第8話 この世界を知っていこう!


「おい、マイナ。逃げるぞ」


「え?ちょっとぉぉお!」


 ユウヤの周りは真っ白で何も見えてはいない。見えていないが、あらかじめどこに何があるかを覚えていたので、そのままマイナを脇に抱えて入り口まで走る。


 マイナは叫んでるが、時間との勝負なので気にしてられない。


「不用心だな。この程度の門番と木の門くらいじゃすぐ壊されるぜ」


 そう言ってユウヤは木でできた檻を蹴り破った。バキッと音を立てて檻が壊れる。

 ただの木でできた門など無いのと一緒だ。


 冒険者に特別な能力は宿らない。だが、怪物を殺してその血を浴び続ける事によって、身体能力は少しずつ上がっていく。

 

 まるで、人ではなく、己も怪物に近づくように。


「おっと、よぉ。また会ったな」


「お、お前なんで!?」


 ユウヤの目に写ったのはここに入る前に自分に蹴りを入れた鬼だ。

 逃げる前に借りは返さないとな。


「オラァ!」


「ぐぺ!?」


 回し蹴りを受けた鬼人がきたない声を出しながら壁に激突する。 体をぴくぴくと痙攣させていた。


 先に蹴ってきたのはこいつだ。やられた事をやり返しただけだ。


「死なないくらいにしたんだ。先にやってきたのはそっちだからこれでチャラって事で」


 そしてまた、マイナを抱えたまま走り出す。にしてもこいつ、体柔らけぇな、本当に男か?


すると…



【あなたは運命を書き換えることに成功しました。】



 突然アナウンスが発動する。



【彼女はコロッセオで死ぬ筈の運命でしたが、あなたが介入した事によって彼女の物語が続きます】






  【称号:脱却者。怪物殺しを獲得します。】




 あ?なんだ?脱却者?怪物殺しはまだ分かる。けど脱却者は意味がわからん。

 逃げ出したからか?



