これぞ、怖そうで怖くない話

 前の話の社宅なのですが、アパートの隣に平屋の長屋が数棟建ってまして、そこは私が小学校低学年くらいまで入居されている方がいました。といっても2~3世帯くらいで、どなたも1~2年くらいの短い期間で引っ越されてました。だいたい小さい子どもがいる世帯で、保育園や小学校が一緒で遊びに行ったりもしてました。


 でも、その後住む人が居なくなり、その社宅は立ち入り禁止のフェンスが取り付けられました。


 そして、ある時、小学校高学年の私は、幼馴染みの友だち2人と探検ごっこと称して、その社宅に入り込むことにしました。


 立ち入り禁止と書いてあってもアパートと長屋の間のフェンスをやすやすと乗り越えられて、案外簡単に敷地に入ることができてしまいました。


 アパート側は奥に3棟くらい並んでいたのですが、柵で囲われていて、扉は合ったのですが雑草が生え放題で、近づくことができませんでした。なので、侵入を断念。


 長屋は1棟に3世帯が繋がっていて、それぞれが高い木製の塀で囲われていました。

 それが奥に4棟並んでいます。


 人が住んでいない家って、静かでどこか落ち着かなくて、友だちたちとわざと大きな声を出しながら進んでいきました。そして、道路から1棟目と2棟目の長屋の間を通って行くと、古びた公園が出てきました。


 この公園は、ここの住んでいた子の所に遊びに来たときに遊んだことがある公園ですが、誰も使われなくなった公園の小さな滑り台やシーソーはどれも錆びていて、木が腐っていました。


 それでも、私たちはキャッキャと遊び始めます。滑り台があったら滑りたくなる。子どもの特性ですよね。


 それでしばらく遊んでいたのですが、ふと周りを見渡すと、4棟目の一番端の長屋の玄関が公園から見えて、その玄関はなぜか開けっ放しになっていました。


 好奇心旺盛な私たちはその玄関から中を覗いてみることにしたのです。


 覗いてみると、畳の剥がれた板の間に黒電話がポツンと1つ置き去りにされていました。


 その光景が、どこか違和感を感じて立ちすくむ私たち。今にも電話が鳴りそうです。


 私たちは急に怖くなってフェンスの外に逃げ出しました。


 なんであの家だけ玄関が開いていたのか、あの黒電話はなんだったのか、今も謎のままです。

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万之葉の「怖そうで怖くない、だけど少し怖い」お話 万之葉 文郁 @kaorufumi

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