第11話


さて、この世界においてメジャーな依頼の中に、【お使い】というものがある。

これは文字通りのお使いであり、金をやるから指定の場所て指定のものを買って来いという内容の依頼である。


一見この依頼は簡単そうであり、そもそも他者に依頼するほどの内容でもないように思えるかもしれない。

が、それは違う。

何故なら、この世界は現代社会とは比較にならないほど、治安が悪いからだ。

それこそ、街中でも油断はできず、裏通りならいつ襲われても文句を言えず。

街の外にもなると、盗賊やモンスターなど、一般人なら死を覚悟するほど。

もちろん、危険なのは道中だけではなく、売買も。

詐欺や品悪はもちろんのとこ、相場が違うや売人が強盗の類だったなんてことも日常茶飯事。

さらに、そこまでやってこの依頼はどこまで言っても客商売の延長。

そのため、取引相手の機嫌を悪くするのは言語道断であり、ある程度の見た目や愛想も必要となってくるわけだ


それゆえ、お使い依頼では、通常の依頼とは違い、武力だけではなく、知性や信用などの総合力が大事になってくるのだ。

道中を安全を確保できるだけの武力に、価格や相場を理解できるほどの知性。

取引をごまかさないと断言できるほどの信用と取引相手を不快にさせない程度の愛想が大事になってくるというわけだ。


で、その条件に程よくあてはまるのが、魔術師ギルドになるわけで。

大手取引なら商人ギルドになるが、個人でのやり取りなら魔導士ギルドに頼むのが通例となってくる。

それゆえに、ギルド内でお使い依頼を任されるのが、ギルド内でいっぱしの魔導士として認められた証になり、熟練のギルド魔導士ともなれば、お使い依頼だけで一生食べていけるほど、だ。


「と、いうわけで、今回もレムさんにはローコスで占術用水晶玉の仕入れをお願いしたいのです。

 いつも通りお値段はこちらで用意するので、できるだけ高品質で、でもできれば安いのをお願いします」

「はい♪了解しました!」


だかこそ、お使い依頼と言えど、こうして指名依頼されるのはやぶさかではない。

ないのだが……。


「あ!おまえ、次の依頼でローコスへ買い出しに行くのか!

 それじゃぁついででいいから、魔法書類用のインクを買ってきてくれ」

「む、それなら私は本を頼みますよ。

 このリストに書いてるのを、ここからここまで。

 ここからここまでは、できれば二冊お願いします。

 頼みましたよ」

「おぉ!ローコスに行くそうじゃねぇか!

 なら、そこから少し北東に行って、テマナで電撃属性の砥石を買って来てくれ!

 な~に、報酬はたっぷり出すからさ!」

「テマナ!テマナといったかニャ?

 なら、あそこで売られている温泉卵を買ってきてくれにゃ!

 あの温泉卵は最高にゃ!!しかも食べると寿命が9年増えるのにゃ!

 金は払うにゃ~~!だから、お願いにゃ~~~!!」


でも、流石にこの量は予想外なと言わざる負えない。

というか、お使いだからと引き受けるからといって、日ごろ交流をしてない人からも頼まれるのは自分の人望からか、それほどまでに信用できる運び手が不足しているからか。

おそらくは両方であろう。


「はぁ!?おめーのは別にいいだろ!

 個人の買い物で、緊急性も重要性のねぇじゃねぇか!」

「にゃ~~!!そっちこそ、そんな大事な物なら商人ギルドに頼めにゃ!

 それぐらいの金はあるはずにゃ!」

「テマナには、商人ギルドのやつらいかねぇんだよ!

 しかも、金払っていかせても粗悪品買ってきやがったんだ!

 おめぇこそ、商人ギルドに頼みやがれ!」

「おい、なんでもいいが私の依頼はギルドとしての依頼でもあるからな?

 そこのところを忘れないでくれ」

「む!それなら私の依頼は、街の重役としての依頼です!

 他のよりも優先してこの本を買ってきてください」

「な!卑怯だぞ!というかどう見てもそれは、職権乱用だろ!」

「議論なんてそんな野蛮な…ここは穏便に暴力で…」

「つまりは、バトルロワイヤルをすれば、一発解決……ってこと!?」


しかし、このまま放置すればまたいらぬ争いが起こりかねないわけで。

かくして当初は旅行ついでのちょっとの小遣い稼ぎのつもりが、なぜか大量輸送依頼をする羽目になってしまったのであった。




「……う~ん、予想外の量」


そして、早数時間後。

私はとある隊商の荷馬車の中で、渡された買い物リストを確認していた。

なお、リストにかかれているものはローコスとその周辺で買えるものだが、なかには結構離れた場所まで買いに行かねばならないものまで書かれていた。

いや、自分に頼むなや。


「……ワンチャン、キャラ替えも視野に入れなければですね」


普段の私なら、買い物依頼はテレポート系の魔法でちゃちゃっと終わらせるのだが、今回の馬車の旅がメイン。

その上、依頼は販路の調査という側面もあるので今回はやめておいた。


「お!ねぇさん、レムねぇさんやないか!

 こんなところで合うとは、奇遇やなぁ!

