旦那の借金返済のため、出稼ぎに行って帰ってきたら旦那が他の女を抱いていた。

「あんっ♡あんっ♡」

「ああっ!気持ちいいよ!サラっ!」

「私もよ!レオっ!」

「……」


私は、そっと扉を閉めると、家を出ていき、走り出した。


「このくそ野郎おおおおおお!!!!」


私に借金を返させておいて、お前は女を抱いていたのか、クソ野郎がっ!

遡ること半年前。


「実は、借金が返せなくて」

「はぁ?」


結婚して1年だった。

私と彼は、同じ魔道具を作る職人であり、同じ工場で働いているときに知り合い、結婚した。

多少、家事をさぼっても、出した料理が失敗しても、セックスを拒否しても何も嫌な顔をしない理想の旦那だった。

半年前までは。


まさか借金をしていたとは。


「額は?」

「……200万」

「200万っ!?」


お互いの月々の手取りが17万。それからボーナス夏が30万、冬は50万が出る。

財布は別々で管理しているため、旦那の金遣いについて私が知ることはなかったが、それがここにきてあだとなった。


「一体、何に使ったの」

「……」


旦那は私から目をそらした。

かなり後ろめたいのだろう。


「怒らないから」

「本当に?」

「ええ」

「お、」

「お?」

「女の子を…買っていました…」

「この野郎!!!」

「怒らないって言った!」

「怒ってない!呆れてんのよ!どうして200万も使ったのよ!バカ!」

「だって…だって!彼女がバースデイで!」

「バースデイ?私だって先月バースデイだったわよ!あなたがくれたのはケーキとチキン!プレゼントなんて何もなかったじゃない!」

「ケーキとチキン買ったじゃない…」

「それが成人女性に対しての適切なプレゼントだって本気で思う?その女の子にもケーキとチキンプレゼントしたっていうなら許す」

「した」

「それと?」

「それと?」

「ほかにもあげたんでしょ。なにプレゼントしたのよ」


もごもごと旦那は口ごもった。


「……指輪」

「私にもそれ渡せよ!」

「だって、君にはもう婚約指輪と結婚指輪を買ってあげたじゃない!」

「折半でね!あなたが100出してないじゃない」

「だって……」

「指輪ってなによ……まさか……あんたがコツコツ作ってたあれ…?」

「うん」

「ああああああ~~~」


納得した。

旦那が高い金を出して買った魔石アメジスト。質がよく、高い魔力が込められていた貴重な一品。自分で作るのも勉強だからとか言っていたから、仕事熱心なのね、と感心していた私を殺せ。もしかして、私にプレゼントしてくれるんじゃないかってウキウキしていたのに。どこの誰かも分からない女の子にプレゼントするなんて。


「ふざけんな…」

「それでこれ……」

「なに…?」


借金返済の催促状だった。


「え?これ…2か月も滞納してるの?」

「うん…早く返さないと、この屋敷を借金のかたに売り飛ばすって言われて…」

「~~~~~~っ!!!!」


もう様々な感情がこみあげて、私は叫びだし、転がりたい気分だった。

この屋敷は、私の両親の遺産、そして私が長年コツコツと積み上げてきた貯金、そしてこれからの人生を担保に買った自慢の屋敷だった。

つまりローンを組んでいるのだ。

その屋敷を奪われるだと?


「……これは出稼ぎに行くしかないわね…」

「出稼ぎ?」

「実は帝都のほうで魔道具師の大規模募集をしているらしいの。私、そこに受かったのよ」

「それはすごい」

「ただし、かなりの重労働らしくてね。前金がなんと50万」

「50万!!!!すごい!」

「これだけ破格の金額をくれるということは逃亡防止ってことよ」

「すごい…これだけあれば借金はすぐに返せるね」

「なに呑気な顔してるのよ!あなたの借金でしょうがっ!」


のほほんとしている旦那に腹が立つ。

なに他人事みたいな顔してるのよ。

あなたの借金でしょうが。


結婚とは、二人の共同作業。

お互いがお互いの人生の船に乗り、互いにオールをこぐ作業だとか、なんとか聞いたことあるけど、こいつオールを私に預けすぎじゃないか!?

お前のオールを預けるなって歌があるだろうがっ!


そんなわけで、私は旦那の借金を返すために帝都に行き、もう、めっちゃ頑張った。

それはもう頑張った。

住み込みの仕事だからと、1日12時間労働は当たり前。

31日連勤は当然、昼も夜も、魔道具を作って、作って、作りまくった。

もう魔道具職人飛び越して、魔道具精製工場とまで言われるようになった。

質より量。

とにかく作りまくった私は職人としての腕も上がった。

おかげで、帝都の工場からこのままいてほしいとの声もあり、給料も昔の職場に比べたら、かなりの額をもらえるようだった。

しかし、屋敷に残した旦那が心配だった。

私は、とりあえず旦那に相談してみます、と告げ、屋敷に帰ったのだが…。

その結果がこれだ。


人の屋敷で女を抱くとは。

しかも妻の私は自身の借金返済のため、出稼ぎに行かせておいて。


こうなれば離婚である。

私はさっそく弁護士を雇い、まぁなんやかんやあって離婚をすることになった。

屋敷の名義は私の名前だったし、旦那の稼ぎがなくても、当然暮らしていける私。

旦那はかなり渋っていたが、お前が渋る権利はねぇと私と弁護士先生が頑張ってなんとか離婚をとりつけた。


私は、頑張って買った屋敷を手放し、帝都に飛んで帰った。

そのあとは、仕事が旦那とばかりに頑張ったおかげで、あのときよりはいい暮らしをしている。


元旦那は、なんとかよりを戻そうと毎月、手紙を送ってくるが、私は無視をしている。

近々、引っ越すつもりである。

弁護士にも相談して、私の住所を知る権利も接近禁止命令を出してもらうことにした。

あとは、もう知らない。


旦那はしょうこりもなく、借金をまたしているらしいと風の噂で聞いた。

しかし、手を出したのは闇金らしく、どこかの国に売り飛ばされたとも。

しばらくして旦那の手紙が届くことはなくなった。


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