ニャン吉の姑息な作戦

丸子稔

第1話 発想の転換

 ニャン吉には三分以内にやらなければならないことがあった。

 それは先程カップラーメンの中に入れた自らの毛を取り除くこと。

 飼い主の雄太とケンカして、彼が湯を沸かしている間に、具の下にこっそり入れてしまったのだが、バレた時のことを考えると居ても立っても居られなかった。


(雄太のやつ、キレたら何するか分からないからな……でも、この熱湯の中から毛を取り除くのは、自殺行為みたいなものだし)


 途方に暮れるニャン吉に時間はどんどん押し迫り、スマホにセットされたアラームが鳴るまで残り一分となった。


(今、雄太はパソコンのオンラインゲームに夢中だから、スマホのアラームを解除しても、しばらくは気付かないだろう。そして気付いた時には、とても食べられる状態じゃないくらいラーメンが伸びてて、捨てざるを得なくなる。よし! この作戦でいこう)


 ニャン吉はテーブルに置いてあるスマホの前に座り、画面とにらめっこする。


(えーと、たしかここをいじれば、解除できるはずなんだけど……あれ? おかしいな。解除できないぞ。なんで、できないんだよ!)


 時間は刻一刻と迫り、残りはいよいよあと三十秒となった。


(焦ったらダメだ。焦れば焦るほど、うまくいくものもいかなくなるからな。もう一回落ち着いて整理してみよう。たしか、前はここを触った時に解除できたんだけど……やっぱりダメだ! こうなったらもう仕方ない。一か八か、これに賭けてみよう)


 そう決意したニャン吉は、両前足を器用に使ってスマホを持ったかと思うと、それを思い切り床にたたきつけた。


『ガシャーン!』


 その音に気付いた雄太は、すぐさまニャン吉に怒りの目を向ける。


「こら、ニャン吉! 何やってんだよ! あーあ。スマホ、壊れちゃったじゃないか。今から新しい機種を買いに行くから、お前はここで大人しく待ってろ!」


「にゃ~ん」


 しおらしく返事をするニャン吉を尻目に、雄太は慌てて部屋を飛び出した。


(ふう。なんとか、あまり怒られずに済んだ。これで雄太が帰ってくる頃には、もうラーメンは伸びきってて捨てるしかない。最初の計画とは随分違ってしまったが、とりあえず作戦成功だ)


  了



 




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