趣味のBL小説でいきなり海外進出した話。
古池ねじ
第1話
偉そうなタイトルですみません。偉そうなほうが読んでもらえるかなって……。
KindleDirectPublishingで出版したBL小説「重なりあって恋になる」と続編の短編集「恋になったあとで」が一冊になって「重疊愛戀」というタイトルで中国語繫体字版として台湾の春光出版から出版されることになりました。
翻訳は湯家琪様、イラストはALOKI様です。紙の本でも電子でも出ます。
要するに個人で電子書籍として出版した小説が、翻訳されて紙の本として海外で出版されるわけです。ちょっとなかなかないこと、ではあるけどもしかしたらこれから増えるのかもしれません。
まず自己紹介をします。古池ねじと言います。こいけねじ、と読みます。小説家です。2018年にカクヨムに載せていた話が富士見L文庫というライト文芸のレーベルから書籍化して、2020年に書下ろし小説をもう一冊出しました。2022年には新潮社の「女による女のためのR-18文学賞」の友近賞を「いい人じゃない」という短編で受賞して、2023年のnoteの創作大賞のミステリー部門で「殺人小説の書き方」という長編で入選しています。自著の翻訳の経験はありません。
BL小説をよく書きます。趣味です。
BL小説をネットに載せたり、同人誌を出したり、Kindleで電子書籍を個人出版しています。紙でも電子でもBLでの商業経験は一切ありません。しかし普通に商業デビュー、したいなあ、どこかに営業でもしようかなあ……とだらだら過ごしていました。
そんなある日、Twitterに置いていた匿名感想ツールにメッセージが届きました。感想かなと開いたら、翻訳エージェント、という見慣れない肩書きの方からの「「重なりあって恋になる」の繁体字版の版権は空いてますか?」という問い合わせでした。
「詐欺…?」
というのが最初の印象でした。まったく想定していなかったお話なので、本当によく意味がわからなかったです。匿名感想ツールだし。
しかし記載された連絡先は検索したら存在する会社の生きているメールアドレスのようでしたので、おそるおそるメールしてみたらちゃんと返事がありました。詐欺じゃなかった。そこで小説のデータを送って、やり取りが始まりました。
ここで私に連絡をしてくれたのは日本のコンテンツの版権を扱うエージェントで、私の小説を台湾で翻訳したいと要望をくれたのは台湾のエージェントだそうです。つまり私が直接やりとりしている方は私のBL小説をよく知っているわけではないので、性描写の多い…というかはっきり言えば「ち〇ぽ」とか連呼しているBL小説のデータを送るのは気まずかったです。送りましたがね「ち◯ぽ」連呼BLを…。そのあと台湾のエージェントが出版社を探す、ということで私はただ待つことになりました。
ここどうしたらいいのかわからなくて不安でした。周りに個人出版の経験者も商業の経験者も翻訳の経験者もいるわけですが、私の知る限りでは個人出版からいきなり翻訳…という経験がある人はいないので、誰かに話も聞けません(もしかしたら漫画ならいるのかもしれませんが漫画家に知り合いはあまりおらず…)。そのころ読んだ「小説家になって億を稼ごう」という本にも翻訳についての話は載っていたのですが、「出版社に任せましょう」ということしか載っていませんでした。その出版社がないんですよ!!!私には!!!
できることがないので台湾華語のテキストを買ってきてちょっとずつ勉強を始めました。二冊ほど初心者向けのテキストをちまちまとやったわりに全然上達してませんが……。
しばらくすると台湾の出版社が決まったという連絡が来ました。春光出版。フィフティシェイズオブグレイの繁体字版を出版した会社らしいです。調べたら結構BLも出しているようでほっとしました。
ここから契約に動き出しました。条件を詰めて、契約書の草案を読んで「ここはどういうことですか?」と聞いたり。私はもう完全に一人でやっているわけですが、向こうの契約書も個人相手を前提としていないような文が載っていたので直してもらいました。危なかった…。
源泉徴収の都合で税務署に居住者証明書を取りに行ったりもしました。税務署初めて行きました。
書類が揃って、契約を交わしました。普段の出版は作業が終わってから契約なので、版権のやり取りだと早く契約するんだな…というのが新鮮でした。
なんとなくですが、出版社が間に入っていたらこの辺りのこと自分でやらなくていいんだろうな…という気がします。出版社って大変ですね。
お話があってから一年ほどして、繁体字版の「重なりあって恋になる」、2024年3月5日に発売になります。台湾のイラストレーターのALOKI様が素晴らしいイラストを描いてくださいました。美しい…大山の顔…優し…ちびキャラ、かわいすぎる…おそろい着てる!
個人出版版のおもち様のイラストのシリアスで端正な雰囲気とはまた違うけれど、この二人も藤崎と大山だなあ…と感動しました。
そして出版社の紹介ページにある推薦の言葉をgoogle翻訳して、泣きそうになりました。この話で私が大切にしていたこと、しかし商業的にはそれほどアピールポイントではないのでは…という部分を拾い上げてくださっていたからです。向こうの出版社の方と直接やりとりすることはないのですが、自分にとって大切なことを大切にしていただけること、本当に嬉しいです。
「重なりあって恋になる」はとても思い出深い作品です。
ネットに載せたときも、Kindleで個人出版したときも多くの人に読んでもらえて、投稿サイトのランキングに載ったり、ある方の感想ツイートのいいねが三桁まで(私の作品としてはとても多いです)まで伸びていたり、ファンアートを書いてもらったり…。色々な人と私を結び付けてくれ、色々な経験をもたらしてくれた作品です。
逆に言えば、これを書き上げるまで、私の書くBL小説の読者さんはほとんどいませんでした。書いているときはコロナ禍の真っただ中で、社会も我が家も大混乱で、どこにも行けない閉じ込められたような感覚で、この先どうなるのかまったくわからないまま、マンションの一室で泣きながら書いていました。自分の書くものが面白いのか、誰に読んでもらえるのかもわからずに、でも必死で、誰かに届くことを祈って。
この小説が、海を渡る。電子書籍のデータしかなかったものが、紙の本として台湾の本屋さんに並ぶ。違う言葉を話す人たちの手に届く。
信じられない。でも嬉しい。本当に嬉しい。
どう読んでもらえるのか、どんな出会いがあるのか。わくわくしています。私の小説を必要としている誰かの手に、私の想像もしていなかった方法で届くのかもしれない。これまでにも自分の小説がびっくりするような場所まで届いていたことを知ることがありました。
私の小説は、私の思惑よりももっともっと遠くまで行けるのかもしれない。もっともっと遠くまで行きたい。
この話を読んで、好きだと言ってくれた皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。どんなふうに言えばいいのかわかりません。
これからも頑張ります。本当に、本当に、頑張ります。
ちなみに「重なりあって恋になる」、他の言語の版権は空いてます。日本語版もです。日本で書籍化したいという方がいましたらご連絡ください。
趣味のBL小説でいきなり海外進出した話。 古池ねじ @satouneji
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