「……」



少し考えるがわからないので後にすることにした。



「なぁ、冒険者…あー、さっきみたいな化け物を殺して金にする職業ってあるか?」


 ユウヤは冒険者では伝わらないと思い、できるだけ似たようなことができる職業がないか、マイナに聞く。


「モンスターを殺して…それってハンターのことか?」


 マイナは少し考えて、答えた。やはりあんな化け物がいるってことは、それを殺す職業もあるらしい。


「ハンターか…後で分かる範囲で良いから具体的に教えてくれ」


 ユウヤはハンターとはどんな職業か、何ができるのか、冒険者とどこが違うのかを聞くつもりでいる。



「とりあえず今日はスラムに行くぞ」


「え?なんで?このまま逃げないの?」


 マイナはこのまま逃げた方が良いと思っているらしい。けどそれは悪手だとユウヤは考えている。


「いいかマイナ。まず俺はこの国…というよりほとんどのことがわからない。」


 そう。ユウヤは何もわかっていない。ここがどこなのかも。国なのか、街なのか。他にも同じ国とか街があるのかも。



 種族も鬼人とかがいたんだ。他の種族がいても別に不思議じゃない。



 そして疑問に思ったことがある。献上品として運ばれた奴らは皆、ヒューマンだった。

 鬼人や他の種族はいなかった。たまたまかもしれないが嫌な考えが頭をよぎってしまう。



 ここではもしかしたら人の、ヒューマンの立場が弱いのかもしれない。

 まずは知ることから始める。情報や知識はいくらあっても困らない。あればあるだけ自分たちが動きやすくなる。


「だから、まずマイナに色々と教えてもらいながら体を休めようと思う」


「なるほど…なぁユウヤ。なんでスラムなんだ?」


 まぁそこは確かに気になるよな。普通だったらさっさと逃げた方がいいに決まってる。

 だが今回は状況が良くない。


 俺はマイナに諭さとすような声で言った。


「いいか?まず俺たちは金がない」


「あ!」



 マイナも気づいたようだな。



「更に言えば俺は金の価値もわからない」


「ええ………」



 マイナは呆れたような表情を向ける。いい歳した大人がお金の価値もわかりませんって常識的にありえないことなのだ。



「ごほん、あとは真面目な話。聞いた感じではスラムっていうところは酷いところなんだろう?」



 俺は咳払いをしてマイナに聞く。



「まぁ、…酷いところではあった」


 その表情は苦い物を噛み潰したような表情だ。


「なら仮にあいつらが追ってきたとしても、スラムなら少しの間なら隠れる事ができると思う」



 俺の予想が当たればスラムのような酷い場所には人は入りたがらない。

 だから俺は身を隠せると見ている。


「だから、今日はスラムで休んで、金を稼いでからここを出ようと思う」


「…なるほど」



 マイナも納得してくれたようだ。まぁやることはたくさんある。だがそれが楽しみだ。

 ここには知らないことやあんな化け物どもがいる。


「ハハ!」


 ユウヤは気づけば、笑っていた。


「ここら辺か」


 しばらく走るとマイナが使っていたと言っていた、家のようなものが見えてくる。

 だが、やはり家とは呼べない木で作られた簡易な物だった。



 マイナを下ろして周りを見る。どこも似たりよったりの家だ。



 そしてユウヤは中に入って地面に座り込む。


「よっと、じゃあまず、ハンターってのを可能な限りくわしく教えてくれ」



「うん、ええと、ハンターっていうのはハンターギルドって所に入っていて、さっきみたいなモンスターを狩ったり、あとはダンジョンって所に行ってお宝を探しに行ったりするんだ」



「なるほど」



 やっぱり似てる。怪物を殺すのは同じだ。けどお宝って何があるんだ?



「……」


 ユウヤは少し考えると心当たりがあった。


 もしかして、俺が手に入れた白雪とかじゃ無いのか?この世界ではもしかしたら、ああやって力をつけるのかもしれない。


「なんか考え事か?」


「あぁ、まぁな」



 俺はマイナに気にせず続けてくれと言って、説明を促す。


「で、ハンターの仕事はどの国でも基本は自己責任って聞いたことがある」


「なるほどな」


 その話が本当なら治安はそんなに良くないだろう。それはつまり自分で狩ったものも奪われても文句は言えないってことだ。


「金は?ハンターになるには金はいらないのか?」


 冒険者協会では、まず登録するのに金が必要だったからな。多分ハンターも金がいるんじゃないか?


「いや、金はいるよ。登録するのに1人銅貨2枚って聞いた」


 やっぱりどこに行っても金はいるのか。まぁ金はなんとかなるだろう。


「金ってどれくらいの種類があるんだ?」


「ええとね、確か1番低いので銅貨で次に大銅貨、その上が銀貨で、次に金貨、見たことはないけど白金貨ってやつが1番上だぞ」


 意外と種類が多いな。まぁ、覚えるしかないか。これで金のことは大体わかったな


「ここってどんなところなんだ?国なのか?」



「う、うん。ここはウォルターって言って鬼人の国。さっきみたいに額から角が生えてるのが鬼人って呼ばれてる」


「鬼人以外に他の種族はいるのか?俺たちみたいなヒューマンって呼ばれてる奴以外で」


「いるよ。エルフとか、竜人とか、獣人やドワーフなんかもいる」


 まじか。まんま異世界って奴だな。人間以外にも多種多様な種族がいるのか。


 けれどマイナの声は心なしかどんどん暗くなっていく。



「けど、俺たちヒューマンは、弱いからどの国でも立場が弱い。この国では、特に弱い人はすぐに死ぬから」



「じゃあ献上品が全員ヒューマンだったのはそういうことか?」


 マイナは下を向いて悲しそうな声で喋る


「うん、俺たちは力も弱いし、エルフみたいに魔法も使えない。竜人みたいに飛べないし、ドワーフみたいな武器も作れない。鬼人みたいに力も強くない。たまにヒューマンでも魔法を使える人はいるけど、滅多にいない」


