第10話 お前久寿餅か何か?

 その後、騒ぎを聞きつけて慌てて教室へ入ってきたジョーにより俺たちは引き剥がされた。

 ケイとカリンも「え、あのルカ?」と、かつての親友が目の前にいることを認識したようだ。


「悪い! ルカがこっち帰ってきてるの忘れてたわ!」

「お前なあ……」


 みんなで廊下を歩きながら、ケイに両手を合わせて頭を下げられる。

 本当だよ。

 どうなってんだよ。

 お前だけはお袋つながりで知ってただろ。


「つーか、ルカっちも、もっと早く会いに来いし。磯臭いじゃん!」

「俺は海藻か何か?」


 水臭い、の間違いだろ。


「きゃはは!」


 何笑ってんだ。


「忘れてたオレたちも悪かったけどよ、ルカもルカだぜ」

「は? 何でだよ」

「いやお前、いきなり胸ぐら掴んでくるなんて誰だってビックリすんだろ……」

「……」


 きちんと口でまずは説明しろよ、と言われて俺はぐうの音も出なかった。


「……悪かった。俺も、お前らに会うのが楽しみすぎて情緒がおかしくなってたんだよ」

「ダハハ! オレもまた会えて嬉しいぞ!」

「アティシも〜。つーかさ〜」


 カリンが振り向いて、ジョーの姿を捉える。

 桃色のいんなーからーが入ったツインテールをぶらんと揺らしながら。


「ジョー? マジおひさじゃん。学校一緒だったんだね」

「え、ええ……」

「ね、なーんであん時勝手にいなくなったん?」


 嫌味っぽく尋ねる彼女の目は、全く笑っていない。

 え、怖……。

 質問というより尋問だ。

 急に空気変えていくじゃん。


「カリン、それは食堂着いてからにしてくれ」


 と、彼女を制止する。

 そういう積もり積もった話をするために、俺たちは座れる席がある食堂へ場所を移そうと歩いているんだろ。

 ついでに俺も部活動の設立のことで話したいことがあるんだから。

 しかし、納得のいかない様子のカリンにぎろりと睨みつけられた。


「は〜? アティシに指図すんなし」

「あ? デコピンすんぞ」


 昔からいうことを聞かないというか、生意気なクソガキだった彼女に対して、デコピンで態度を戒めたことがあった。

 当時の癖で、思わず中指の爪と親指の腹を合わせてすぐピン出来るように構える。

 が、さすがに小学生の時にやってたことだ。高校生になった今ではきかないだろう。


「それやだ! あーもう、痛ったーい!」

「まだやってないけど」


 いやめっちゃ効くじゃん。

 触ってないのに効くなんて、まるで虫コナ◯ズじゃん。


「まあまあ二人とも! 食堂までの我慢だ!」


 ケイは快活に笑う。


「そしたら存分に殴り合うといい」

「いや、そういう目的じゃないから」


 ◇◇◇


 食堂は、がらんとしていた。

 ありがたいことに、放課後はこの場所を開放してくれているはずなのだが、誰もいない。

 部活もあるし、昼と違って営業はしていないから、駄弁りたい生徒はファミレス行くからね。仕方ないね。

 利用率が低いのは好都合ではある。

 入口からは少し距離を置いた机を陣取り、四人で腰掛ける。

 

「えー、あらためてだけど、久しぶりだな。三人とも元気にしていたか?」


 まず俺が切り出すと、みんなは三者三様の表情を浮かべていた。


「元気にしていたぞ! ルカこそ、また戻ってきてくれて嬉しいな!」

「ケイは変わらねえな」


 変わったのは髪型くらいか。

 昔は坊主頭だったのに、いまは短く揃えられた髪を整髪料で立ててお洒落しているんだもんな。

 俺もこだわった方がいいだろうか。


「ルカこそ! お前がいなくなって、オレはすげえ歯応えがなくなった!」

「お前久寿餅か何か?」


 日本語おかしかったけど、柔らかくなったの?

