そんなに幼馴染がいいなら、慰謝料払ってでも別れます

「お前との子どもは作らない」

「え」


婚約者であるオリバーの言葉に、私は一瞬なにも考えられなくなった。

彼の言葉が理解できない。

確かに愛はないのかもしれないが、夜の相手を作らない=子供を作らないということだ。そんなの許されるわけがないのに。


「お前は俺と結婚をする」

「はい」

「しかし、お前が一番ではない」

「……?」


どういうこと?


「俺の本当の妻は、メアリーだ」

「…呆れた。まだあの子との関係を続けていたの」


メアリーはオリバーの幼馴染だ。

美しいブロンドはいつだって綺麗にまかれて、ピンクのリボンで結ばれている。ピンクとフリルのたくさんついたふわふわのドレス。赤いリップが似合う可愛い女の子。

そんな彼女にオリバーが昔から夢中だったのは知っている。

甘えた声でオリバーを呼ぶと、デレデレとしてみっともなかった。

いつだってわがままで、オリバーの腕や腰に抱き着いていた。

私たちのデートの時でさえ、メアリーが割り込んできたのには、さすがに驚いたけども。


「ちょっと。あなた少しわきまえてよ。一応、私たちは婚約者なのよ。今日はデート。あなたがいたら邪魔なの」

「……くすん」


私の言葉にメアリーは泣いた。

ぽろぽろと大粒の涙を流すメアリーを守るように、オリバーは彼女を抱きしめた。


「なんてことをいうんだっ!彼女が泣いてしまったじゃないか」

「事実を言っただけよ」

「ご、ごめんなさい…わたし、ただあなたと仲良くしたくて…それにオリバーがいないと寂しくて…」

「俺もだよ、エミリー…」


そういってオリバーは私をそのまま一人にするとエミリーと一緒に去ってしまったこともあった。さすがにこれでは、この男と結婚することはできないと両親に相談して、彼との婚約を解消することにしたのだが、慌てて止めてきたのが、オリバーの両親である。


「あなたがたがご子息との結婚を進めてきたというのに、話が違うではありませんか。仲の良いお嬢さんがいるのであれば、そちらを優先させたほうがよろしいでしょう。この話はなかったことにしましょう」

「ま、待ってください。それでは困ります!」

「困ります?…私の娘はお前の息子に恥をかかされたんだぞっ!」


父の怒鳴り声に、向こうの両親が震えあがっている。

肩がぶるぶるとふるえており、未だ怒りが収まらないらしい。


「私も、もうオリバーとは会いたくありません。あれほどの失礼を受けたのは初めてです。いまの私たちの関係で、こんな扱いを受けて、それで結婚生活がうまくいくとは思えません」

「それは、私たちのほうでなんとか言いますので」

「べつに結構です。お構いなく」

「では、私たちは失礼します」

「も、申し訳ございません!でしたら、息子の縁を切らせていただきますので、なにとぞご容赦を…」

「いや、そこまではしなくても」


オリバーの両親は土下座している。

別に息子が誰と結婚しようといいじゃないか。


「いいえ。あんな出来損ないこちらも不要です。大事なお嬢さんを傷つけたとあっては、こちらも相当の罰を与えなくてはなりません」

「ですが、何も縁を切ることなんてありませんよ。彼がかわいそう…」

「であれば!」


オリバーの両親が顔を上げた。

瞳はギラギラと輝いている。

私は、その目力に思わず引いてしまった。


「婚約解消、考え直してくれませんか」

「図々しい。ミア。構うな、帰ろう」

「……本当に、オリバーに伝えてくれますか。次はないと」

「ミア!」

「ええ!もちろんです!絶対にあなたを一番にするように伝えます」

「それからメアリーさんを二度と私の視界に入れないでとも」

「ええ!ええ!もちろん!あの子は、平民のくせして私たちに取り入ろうとしていて、私たちも目障りだったんですよ。いい機会です。身分相応の恋というものを教えましょう」

「……わかりました。でしたら、婚約解消はなしにします」

「ありがとうございます!お嬢さま…」

「ミア、いいのか?」

「ええ。1回だけでは可哀そうだもの」

「お前は優しい子に育ったな」

「お父様の子ですから」


回想終了。


両親からさぞキツク言われていたのだろう。

メアリーの名前すら出すことはなくなり、まるで最初から僕は紳士でしたみたいな顔で私に接してきたのには、少々頭にきたが、悪い男ではない。だから、気にせず結婚式の段取りを決めていたのに。


「内緒で会っていたのね」

「彼女には俺が必要なのだ」

「あなたと私のお金がね」


メアリーという少女は、金遣いがかなり荒かった。

オリバーは彼女の欲しいものをなんでも買ってあげて、さらには実家のお金にも手を出し始めたと聞いたときは、どうしたものかと悩んだ。

だからこそ、土地や家の売買を生業としている私たちに目をつけたのかと。


「それで、わたしとの子どもを作らないでどうするの」

「メアリーとの子どもを俺たちの子供とする」

「それで、メアリーはわが物顔で我が家の財布を握るわけね」

「違う。彼女の美しさを引き立てるには、巨額の資金が必要なんだ。必要経費だ」

「じゃあ、あなたが面倒を見てください。付き合いきれません」


沈むとわかっている船に誰が乗るというのだ。

やはり彼は駄目だった。


「私、やっぱりあなたと婚約破棄するわ」

「婚約破棄すると、慰謝料をとられるんだ。知ってるか?」

「ええ。知ってます。手切れ金と思えばいくらでも払えますよ」

「そうか。なら仕方ない」


なんかもうどうでもいい。

お金で解決できるならお金で解決してしまおう。

私はこのことを両親に伝えると、少ししてから、この国を去った。

すべてがどうでもよくなったからだ。

両親は、ともに私についてきてくれた。

事業は、どこに行っても出来ると言ってくれたのが心強かった。

親戚に仕事を引き継ぎ、私たちは遠く離れた国で、暮らすことになった。



「この国に来るのも久しぶりだなぁ」


変わらない景色。

親戚に誘われて遊びに来たけど、懐かしい気持ちで外を眺めた。


あれからメアリーとオリバーは、ずいぶんと色々なことがあったらしい。

メアリーはとにかく金のかかる子らしく、苦労したと聞く。

おまけに金目的で男に頻繁に抱かれていたらしく、病気が発覚したそうだ。

メアリーと関係を持っていたオリバーも同じく病気を移されたと聞く。


「私の慰謝料が役に立ったみたいでよかったわ」

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