第12話 我が栄光の1年A組
球技大会当日、瑞希は酷く体調が悪かった。
所謂、女の子の日だ。
女の子になって初めての体験なので、こんなものっていう感覚もなく、朝から憂鬱な時を過ごしていた。
「お姉ちゃん大丈夫、めちゃくちゃ顔色悪いよ。学校休む?」要が心配して声を掛けてくれた。
「ううんぅー、大丈夫。今日授業ないし球技大会だけだから、出席してたら何とかなるよ」なるべく平静を装い、要に答えた。
さて、どうしたものかな。幸い女の子の日用品の準備は出来ている。ただ、使い方が解らないのだ。
とりあえず、ネットで検索してナプキンをこまめに取り換えればいいかってことで結構多めにナプキンをもって家を出た。
学校に着いて、美咲に速攻で女の子の日だと見破られるというハプニングはあったが体操服に着替えるときも、何人かはそれっぽいパンツをはいていたし、女の子って大変なんだなと身をもって体験した、いや現在進行形か。
さて、今日一日は新入生歓迎球技大会を行うことになっており授業は無いので最悪競技時間さえ乗り切ればなんとかなる。
何なら、一回戦で負けると後は応援だけなので、と思ったら気は楽だった。
新入生歓迎球技大会開始、サッカーのグランドになる第1グランドで校長先生のありがたいお話を聞き、生徒会長の彩月さんの開会宣言と共に各自競技会場に解散してトーナメントを消化していく。
私達、1年A組は隣の第2グランドで2試合目となっていた。
対戦相手は2年F組ちなみに1年対2年の場合、前半は11名対10名と1名のハンデをくれる。
1年対3年の場合も同じだがハンデの1名は男子となる。
他の競技、バレー、卓球は先行後攻の決定権、バスケットはティップオフ時に1年のみがジャンパーとして立つという優先ぐらいだ。
このルールはあくまで新入生歓迎という意味合いらしい。
幸い第一試合に自分たちのクラスの競技はないので、第二グランドに移動しサッカーの第一試合、1年C組対3年C組の試合を観戦する。
1年C組には田邊浩輔がいた。
田邊浩輔はこちらに気付いて手を振ってきたが知らん顔をしてやった。
(一緒に居た女子たちはイケメンの田邊の行動に一喜一憂
私が知らん顔をしたためか、あからさまに田邊ががっかりしていたが、当然応援に来たわけではない。もし第一試合勝てたらどちらかと対戦することとなる。敵情視察は大事だ。
敵に塩を送る必要はないだろう。(橿原瑞希は冷酷なのだ)
さて、C組対戦となった第一試合だが前半のハンデ戦で田邊のシュートが2回決まり2点取った1年C組は後半、1点取られるも2対1で勝ってしまった。
私たちA組が勝てば相手は1年C組となる。
試合後、田邊が嬉しそうに近づいてきた。
「橿原さん応援してくれてありがとう、おかげで勝てたよ」
「応援はしてないけど、ただの敵情視察だよ」
「一試合目、勝つ気満々なんだね。応援するよ。勝てば試合できるし、橿原さんが相手でも負ける気はないからね」
「さすが、サッカーに自信あるだけあるね。余裕のコメント、でも私たちは第一試合も勝てるかわからないけどね。なんせキーパー私だから」
「えっ‼橿原さんがキーパーするの、ひょっとしてサッカー経験者だったりする?」
「まさか、初体験だよ。ただね、男子には死ぬ気で守れって言ってある」
「おお、なるほど、それはいい作戦だね、俺なら絶対シュート打たせないよ」
『サッカー第二試合始めます。選手は速やかに集合してください』放送があったので田邊と別れグランドのほうに向った。
さあ、始めようか。(女子の私がキーパーすることで攻撃陣に男子6名投入できる。キーパーの位置からだと大体全員の位置が把握できた。サッカーの知識があれば司令塔になれたかも)
相手チームの2年F組の生徒は口々に、「1年のキーパー女子だぞ」「サッカー経験者だろ」「あの子、動画の女子じゃない」「じゃあ、蹴りすごいんじゃあ」「キーパーに気をつけろ」と勝手に勘違いしている。
1年A組の主軸はサッカー経験者の侘ジュノン君と由良姫乃さんだ2人にボールが渡ると攻撃ラインが上がる。
侘と由良で相手を翻弄しつつ、絶えず相手ゴールを攻める。
シュートは何回か打ったがなかなか点につながらなかったが、前半終了前に、侘ジュノンのサポート役でよく一緒にいる友達、
その矢先、前半終了の笛が鳴る。
後半は、11対11だ1名のハンデがない分、私たちのチームのほうが弱い、向こうの攻撃に今度はこちらが翻弄され、なかなか攻めることができない。
攻守混戦を繰り返し皆に疲れが見え始めた時、由良姫乃が私にボールを回してきた。