 口に出したら久々に久寿餅食べたくなってきたじゃねえか。

 あの川崎名物、正月とかに大師へ初詣に行ったばあちゃんからお土産によくもらうんだよな。

 美味しいから好きなんだけど、登戸にいるとわざわざ川崎駅の方まで買いに行くのは面倒なの、あるあるだと思う。

 ケイは俺の指摘を意にも介さず快活に笑う。


「とにかく、だ! すげえつまらなかったんだ!」

「俺もだよ。これからはまた遊ぼうぜ。実は、新しく部活を作ろうと——」


 すると、不意に、


「ね、ジョー、アンタ言うことあるっしょ」


 カリンが俺の言葉を遮って、ジョーのことを睨みつける。

 食堂まで我慢しろとは言ったけど、せめて俺の話を聞いてからにしてくれねえか。


「おい、カリン。まだ俺話の途中——」

「ええ、あります。ありますとも、たくさんね」


 ジョー、お前もかよ。

 仕方ねえ、俺の話は後でいいから、気の済むまで話してくれ。


「カリン、ケイ。あの時は、勝手に来なくなって、すみませんでした」


 彼は、おもむろに立ち上がると、腰を九十度くらい曲げて深々と頭を下げた。

 過去の出来事とはいえ、互いに残ったわだかまりを解かすには、真正面からぶつかるしかないのだ。


「あー、オレは、だな。実は、もうそんなに気にしてねえっていうか」


 すると、ケイは頭をぽりぽりとかきながら、言葉を濁す。

 こいつのことだから、当時はきちんと怒っていたのかもしれないが、今となってはそこまで気にしていないのかもしれない。


「ジョーのことだから、何か事情があったんだろ? そうなんだよな?」


 むしろ、カリンとは対照的にジョーを気遣う様子まで見せたことには驚いた。


「驚いた。お前、そんなに気回せたんだな」

「からかうなって。オレだってな、たまにはそういうことも出来んの!」


 からかうつもりはなかったんだが、思わず。

 話が逸れるので、俺は一言謝って口を閉じた。

 

「……ルカにはもう言いましたけど、あの後すぐ自分は塾に通うことになりまして。放課後の時間がなくなってしまって、それで……」

「いやそれ、ならさ、アティシらにそう言えばよくね? 何も言わずに来なくなったらさ、……心配するっしょ」

「……返す言葉もありませんね」

「何で黙ってたん? アンタもアティシらのこと見捨てたん?」

「……それは」


 空気がどんどん重くなってきた。

 おいおい、どうしよう。


「失望されるかもしれませんが……」


 ジョーは少しの間俯いて沈黙した後、昨日俺にもしてくれたあの時の不安や気持ちについて、堰をきるように吐露し始めたのだった。

 俺がいなくなり。

 双子がいなくなり。

 そして自分も行けなくなったら。

 キッカケでこの集まりが崩壊してしまうのではないか——


「……」


 彼が一息に話し終えると、誰も口を開くことはなく、再び沈黙が流れ始めた。

 

「……なあ、カリン」


 それを破ったのは、他ならぬ俺だった。


「あによ」


 舌足らずな返事が飛んでくる。

 そんなにカッカするなって。

 ここまで黙って聞いていたが、お前だって心からジョーを恨んでるわけではないんだろ。


「ジョーも勇気出してけじめつけたんだ。お前も意地張ってないで、きちんと答えてやってくれよ」

「……ふん。わかってるっての」


 と、カリンはそっぽを向きながらも、


「ジョー」

「はい」

「……その、さっきは当たり、ちょっち強かった、かも」

「ええ、中々効きましたよ」

「ふん、……アティシ帰るわ」


 こちらには顔を向けず、食堂の出入口までツカツカと歩いて行く。

 帰るの?

 そして、


「ルカごめん、また明日ね」


 そう言い残すと出ていった。

 このまま本題に入れる空気じゃなかったし、当然の結果だ。

 しゃーない。

 明日仕切り直しだ。

 ケイとジョーにもそう伝え、この日は俺たちもすぐに解散したのだった。

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にゅートラブル×にゅ〜トラル! 〜男だと思っていた幼馴染の双子に再会したら美人姉妹で俺を狙ってくる〜 黒澤三六九 @black369

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