第14話 男なら拳で
︎︎来客があると言われて出てみると、紗良さんが一人でこの館まで足を運んできていた。なんの用かと思ったら俺とお嬢様に用があるらしいのでとりあえず中に入れたが、お嬢様は今不在だ。
︎︎なんか必要なものがあるとかで有栖さんと一緒にどこか行ったからもうしばらくは帰ってこないだろう。
「一人で何しに来たんです? 一人で行動することなんてあるんですね。普通なら護衛の人が許されないと思いますけどね」
「私が今来たのは昨日のことを謝るためだから、一人で来ないといけないと思ってね。イブのことを悪く言ってごめん、私だってイブと変わらないのに」
「分かってくれればいいんですよ、友晴は簡単に納得させれなさそうですけどね」
︎︎紗良さんのことになると、急に冷静じゃなくなってるからな。お嬢様が弱いというのも正しいとかもしれないが、それは紗良さんも俺も友晴も同じことだ。
︎︎誰しもどこかに弱い部分があるからな、友晴だったらそれは紗良さんの事になるだろう。
「お嬢様が帰ってくるまでしばらくありますし、ちょっと紅茶でも淹れてきますよ。ゆっくり話したいこともありますし」
「ありがとう、それで一つ気になるんだけどさ。護衛って紅茶淹れれるものなの?」
「淹れれるんじゃないですか? 護衛なってから日が浅いので分かりませんけど」
︎︎俺はお嬢様のせいで何回も紅茶を淹れさせられたかだいぶ上手くなったものだ。最初の方なんか何回やり直しさせられたことか、まぁこれから淹れることになるだろうし他の場面でも役に立つかもしれないから、やって損は無いと思う。
「淹れるの上手いね、ちなみに料理とか掃除ってできる?」
「護衛になる前は普通に一人暮らししてましたし、人並みには出来ると思いますよ。でもここには有栖さんや
︎︎紅茶を淹れるのだって有栖さんの方が全然上手いと思うし、俺なんてまだ下手な部類だとは思う。俺は正直味の違いがわからないから今のままでいいと思ってる、まぁそんなこと言ったらお嬢様に怒られるんだろうけど。
「料理出来ない私より幾分ましじゃないかな? 一人暮らしなんて絶対できない自信があるよ」
「お嬢様って一人暮らしができるように教育されてないでしょうし、そもそも親がそんな事許さないんじゃないんですか?」
「だろーね……親の思う通りにこのまま成長していくものだよ、名家生まれの子供っていうのは。家柄がいいとこういう事になるから、産まれるなら普通の家庭の方が絶対いいよ」
︎︎紗良さんとかお嬢様はお金とかを気にする必要は無いけど自由がないんだよな。自分の好きなことは出来ずに親が思い描いている通りに成長させられるから、その分普通の家庭はある程度自由だからな。
︎︎普通の家庭とは言えないが、俺は縛る存在がいないので完全に自由である。
「俺は名家でも普通の家庭でもないんですよねぇ……。だからこそ今護衛として働いているわけですけど」
「イブちゃんはいつ帰ってくるのかな?」
「有栖さんと一緒に出かけてるみたいですし、いつかは帰ってくるんじゃないですか?」
︎︎連絡しても返信が無いし、そもそも送られてることに気づいてないな。お嬢様にも用があるらしいから早く帰ってきて欲しい。
「それで、話とはなんですか? 紗良」
︎︎しばらくしてお嬢様が帰ってきたんだけど、一気に空気が重くなったなぁ……。俺は話さなければいけないことは話し終えたし、お嬢様に部屋から出て行けと言われたのでとりあえず館の外にやってきていた。
︎︎どんな話をするつもりだよ、全く。
「……そこで何してる、ここには関係者以外立ち入り禁止のはずだぞ」
「……」
︎︎敷地内に居た見知らぬ女性? に声をかけるが、返事は返ってこない。もしかしたら俺が知らないだけでここで働いている人かもしれないので手は出さないが、怪しいんだよな。
「まぁいいや、何か用でもあるのか? もしそうなら今お嬢様は取り込み中だ。伝えてはおくから今のところは待っててくれるか」
「いやいい。僕の目的はお前だ、万
葉」
︎︎見た目は完全に別人だけど、声で分かった。
「何しに来た、友晴。もしかして紗良さんが謝りに来たからお前も謝りに来たのか?」
「そんな訳ないだろ、今のうちに分らせておこうと思ってね。いったいどちらの方が上なのかを」
「なんだー、喧嘩か? ここ人様の敷地内だぞ、やるなら別のところでしろよ……。そこまで言うなら移動するか?」
︎︎お嬢様に無断で出ていくのはあれだが、こいつは拳で分からせないと止まらない気がするんだよな。もう怒られる覚悟でこいつを分からせてやるか。
「着いてこい、そこでやるぞ。もちろん男なら拳でな」
︎︎頭が固い友晴を何とかするとしよう。その後紗良さんに怒ってもらおうかな。
クールで厳しい毒舌お嬢様の護衛になったら 桜木紡 @pokk7
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