってだって嬉しかったんだもん! でもそうだよね、ひろくんには話してないからそりゃ驚くよね。反省しなきゃ。


 ──殊勝で結構です〜。それで、本題なんですけど〜。あの世界を救ってくれた報酬がこんなんで良かったんですか〜?


『それはもう、大満足です!』


 私は少し前に、願いを一つだけなんでも叶えてもらえるのと引き換えに異世界に行っていた。まぁ報酬は後付けだったんだけど。


 ひろくんのいない世界に喚び出されて、世界を救えなんて言われて戸惑った。でも、ひろくんにまた会いたい一心で頑張ったんだよ。そりゃもう大変だったんだから……。


 向こうでは二年間も経っていたのに、戻って来たら二週間しか経ってなくて焦ったし。更に私は二年分歳を取っちゃっててどうしようかと思ったら、女神様が二年分私の身体の時間を止めてくて一安心。


 なのに、今度はひろくんがよそよそしくなっちゃうんだもん、泣きそうだったよ。


 だから、願い事は「ひろくんと恋人になりたい」というものにした。ひろくんが私のことを好きだっていうのはなんとなく前からわかっていたし、無理矢理私を好きにさせるんじゃないからいいかなって思って。


 ──本当に良いんですね〜? 一生遊んで暮らしたいとか、そういうのだってできたのに〜。それに彼、あなたが押せば簡単に落ちましたよ〜?


『いいんです! やっぱりひろくんから言って欲しかったし……』


 ──乙女ですね〜。まぁいいでしょ〜。これで報酬のお渡しは完了です〜。


『はいっ! ありがとうございました!』


 ──あと〜、これは私からのお節介なんですが〜、彼、あなたをとっても大事にしてくれるようにしておきました〜。


『え……? ひろくんに何かしたんですか? そういえば何回も時間が巻き戻っていましたけど……』


 昨晩の夢の中で女神様から今日の放課後に屋上に来るように言われて、私はずっと待っていた。きっと私がお願いしたことを叶えてくれるんだって期待して。


 それなのにひろくんはなかなか来ないし、時間は何回も巻き戻るしで変だなぁと思っていた。私がさっきひろくんに「遅いよ」と言ったのもそのせいだ。私の体感では伝えられた時間から二時間半以上待っていたことになる。


 たぶんひろくんは今になるまで想いを伝えてくれなかったことを言ってると思ってるだろうけど。


 ──そういえばあなたは認識できちゃうんでしたね〜。うっかりしてました〜。


『もしかして、ひろくんに変なことしてませんよね? もしそうなら……』


 たとえ女神様相手でも……。


 ──あはは〜。何をしたのかは内緒にしておきますね〜。和葉さんが怖いので、私はこれで退散するとしますよ〜。たぶんこれで会うのは最後でしょう〜。和葉さん、本当にありがとうございました〜。彼とお幸せに〜。


 それだけ言うと、女神様の気配は消えてしまった。止まっていた時間も動き出して──。


「和葉っ!」


 ひろくんに名前を呼ばれて抱きしめられた。さっきは私から抱きついちゃったけど、されるのは初めてでドキっとした。


「は、はいっ」


「俺、和葉のこと大事にするから」


 そう言うひろくんの顔は少しだけ青ざめているような気がした。



 fin.

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無限コンティニュー! 女神様からの緊急クエスト【3分以内に彼女を作れ!】 あすれい @resty

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