本当の真実の愛の相手

「真実の愛を見つけたんだ」

「真実の愛」


婚約者の言葉に思わず私はオウム返しをした。

真実の愛とは。

それでは私たちの関係は、真実の愛ではないということになる。


「僕たちの関係は真実の愛ではないんだ」

「なら、なんだったというの」


考えていたことが口に出てしまったのかと驚いたがそうではないらしい。

婚約者は、私の目を一切見ていない。


「僕たちはしょせん、血筋しか見ていない」

「そうね。強い魔法使いを産むことが私とあなたの一族の願いだもの」

「それが嫌なんだ!」

「……そう」


強い魔法使いの家系からは強い魔法使いが生まれる確率が高くなる。

馬と同じだ。

強い馬と馬を番わせれば、強い血統馬がうまれるように、私たちの一族もまた強い魔法使いを輩出するために、純血の魔法使い同士と結婚させ、子どもを産ませた。

そのおかげか、私は国でもそれなりに名の知れている魔法使いだ。

広範囲の魔法を何発打っても疲れ知らず。

おかげで王族のお墨付きまでもらえて、将来安定。

子どもの誕生を待ち焦がれているまである。


「でも、あなただって、練習すればもっと国のために働けると思うの」

「僕は…もうそういうのは嫌なんだ」

「なるほど」


彼が言いたいことはなんとなくわかった。

彼が私にコンプレックスを抱いていることは知っていた。

彼は、有名な魔法使いの家出身だけど、魔法を苦手をしていた。

血筋だけは立派だから、魔法学校でもさんざん馬鹿にされ、婚約者の私に劣っているといつも言われていた。私が優秀だからいけないのだと怒鳴るほどには、追い詰められていたらしいことも。


「それで、真実の愛とやらはあなたを救ってくれるのかしら」

「君といるよりはましだ」

「そう」


ならば、私から言うことは何もない。


「お好きにしたらいいわ」

「……君はいつもそうだ。僕のことなんて最初からどうでもよかったんだ」

「だって、政略結婚だもの」


もともと、強い魔法使いを産むという目的のためだけに選ばれた婚約者だ。

私の意見なんて、聞かれていない。

それなのに、どうしてそんな目で睨むのだ。

あなただって、私と同じはずなのに。


もともと、私の家は実力不足の彼を嫌っていて、私たちが婚約破棄することについてなにも言わなかった。むしろ、歓迎してるふしまである。

彼の家は逆に怒り狂っていたようだった。

血筋は良いものの、実力はてんで追いつかず、いくら努力しても実を結ぶことない彼に煮え湯を飲んでいた気持ちらしい。

彼の弟を私の婚約者にと言われたが、さすがにそれは拒否した。

彼の弟は、15歳。私と10歳も離れている。

私から見たら、子どもでしかない。


「では、あと5年まてばお嫁さんになってくれますか?」


とは彼の弟の言葉である。

私に5年の間、結婚せず、彼氏も作るなというのか。と問えば、「はいっ!僕、きっといい男になります」と笑顔満点で言われたときは、天を仰いだ。

あと、5年待ったら30歳である。

結婚が難しくない年齢ではあるが、優秀な魔法使いを産むためには、少々年齢がネックになる。魔法使いはエリートぞろいである。ただでさえ、年齢が若ければいいという風習が強いというのに、30はさすがにつらい。


「さすがに待てないよ」

「なら、一夫多妻?一妻多夫でもいいよ!」

「……いや、さすがにそれは」


私がつらいかも。

そういうと、彼の弟は、うるうると目を潤ませた。


「どうして私なの。あなたくらいの年齢ならほかにもいい子はいくらでもいるでしょうに」

「あなたがいい」

「ええ…?」

「あなたがいいのっ!」


ついには、わあんと泣いてしまった。

15にもなるというのに、感情に振り回されるとは…。なんというか可愛さが先に勝ってしまう。

よくわからないけど、私を気に入ってくれているようだ。


「兄さんばっかりずるい。実力不足で、隣に立つのもおこがましいレベルなのに血筋だけであなたと結婚できるんだから」

「それはさすがにいいすぎじゃ」

「僕ならっ!実力もあるし、血筋は言わずもがなっ!よ、…夜の生活だってあなたを満足させてみせますっ!」


確かに彼の弟の話は耳にしている。

魔法学校でも学年主席を何年もキープしているだとか。

彼の一族でも随一の才能の持ち主だとか。


「……じゃあ、5年経ったら絶対迎えに来て。迎えに来なかったら、不能になる呪いをかけさせてくれるなら許す」

「喜んで!」


冗談で言った言葉に、喜ぶ要素がどこにあるというのか。

少年は無邪気に笑った。

それであなたを縛れるなら、喜んで呪いを受けるといった。


まだ、幼いがゆえの言葉だろう。

いずれ、このかわいらしい少年も彼の兄と同じように裏切るかもしれない。

私は、促され、呪いを少年につけた。


そして5年後。


「迎えに来ました」


立派になった少年の面影を残した青年へと成長した彼は私を呪いの通り、迎えに来た。


「ああ…!あなたがようやく私の妻になるとはっ!」

「いいの?ほんとうに私で」

「もちろんです!あなたが私の真実の愛なのですから」

「……ん?」


真実の愛。

私は昔、その言葉を聞いたことがある。


「兄さんも馬鹿だなぁ。ほいほいと簡単に騙されちゃって。おかげで、僕は欲しい人を本当にお嫁さんにすることが出来た」

「ん?ん?」


気にしなくていいですよ、と元少年が笑った。

そういえば、元婚約者は、真実の愛の相手に浮気されたと聞いた。

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婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから 猿喰 森繁 @sarubami

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