ガンマンには三分以内にやらなければならないことがあった

山岡咲美

ガンマンには三分以内にやらなければならないことがあった

 ガンマンには三分以内にやらなければならないことがあった。


 そのダークブラウンの髪の女はガンマンである。

 彼女はガンマンだから、銃でターゲットを撃たねばならない。

 そして彼女、リサ・バレッタは父のあとをつぎ、この町の保安官をしている。

 保安官であるリサのターゲットはこの町、ウエストガンズのとなり町、イーストガンズで銀行強盗を働いた無頼ぶらいの男どもダース六十人の男にたちであり、ファイブダースガンナーズと呼ばれ恐れられるその強盗団は六十人ぶんの手配書がすでに多くの保安官事務所に出回っているにもかかわらず、どの保安官事務所も手をこまねいて「ウチの町に来るな」と祈るばかりの犯罪者集団だった。

 そして今、リサはパーカッション式リボルバー、つまり詰め込み式回転拳銃、ネイビーを手に無頼漢に挑むのだった。

 ネイビーは大口径大火力の四十四口径大型拳銃ウォーカーから火薬量を落とした同じく四十四口径のドラグーンをさらに三十六口径に小型化し威力を下げて使いやすくした量産モデルで、女性保安官であるリサにも扱いやすい銃だった。

 リサはその銃とともに父から保安官の仕事をついでいた。

「本当なら一番上の薬室は安全のため開けとくんだけど……」

 弾はシリンダーの薬室に六発全て込めた、シリンダー側面前から火薬、ブラックパウダーと丸い鉛の弾丸を火縄銃のように詰めたあと、シリンダーを下へと回し、銃身、バレルの下にある押し込み装置のローディングレバーを引き弾丸をシリンダーの奥に押し込む。

 軽く小さな造りと八角形の銃身、オクタゴンバレルはリサのお気に入りだ。

 そしてシリンダーの後ろに雷管、銃の着火装置、ハンマーで叩く小さな発火火薬の詰まった銅製のパーカッションキャップをつける。

 リサは弾薬を込めたネイビーを体に付けて固定する拳銃のバッグ、皮のホルスターに入れた。

 リサの真っ赤なロングスカートの腰の部分にはネイビーが入ってホルスターが十丁も太いベルトに巻かれ下げられている。

 つまり六十発の弾の入った十丁の拳銃と六十人の無頼漢である。

(一発でも外せばもう一度弾を込めてる時間はない……)

 リサはガンマンである、ガンマンであるから銃がなければ戦えない。

「三分以内に決着をつけたい……」

 さっき注いだ熱々のコーヒーが机の上で冷めてしまうからとリサは少し笑った。

 冗談でも言いたい酷いピンチだった。

 リサの住む保安官事務所は無頼漢六十人に囲まれていたのだ。


 *


「なんだあの女?」

 保安官事務所を周囲の建物越しに囲んでいた落としたたちが驚く。

 保安官バッチを赤いドレスの胸に付けた女がその腰に山程の銃を下げ保安官事務所から歩いて出て来たのだ。

「おい、女、くだらない保安官ゴッコはやめて俺たちと酒場で飲まないか?」

 ナメた口を叩き、十人の男たちが、柱も壁も木製の酒場から戸をはじき出て来る。

 酒場の中から見ている男たちも緊張感のない笑みを見せる。

「ありがとう舐め腐ってくれて」

 リサは笑い、十二発の弾丸を両手の回転式拳銃ネイビーから発射した。

 シングルアクションであるネイビーは銃の後ろにある撃鉄、つまりハンマーを引き下ろし、引き金であるトリガーを引き発射しなければならないがリサは両手に銃を持った状態で、右手のネイビーのトリガーを引いたままにして左手のネイビーを持つ手の、手のひらの底でハンマーを引き下ろしそのまま弾き離して発砲、それを一気に右手から左手へとつなぎ十二発の弾丸を男たちに撃ち込んだのだ。

「なんだ⁉ なんだ⁉」

 外に出ていた男たちは驚く、リサはまず建物の中から様子を伺っていた十二人の男にその鉛弾なまりだまをくれてやったのだ。

「やばい撃て‼」

 外に出ていた男たちは慌てて銃を抜こうとする。

「遅すぎ」

 リサはすでに弾を撃ち尽くしたネイビーを手放し、それが地面へと落ちるより早く更に二丁のネイビーをホルスターから取り出しすでに撃ちはじめていた。

 外に出ていた十人の男と呆然自失で動き取れなくなっていた建物から馬鹿みたい頭が見える男二人に弾丸が命中。

「撃て撃て撃てーーーー‼」

 男たちは慌てて建物に隠れ銃を撃って来る。

(あと、何人だっけ……)