それを受け取り、しばらく溜を作った後、敵陣地に向ってボールを蹴り上げたが、ボールは大きく上がりなんと自ゴールに吸い込まれた。(オウンゴールだ。始まる前に負けたら…、なんて考えていたのが仇に出た)
「橿原さん何やってんのよ」と由良姫乃に怒られたが完全に私のミスのため言い返す言葉もなく全員に向けて大きく頭を下げた。
痛恨のミスで1対1の同点、気分が落ち込んでいたら、侘ジュノンに「ドンマイ、ドンマイ」と言われた。
キックオフの時「そのボール俺のほうに軽く蹴りだせ、あとは任せろ」とかっこいいことを言って離れて行ったので、侘に向けてボールを蹴り出した。
侘はボールを受け取るとドリブルで前進しつつ、由良と矢口の三人のパスワークで相手を翻弄してゴールに迫り、最後は由良が押し込んでゴールを決めた。
おかげで2対1になったが、相手チームのキックオフそれも同じようにサッカー経験者っぽいのが2人ドリブルやパス、トリックっぽいしぐさまでしてこちらに向かって走ってくる。(このままだとヤバいな)
相手選手が近づいてきて見た顔だなと思った。(集団告白の時の先輩か)
もうここで、シュートを打つ瞬間で私はにやりと笑って「先輩、私のエロい写真取れましたかぁ~」と大声で言ってやると「なっっ‼」と言って、体勢を崩してぼてぼてのシュートを打って来た。
軽く手で取り「ありがとう、さすが先輩ですね。だめですよ。ここぞというときにミスっちゃ」と言うと「橿原、お前が言うな」と侘に言われた。
さっきと同じように侘に向けてボールを蹴り出そうかと思ったが、さっきより侘の位置が近いので手で投げたら、先輩といっしょに上がってきてた人がカットして、すぐにシュートを打って来た。
あまりに速い反応だったので、対処出来ず、でもゴールを奪われたくないという気持ちが出たのかシュートボールの前に出て捕るのは無理だから両手の腕をたてに重ね顔を守る位置でボールに当たったら思いのほか威力が強くてボールの軌道は逸らせたがそのまま飛ばされてしまい背中から倒れた。
そのタイミングで試合終了の笛が鳴ったが朝からの体調不良(女の子の日)もあったので意識を失くしてしまった。
目が覚めると、お約束の見知らぬ天井、保健室のベッドで寝ていた。
「どれだけ時間がたったのだろう」とつぶやくと横に居た誰かが「何キャラ?」と聴いてきた。
「いやぁ、橿原瑞希だけど」と言うと「良かった、記憶喪失にはなってないね」と言ってきたが「あなたは誰ですか?」知らない女子がそこに居た。
天成学園の制服は着ているが、色白で髪の毛の色が金色この世のものではないかのような容姿と神々しささえ伺える。
「私は神だよ。(痛い人か)いやいや痛くないから(あぶないひと?)危なくもないから(さっきから思考を読んでる)だから、神だと言ったでしょ。ちょうど君の意識が飛んだので、君の前に姿を現すことができたのさ。君をこの世界に連れてきたのは私だ。だから、サービスで美少女にしてやった。君はこの世界の異物なのさ」神と名乗った少女はそう言い放った。
「私が今までしたことは前世とは関係ないの?」
「関係なくはない。君のしたことを簡単に説明するとまず大竹亜沙美の死を変えた。次に、亜沙美の友達、伏見聖羅の人格が壊われることを阻止した。ついでに、三人組と大竹先生が犯罪者になることを止めた。次に、墨田麻生のことだがお前が呼び出した日、墨田はバイク事故で死んでいたんだ。結果、それを阻止した。後は、美術の仙賀康彦だが、君の前の世界では神崎さおりが犠牲になっていた。君のおかげで神崎さおりは普通の女子高生として過ごしていけるし、仙賀康彦もこれからは真面目に生きるだろう。大まかにいえばこんなところだが他に色々小さなことでやらかしていることはある。君も自覚はしているだろうけど、基本人たらしだからね。まっ、良くも悪くも君が係わることで君の周りの世界は楽しくなってるよ」
「私がこの世界に来たことで助かった人たちがいるならそれでよかった。それで、神様は私を迎えに来たのかな?それとも元の世界に戻しに来たの?」
「いいや、この世界で頑張ってもらうつもりだよ。橿原瑞希に係った人がみんな幸せになるようにさ、おっと、そろそろ時間だ。君の友達が心配しているからね。もう会うことはないだろう。それじゃあ頑張って楽しむんだよ」そう言って神と名乗った少女が消えた。(今のは何だったのだろう)でも今はすごく楽しい。
タイムリープは、「自分自身の意識だけが時空を移動し、過去や未来の自分の身体にその意識が乗り移る」という設定だが、俺のは少し違うと思います。 虻川岐津州 @pee_kar_boo
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