万之葉の「怖そうで怖くない、だけど少し怖い」お話

万之葉 文郁

だから何って話ではあるのだけど


 うちの実家は海端の工業地帯の端っこにあり、家の南側と西側は、とある繊維工場の敷地となっています。


 家の西側にはその工場の研究所という古びた小さなの建物が建っており、平日は数名の従業員が出入りしていました。

 今現在は閉鎖されていますが、何の研究をしていたかはわかりません。

 

 工場本体は実家からだいぶが離れた所にあり、鬱蒼とした人工林に囲まれて、うちからは建物の姿は確認できません。遠くに背の高い煙突が数本、見えるだけです。


 そして、家の南側は隣の研究所の敷地で広い草むらが広がっています。そして、50メートル程先に1本の道路が東西に走っており、その道路沿いに木造2階建てのアパートと、その隣に平屋作りの木造の長屋が建っていました。


 そこは工場の社宅でしたが、老朽化しており、アパートの方は廃屋となって久しく、壁には蔦が這い、雑草が生い茂っていました。


 昼間にそのアパートの前を通るのもどこか気味が悪いなぁと思いながら足早に通りすぎたものです。


 うちの家の窓からそのアパートはよく見えました。

 当時、保育園児だった私は、夜はできるだけその建物を見ないようにしていました。夜のアパートは本当にお化け屋敷みたいか外観だったので。

 けれど、ある時、ふとその建物に目をやってしまったのです。すると、アパートのぬ左から2番目の扉の上にある、はめ殺しの窓に小さな赤い光がいくつか灯っているのが見えました。


「おとうさん、まえのおうちのまど、ひかってるよ」

 私が指差す方を見る父親。

「どれどれ……光なんかないじゃないか」

「え~。あかくなってるでしょ」

 なかなかわかってくれない父親にしつこく「みてみて」と外を指差す私。


 やがて父は面倒になったのでしょう。私は父に抱っこされて窓から離されました。


 けれど、次の日も、そのまた次の日も、私にはあの窓に、赤い光が小さく灯っているのが見えました。

 そして、私はその度に父に何度も同じように尋ねましたが、父はそれは反射した光だとしか答えてくれなくなり、いつしか父私も親に訴えるのはやめてしまいました。

 最初のうちは怖かったものの、ただ光が見えるだけで何が起こるわけではなく、やがて私も気にしなくなりました。



 そのアパートは、その後、取り壊され、しばらくは草むらが広がっていましたが、つい最近、その跡地には自動車の教習所ができることになったそうです。


 この間帰省したときに、その話を母親から聞いて、数十年ぶりにあの不可解な出来事を思い出しました。


 結局あの光はなんだったのか、今も謎のままです。

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