「そうなのか。だから献上品は力も立場も弱いヒューマンが、ってことか」


 この国は実力主義の国なのかもな。だから弱いヒューマンは軽視されているんだろう。



「でもユウヤは魔法が使えるんだろ?」



 マイナが銀色の髪を揺らして俺に尋ねてくる。けど魔法かどうかと言われたら反応に困る。

 果たしてこれが魔法なのか、俺自身にもわかっていないから。



「あぁー、まぁそんなとこだ」



 だからとりあえず魔法ってことにしといた。この力は今のところ扱えているから問題はない。


「で、他にもどんな国があるかとか分かるか?」


「ごめん、そこまではわからない」



 マイナは首を横にふる。その顔は申し訳なさそうな顔で、子供にこんな顔をさせるのは心が痛む。


「い、いや、そこまで気にしなくていいんだ。うん、だからその悲しそうな顔をやめてくれ。ガキにそんな顔されるのは心が痛い」



 俺は焦ったように言った。少し、時間を置いて真剣な声で言った。


「俺は、明日ハンターギルドにいく。で、ある程度金を貯めて、情報を集めたら俺はこの国を出て行く」



 真剣な表情と声。それを感じ取ったのかマイナも真面目な表情で聞いている。


「マイナ。お前はどうする?」


「俺?」



「あぁ、お前だ。このままスラムで暮らして行くのも良い。お前からしたら、ここはお前の育った場所だ」



 この選択はきっとマイナにとっても、俺にとっても重要な選択だ。



「けど、お前がそれが嫌なら、俺と来るか?…だが俺は、善人じゃない。敵は殺す。人かどうかは関係ない」



 俺も自分の自分の意思をまっすぐ伝える。



「もしかしたらスラムより酷い出来事にあうかもしれない。今日より危険な目にあう可能性だってある」



 俺ができるのは、きっかけを与えることだけだ。



「それでも良いなら、一緒に行こう。お前の人生なんだ。……お前が決めろ」



「…………」



 マイナはしばらく、俯いて黙っていた。そして、ゆっくりと口を開いた。




「お、俺も……一緒に行っても良いのか?」




 銀色の髪の子供の声は震えている。顔も下に向けているから表情も見えない。




「それは、お前が決めることだ」



「い、行きたい!一緒に行きたい!」



 すると、顔を上げて大きな声で自分の意思を伝えた。声もどこか嬉しそうだった。

 ユウヤは少し笑ってしまった。


 その笑いがなんなのかは本人にしかわからない。



「決まりだな、これからよろしくな、マイナ」



 ユウヤは立ち上がって手を差し出す。



「うん!よろしくな、ユウヤ」



 マイナも手を出して、握手をする。ユウヤにもこの世界で初めての仲間ができた。




 元の世界では仲間はいなかった。仲間が死ぬ事を恐れて作らなかった。




 今回は違う、仲間を作る。そして絶対に守る。


 





  【この世界で初めての仲間ができました】


 また、アナウンスが発動した。


 【これからはあなたにはたくさんの出来事が起こります】





【あなたは全てを手に入れる可能性と全てを失う可能性を秘めています】





   【これからのあなたの物語が楽しみです】




 今までの機械的な声ではなく、どこか人の感情を持ったような声が頭に響く。





 少しの疑問が頭に残る。



 もしかしたら、この力は意志があるんじゃないのか?




 けれど今のところ問題ないから置いておくことにする。

 



「じゃあ今日はもう寝よう。明日ハンターギルドに行くぞ」


「うん、おやすみ」


「あぁ、おやすみ」



 2人は横になって眠った。










「………」




 いつの間にか2つあった内の1つの影がいつの間にか出ていった。それがどちらかの影かはわからない。



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あの日に語った夢の続きを異世界で!! クククランダ @kukukuranda

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