 久しぶりや、元気にし取ったか」


さて、そんな風に黄昏ていると、一人の皮の外套を身に着けた女性が話しかけてきた。

彼女の名はネカナ。

カワイイ赤髪が特徴の同じ魔導士ギルド『黒猫の鳴き声』の後輩。

さらにいえば、私がこの世界に来たばかりで、まだ世界慣れしてない時期に、パーティを組んでいた元パーティメンバーでもある。


「そちらこそ、久しぶりです。

 最近は結構な活躍をしていると聞いてましたが……。

 お変わりないようで何よりです♪」

「む~!うちかて最近は最長してるんやで~?

 まぁ、ねぇさんにそう言われても悪い気はせぇへんけど」

「知ってますよ♪

 最近は、傭兵としてそこそこんを上げているそうで。

 貴方の先輩としても、鼻が高いです」

「いややわ~♪

 まぁ、私はレムねぇさんの後輩として?

 これ位は当然やで!」


ネカナはこちらが褒めると、ニコニコと笑みを浮かべる。

実はこのネカナは、魔導士ギルドに所属はしているが、同時に傭兵ギルドにも所属し、そっちでも活躍しているのだ。

なんなら、傭兵ギルドの中堅クラン【嵐の剣】のリーダーをしており、その筋ではちょっとした有名人でもあったりする。


「ということは、今回隊商についてきているのは、やはり仕事ですか?」

「せやな!最近この辺の街道に盗賊が結構出るから、そのための護衛やな!」

「あら、頼もしいですが……。

 戦力は、十分ですか?」

「む?ねぇさんともあろう人が、うちの戦力を見余っとるんか?

 こう見えても、最近のうちは力も結構のあるんやで!」


ネアカはそう言いながら、腕をまくり、力こぶを見せてくる。

が、残念ながら彼女の体格はお世辞にもいいとは言えず、不安しか感じない。

昔から彼女の性格を知るものとしては、彼女は要領がいいため、失敗する依頼を選ばず、今回もおそらくだが大丈夫そうだからこの依頼を選んだのだと推測される。

が、それでも彼女の方を見やると、彼女自身の腕はそこそこだとして、【嵐の剣】のメンバーが数人程度しか連れてきていないようだ。

視覚的にも先輩としても、心配になってくるのが本音だ。


「ともかく、この辺はうちの庭やさかい。

 大船に乗ったつもりで、いたってや!」


ネカナの台詞を聞きながら、いざという時のために多人数用テレポートの準備をしておくのであった。




さて、翌日の早朝。

結論だけで言えば、自分の心配は杞憂であった。

確かにこの辺の治安は悪化しているのも真実であり、実際に盗賊の襲撃があった。

しかし、ネカナ含む嵐の剣の一団は事前にその盗賊の襲撃を察知。

奇襲したつもりの盗賊を、逆に奇襲し、全員お縄に掛けたというわけだ。

これだけを聞けば、ネカナは斥候能力の高い素晴らしい魔法使いだとほめるところであろう。

嵐の剣も、あっという間の盗賊を返り討ちにできる頼もしい傭兵団だといえるであろう。



「てめぇええええ!!サリア、裏切ったぁあああ!!!」

「ふざけんなあああああぁぁぁ!!」

「ん~~~?なんのことですか?

 私達はローコスの正義の傭兵ギルドのクラン【反逆の矢】。

 たまたまここで盗賊を発見したから、近くにいた【嵐の剣】と協力して、討伐しただけですが?」

「せやせや!【反逆の矢】が正義の傭兵であることは、うちもよ~くしっている。

 せやから、偶然盗賊団の後ろに現れて、偶然うちらと挟み撃ちにできたというわけや!」


……もっとも、やり方があまりにも汚いが。


どうやらネカナは事前に盗賊団を特定にしており、そこのとある一団【反逆の矢】と内通済みだったらしい。

それゆえに、彼らを見逃すことを対価に、奇襲時間や場所を事前に打ち合わせ。

襲撃当日に、残りの盗賊団を殺しの間に誘導し、【反逆の矢】と【嵐の剣】の2つのクランでそのまま討伐したというわけだ。


「……色々と大丈夫なんですか?」

「まぁ、多分大丈夫や。

 というか、元盗賊の傭兵クランなんて珍しいもんじゃあらへんし。

 一応【反逆の矢】の連中は、仕事以外では悪人以外殺さないタイプやし、大丈夫やろ」


う~ん、それもそうだが、個人的には盗賊と内通したり、裏切ったりと彼女らの風評の方が不安なのだが……。


「それに関しては大丈夫や!

 基本傭兵なんて、成功してなんぼなんや!

 それにやっぱり、うちも義理人情の人間やから?

 できるだけ、死者は少ない方がええ!」


う~~ん、色々と突っ込みどころの多い理論である。

が、もし盗賊と正面から戦った場合、奇襲であることや隊商を守りながらの戦いであることを考慮して、少なくない被害が出たであろう。

そう考えると、今回の方法は味方の被害は当然少なく、なんなら敵の被害も少ない、素晴らしい方法と言えなくもないだろう。


「う~ん、こいつら生きて捕まえたはいいものの、どうせ持ち帰っても半分は処刑されるに決まってますので。

 持ち帰るのも面倒ですから、ここで半分殺しておきます?」

「……!!いや~~~助けて~~!!」

「あ!まって!

 それなら、うちの知り合いの盗賊ギルドでそいつらを売るから!!」


しかし、それが分かっていても目の前の光景はいかんともしがたく。

たくましく育った後輩を、複雑な気持ちで見つめるのでした。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

TS主人公のチートスローライフ(仮) どくいも @dokuimo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