第4話 新しい生活への準備

 翌朝、香はいつもより早く目を覚ます。それでも唯は起きていて、朝食の準備をしていた。


「おはよう。唯ちゃん早いね。」

「おはようございます。香さん」


 香は何時頃から起きているのかを聞こうかと思ったが、今まで親によって強制されていたことを思い出させていてはいけないとおもい、あんまり以前までのことを思い出させることは避けたいので、聞くのをやめてしまった。しかし、その考えが二人の朝の会話を沈黙の時間に変えてしまった。


 香は、顔を洗い軽くシャワーを浴び出勤の準備を済ませる。すべての行動にたいして準備が整っている。それは唯がすべてをやっていた。香はさすがに違和感を感じてしまう。まるで準備されていることが当然のようだからである。少しづつ治していかなければいけない、唯に対して親や姉のような感情も芽生えていた。


「唯ちゃん。何でもかんでもやらなくていいからね」

「わたし迷惑でしたか・・・」


 唯は少し困惑していた。香はあわてて唯に返す。


「違う違う。2人で一緒にやろ。唯ちゃんはメイドさんじゃないんだから」

「香さんだったら、専属メイドでも・・・」

「いやいや・・・」


 香の中で、メイド姿の唯を想像して「ありかも」と思ってしまった。「違う違う」と思いながら、家に帰ったときメイド姿の唯を想像してたまらない気持ちになっていた。


「あの香さん?」

「ごめんごめん唯ちゃんのメイド姿想像してた」

「香さんが着ろといえば、あの、少し恥ずかしいですが、あの・・・着ますので・・・」

「いいってば・・・(こんど買ってこよう)」


 朝から、唯のかわいさにやられていたが、仕事に行く時間になってしまったので、朝食を食べ唯からお弁当を受け取り出発する。


「じゃあ唯ちゃん行ってくるね」

「はい行ってらっしゃい。ご主人様。なんて・・・」


 2人は顔を真っ赤にする。


「うん・・・行ってきます」


「これはヤバい・・・」


 香はしばらく顔の赤さがとれなかった。


 その反面、唯は香を送り出した後、食器を片付け学校に行く準備を始める。


「さてと行かなきゃ」


 唯は戸締りをして家を出る。学校に向かうがその表情には少し曇りがあった。それもそのはずで、学校に行っても友達はおらず、ただ一人で机に座っているだけだからだ。少し足取りは重いが、香に言われた「ちゃんと学校に行きなよ」この一言が心に残っており学校へと向かっていた。




 香は会社に到着した。いつものように仕事こなす。昼休み後輩から声をかけられる。


「香さん今日もお弁当ですか?」

「うんおいしそうでしょ」

「香さん、もしかして男でもできました?」

「え?そんなことないよ。あんまり興味ないし」


 香は、お昼ご飯がお弁当に変わっただけで、色々うわさされるものだと感じる。それもそのはず、香は社内ではできる女として認知されており、美人であるが仕事以外は残念なところが多いことで有名だった。


「いまね、わけあって一人女の子を預かっているのよ。その子がまた良くしてくれるから、おかげで家事とかやってもらって、助かっているのよ」

「えー男じゃなくて彼女ですか(笑)」

「そんなわけないでしょ」


 そんなとき香はふと後輩にたずねる。


「ねぇそういえばいい不動産屋とか知ってたら紹介してくれない?」


 後輩は少し考えながら


「私が部屋を借りている不動産屋でよければ紹介しますよ」


 香はすぐさま返す


「今日、仕事終わりは空いてる?」

「別に、問題ないですよ。引っ越すんですか?」

「一人ですむようの部屋だからね。二人で住むにはちょっと狭いのよ」


 香は後輩と約束を取り付けて帰りに不動産屋によることにする。



 一方、唯は一人で昼ご飯を食べていた。いつもの光景だが、そんな時クラスメイトが声をかけてきた。


「こんにちは、唯さん。一緒にいい?」

「え?あ・・はい・・」

「最近、学校来てなかったけどどうかしたの?」

「あ、うん・・・家の都合でなかなか来れなくて・・・」

「これからは、学校に来れるの?」

「た、たぶん・・・」


 いろいろ質問ばかりされているが、実は唯はクラスメイトの名前がわからない。クラスメイトの視線を感じながら、唯は少し緊張していた。その瞬間、彼女の心は複雑な感情でいっぱいだった。誰かが自分に話しかけてくれることは久しぶりのことで、その意外性と嬉しさが交錯する。しかし、その一方で、この突然の変化に戸惑ってもいた。


「唯さん、もしかして私の名前わからない?あんまり学校来てなかったもんね。」


 唯はその言葉にほっとした。クラスメイトが自分から話を切り出してくれたことで、会話がしやすくなることを感じた。


「私の名前は美奈みな。ちゃんと覚えておいてね。唯さん。」


 美奈との会話は驚くほど自然に流れ、唯は少しずつ心を開き始めた。昼休みが終わる頃には、唯と美穂は笑顔で話をしていた。


 その日の放課後、唯は香にその出来事を報告するためにメッセージをいれた。


 香はそのメッセージを見て、心から嬉しく思った。唯が学校で無事に楽しくやっていることを知れたからだ。その嬉しい気持ちは心を穏やかにし仕事に集中することで、いつもより効率よく仕事ができていた。


「今までの残業は何だったんだろうか」


 プライベートが充実することで、仕事に影響が出ることを知った香は、これからは仕事とプライベート、どっちも大事にすることを誓った。



 仕事を終えた香は、後輩と約束した通りに不動産屋へと向かった。唯と二人で住むための部屋を探すことに、香にとって自分以外の人と住む部屋探しはなかなか進まずにいた。その中でも不動産屋で見つけた数件の資料をもらい検討することに。


 香は家に帰ると、今日もちょうどよく出来上がっている唯の料理を食べながら、今日の出来事を話した。食事の後、唯と二人でもらってきた資料を一緒に見ながら、どんなとこに住みたいか聞く


「唯ちゃんはどんな所に住みたい?」

「香さん。私は香さんが住みたいところならどんな所でも・・・」


 唯は少し遠慮気味に返答する。


「唯ちゃん。今度の休日に見に行こうか?そのほうがわかるイメージできるから」

「香さん。無理して引っ越さなくても大丈夫ですよ・・・」


 香はそっと唯を抱きしめる。


「唯ちゃん。私は唯ちゃんとの生活を楽しみたいの。唯ちゃんがそばにいてくれるだけで、とっても充実している。まだ数日だけど、これからも一緒にいてほしい。ダメかな?」


 唯は、香にそっと抱きつき小さい声で返事をする


「はい。よろしくお願いします」


 その夜、二人は次の休日の予定や、どんな部屋を選ぶのか話し合った。共に過ごす時間が増えるようにすること、新しい生活への期待、そして互いへの感謝の気持ちを改めて確認し合った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ワーカーホリックなOLが女子高生を拾ったら天使だった件 あらやん @arataworks

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画