「六発のネイビーを四つ使ったから六かける四で……四六……なんだっけ……」

 そういいながらリサは撃ち尽くしたネイビーをす捨て更に次の二丁を取り出す。

「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二」

 リサの目が男を見つけるたびハンマーが落とされ弾丸が発射される。

 それは弾丸の命中を意味していた。

(あれ? 今度は六かける六だからえーと、えーと……)

 リサは掛け算をするが次から次に命中が増え、計算ができない。

 リサは掛け算が苦手だった。

「なんだこの女、弾を避けやがるぞ!」

 リサは男たちが撃ってくる弾をまるでフラメンコでも踊るかのように華麗にかわしていた。

 リサは弾丸を避けるのは得意だった。

(あれ? 今何発撃った?)

 七丁目と八丁目のネイビーを撃ち尽くした所で正面の酒場に飛び込んだリサは最後の九、十丁目のネイビーをホルスターから取り出しそう思ったが……。

(あと二丁だから六たす六で十二発?)

 リサは足し算は得意だ。

「あと十二人でアタシの勝ちね」

 リサは分厚い天板の丸テーブルや酒場のカウンターに隠れる男たちに笑顔を見せる。

 その姿は男たちにとって悪魔が笑いながら近づいてるように見えたに違いない。

「こっちに来るんじゃねー‼」

 なんとかリサに弾丸をくれてやろうとする最後の抵抗も弾を軽やかにかわして近づくリサには無意味だった。

 リサは一人一人の男の元に歩いて行き、一人一人丁寧に撃っていった。

「まっ、待ってくれて……抵抗しない、逮捕してくれ……」

 そこに居た最後の一人がカウンターの中から両手を上げる。

「……わかったわ、銃をカウンターの上に置いて出てきなさい」

 リサは保安官だ、手をあげる者は撃たない。

「今から出て行く、撃たないでくれ……」

 カウンター後ろの男はカウンターの上に言われた通り自分の銃を置いてカウンター後ろから手を上げて出て来た。

 カウンターの上には大口径大火力の大型拳銃、ウォーカーが置かれていた。

(化け物銃ね……)

 リサはまだ警戒して男にネイビーを向けている。

(あれ、弾が二発残ってる……)

 リサの目にシリンダーの後にあるまだ叩かれてないパーカッションキャップが見えた。


 コトリ……


 リサは小さな足音に反射的に振り向き慌てて銃を撃った。

 リサが撃った弾は背後から近づいて来た男には届かなかった。

 その男が外でひろった死体に当たったのだ。

 男は死体を盾にしていた。

「最悪!」

 リサはそう言い放ち死体の盾の隙間越しに背後から来た男を狙うが弾はまた死体に当たる。


 カチャリ!


 ハンマーが落ちても弾丸が出ない。

 弾切れだ。

「喰らえ!」

 背後から来た男はその手に持つ大口径拳銃ドラグーンを構える、リサを警戒していてその男は死体の盾を離していない。

(間に合う?)

 リサは一瞬考える。


 バン!


 背後の男のドラグーンが火を放つ。

 リサはくるりと回りその弾丸をかわし、カウンターの上に置かれた大型拳銃ウォーカーを手に取る。

(重っ!)

 重さのせいで銃を素早く構えるのと、弾丸かわすのが不可能になる。


 バン‼


 酒場に銃声が響いた。


 *


「そうだ、銀行強盗さんコーヒー飲む?」

 リサは投降した銀行強盗団最後の生き残りにそう言った。

「…………?」

 男は保安官が妙に優しい笑顔を見せるでいぶかしんだ。

「だってほら、裁判の罪状が銀行強盗その他多数だから、もうコーヒーは飲めなくなるよ」

 リサはそう言ってニコリと笑った。

 銀行強盗団最後の男はその意味に気づきうなだれる。

 死体を盾にした男は大型拳銃ウォーカーの威力で盾にした死体ごと貫通されて酒場に倒れている。


「アタシ、銃の戦いとコーヒーの味には自信あるんだ」


 保安官事務所のコーヒーはまだ熱々だ。

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