第19話……てっちんに彼女が出来るの、なんかヤダだったし

「なぁー、連絡先ぐらいいいだろ? 交換しようぜ、な?」

「あ……その……」

「すまん彩人、行くか」

「は? お前誰、邪魔しないでくれる?」


 俺が割り込むと、途端に不機嫌そうになる先輩らしき男。ナンパ目的か……俺はこのご時世によくナンパできる胆力があるなぁと妙な感心を覚えつつも、彩人を守るように背中に隠す。


「いやぁ、すみません先輩。彩人は人と接するのが苦手で……」

「何お前、『こいつのことは知ってる』って仲良しアピール? キモいしウザいからやめた方が良いぞ」

「てっちん……」

「あー、彩人……一人でいける? 俺初対面の人にキモイウザい言われて対応する気力ごりごり削がれたんだけど」


 首をぶんぶんと横に振る彩人。だめか……仕方なしに俺は先輩と対峙する。


「早くしないと昼休み終わるからさ? 俺は忙しいの」

「奇遇ですね先輩、俺たちも忙しいんすよ。では失礼します」

「待てこら。てめぇはいらねぇがそこの後輩ちゃんは置いてけ」

「はぁい、後輩ちゃんの天童って言いまぁす~!」


 裏声で出来るだけ気持ち悪く自己紹介すると、チッと苛立たし気に舌打ちする先輩。秘儀、『ウザがらみしてめんどくさいと思わせる作戦』……このまま時間を潰せば俺の勝ち、うわっめんどくさと思わせても俺の勝ちだ。


「……っち、めんどくせぇ」

「…………(ニコニコ)」

「きもちわりぃ」


 べっと舌を出しながら怪訝な顔をする先輩。そのまま校舎の方に退散した先輩の背中を見送ると、予鈴のチャイムが鳴る。


「うわっ、結局昼休みなんも出来なかった」

「てっちん」

「んー? 速く教室戻ろうぜ、次現国だから古堅先生に怒られちまう」

「……ありがと、な」


 遠慮がちに袖を掴まれて礼を言う彩人。そういや、彩人って男だった時からこうして心細かった時に袖を引っ張ってたな……

 小学生のころから変わらない彩人の癖にどこか安心していると、彩人は申し訳なさそうな顔のまま謝り始めた。


「ごめんなてっちん……」

「『ありがとう』の次は『ごめんな』か、最近謝り過ぎだぜ彩人」

「いや、さ。オレのせいでてっちんが悪く言われて許せないのに、怖くてなんも言えなくて……情けねぇんだオレ」

「おいおい、今さら何言ってんだ彩人」


 小さなことで悩んでいる親友に、俺は笑い飛ばす様に元気よく肩を叩く。昔から『伊達と並ぶと映えなくなる魔法』とか『百点を九十九点にする天才』とか言われてきた俺だ、悪口ですらない先輩の言葉など気にも留めてない。

 それに……


「『こいつのことは知ってる』って仲良しアピールはホントだからな! この学校、いやこの世界で彩人を知ってる奴は俺以外にいないと自負してるぞ!」

「なんだよそれ……ありがとなてっちん」

「まぁ、それはそれとして一人であしらうぐらいは出来るようになっとけよ? 俺だっていつもお前と一緒にいる訳じゃないんだから」

「一緒にいてくれないのか……?」


 そんな捨てられた子犬みたいな顔してこっちみるな、つい甘やかしたくなっちゃうだろ!


「かっ、風邪だったり用事だったりで別行動してたとき今まであったじゃねえか」

「そうなんだけどよ……なんというか、この身体になってから一人になるのが不安っていうか。男だった時より寂しいって気持ちが大きくなった……みたいな?」

「人肌恋しい?」

「あーそれかも。てっちんとくっついてるとなんか安心するし」


 そう言いながら腕に抱き着いてくる彩人。おまっ、ばかっ!?腕全体に当たる柔らかい感触と近づいて来た良い匂いに俺は思わず少し前かがみになってしまう。


「離れてくれ……ほら、遅刻するから……」

「……わーったよ。でも、ホントにありがとなてっちん。オレ、頑張っててっちん無しでも毅然と対応できるようになるよ」

「人に嫌われるのは怖いと思うけど、曖昧な言葉や態度でかわしてたら嫌な目に遭うぞ?」

「うっ、中学時代のこと思い出した……」


 うげっと嫌な顔をしながら俺の腕を離した彩人。中学時代、いじめられていた過去から他人が傷つかないようにと言葉を選んでいたら『彩人と付き合っている』と思いこんでいた女子が何人もいて修羅場になったことがあったなぁ……


 みんながみんな『伊達君は私の彼氏!』って譲らなくて、当の本人はそもそも全員の告白を断ったと思っているからなんで修羅場なのか分からなくて。

 結局俺と彩人が一緒にみんなに頭を下げながら『付き合っていない』と懇切丁寧に説明する行脚あんぎゃが展開されたのだ。


「あんときゃ酷かったなぁ~」

「そこからオレ、『てっちんと遊ぶ時間がなくなるからムリ』って定形文を使うようになったんだっけ」

「お前それやめない? そのせいでお前に告白した女子たちの俺への好感度、地の底だったんだぞ?」

「だって嘘ついたり曖昧なこというより楽だったんだもん!」


 それにどうせてっちんモテないし……と許されないことを言ったので、思いっきり頭を撫でまわして髪の毛をぐちゃぐちゃにしてやる。

 うるせー!お前の顔面偏差値が異様に高いせいで横にいる俺が空気だっただけだし!


「それに……」

「それになんだ!?」

「……てっちんに彼女が出来るの、なんかヤダだったし」

「…………そうかよ」


 顔をほんのり赤く染めながら自分の独占欲を告白した彩人をペッと離し、俺は胸元をパタパタと仰ぐ。

 あー、なんか今日はあついなー!


「って、やべぇそろそろ授業始まっちまう!」

「急ごうぜ彩人、ふざけすぎて遅刻はやべぇって!」

「ほう、俺の授業に遅刻する理由がふざけすぎたからか。伊達、天童」

「「げっ……」」


 背後から古堅先生の声がして、思わず声を合わせてしまう俺たち。おそるおそる後ろを振り向くと、そこには現国の教科書を小脇に抱えた先生の姿が。


「今日の授業で徹底的に当てられたくなかったらさっさと教室に戻って授業の準備をしろ」

「「はい先生!」」

「返事だけは威勢が良いよなお前ら……」


 俺より後に入って来たら遅刻とみなすからなーと教室に向かい始めた先生を追い抜き、慌てて教室に戻る。

 チラッと彩人の顔を盗み見ると……よかった、もう気にしていないみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【急募】美少女になってしまった親友に、オトされないための方法~親友の無自覚な誘惑に、俺は陥落寸前です!!~ 夏歌 沙流 @saru0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