いやあの今日、月末なんです!

たい焼き。

無理……

 内村さんには三分以内にやらなければならないことがあった。


「あぁ〜確かに告知で見てたよ〜。見てたけどさぁ〜、マジで今日からKACスタートなんだぁ……」


 パソコン画面に向かってブツブツ呟く1人の女性。

 肩まであるストレートの黒髪は頭の後ろで適当にまとめられ、化粧もしているのかどうか分からないくらい薄い。

 冷えるからと幾重にも重ねられた靴下に分厚いひざ掛け、肩にも暖かそうな上着を掛けている。


 ブツブツ呟く声と一緒に聞こえる主張の強いキーボードからの打鍵音。

 飾りっけのない爪から奏でられる打鍵音は苛立ちや焦りのようなものが感じられる。


「はぁ〜……しかもお題がまさかの書き出しで難しいし……ってかそれどころじゃないなあ、もう」


 独り言を絶えず口に出しながら、時に激しくキーボードを叩き、音が止めば今度はファイリングされた紙をペラペラと忙しなくめくる。


「そもそもよ。どうして請求書を作る段階で

 こんなに変更が出るのよ。ホント何なの?」


「あぁ〜てかもう、何で月末のくそ忙しい時にシステムメンテナンスなんて入れる訳?」


 彼女の独り言の勢いはどこまでも広がっていく。


「システムメンテナンスが入るならなんでもっと早く段取りさせてくれないの?何なの?」


 独り言の激しさに比例するようにキーボードを叩く指に力が入る。

 しかし、気持ちが焦っているせいかタイプミスも目立つ。


「あぁもう!」


 彼女は一度両手をキーボードから離し、手早くグーパーと指を動かしてから再びキーボードを叩き始めた。


「あと少し……この請求書さえ出来れば、いつメンテナンス来ても大丈夫……」


 彼女は自分を落ち着かせるように、はたまたパソコンに言い聞かせるように優しい声で呟いた。

 そんな彼女を嘲笑うかのように、突然開いていたエクセルデータにひとつのポップアップが現れる。


「えっ」


 彼女がポップアップの内容を確認する間もなく、ポップアップと共にエクセルは閉じられ、そのままパソコンもシャットダウン画面へとうつり変わった。


「はっ」


 呆然としている彼女の前には、その姿を映した黒いパソコン画面。


 三分以内に完成まで漕ぎ着けなかったデータは、虚しくメンテナンスの為の強制終了と共に無へと帰した。




 その後、毎年2月末になるとどこかですすり泣くような、絶望に打ちひしがれたような声がどこからか聞こえる怪談が出来上がったとか……。

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いやあの今日、月末なんです! たい焼き。 @natsu8u

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