第7話 楽しい怪物狩り


 あたりにはさっきまで生きていた人たちが転がっている。もう動くことのない死体だ。

 俺はオーガと周りを見渡す。周りの状況を確認してそのままオーガの方に走り出す。


 オーガも俺に気づいたらしい。こちらへ向かってくる俺に向かって拳を繰り広げてくる。



「おっと!」


 ユウヤはオーガの股の下を抜けて回避した。ブォン。と音がして、風圧が届いた。


これは1発でも貰えば死ぬな。


「ウハハハハ!!やべーな、たまんなぇな!」


 俺は気づいた時には笑っていた。近くの死体から武器をとって、構える。


「あぁ、そうだ。こいつも怪物だ。ならやる事はいつもと変わらねぇよ」



 ユウヤはまた、嗤いながらオーガに向かっていく。



・・・・・


 この場にいた全員が見誤っていた。冒険者という生き物を・・・


「ウハハハハ!楽しいな!やっぱり怪物を殺すのは楽しい!」


 そこには笑いながらオーガと戦っている人間が1人いた。そして上で眺めていた、酒呑童子もその姿を見て興奮していた。


「おい、爺!なんだあれは!?」


「お嬢様、はしたないですぞ」


「そんなことはどうでも良い!見ろ!あいつ1人でオーガと互角に戦っているぞ!」


 そう、酒呑童子が言った通り。ユウヤはオーガと互角に戦っていた。ユウヤはオーガが献上品の奴らと戦っているのを見て、確信した。


 こいつ…根本的に人を舐めてやがる、と。そして、それがこいつの弱点だということも分かった。こいつは命をかけた戦いをしたことがない。ずっと虫を潰すことしかやってこなかった。


 冒険者は違う。知恵と武器で怪物を殺す。命をかけることは、彼らにとっては普通のことだ。

 そして冒険者は常に格上と戦う。命をかけて未知を開拓して、怪物と殺し合いをすることを続けてきた生き物だ。


 



 上級冒険者になればなるほどその傾向は強くなる。それほどまでにイかれた人間たちだ。

 冒険者とは自分の命を顧かえりみない生き物だ。

 冒険者もまた理性と狂気が共存している怪物だ。


 今もオーガと殺し合いをしているユウヤはずっとゲラゲラと嗤っていた。

 オーガの足を槍で貫き、腕をナイフで傷だらけにする。そして返り血で真っ赤になってもなおユウヤは嗤う。


「ウハハハハハハハ!どうした?さっきまで嗤ってたろ?嗤えよ!ほら!」


 オーガは分からなかった。今回も同じ虫を殺すだけの作業。それだけの筈だった。

 さっきまで殺した奴らはとても弱く、すぐに死んだ。後から来たこいつも同じだった…はずだ。


「ハハハハハハハ!ウハハハハハハ!」


 ずっとわらって・笑って・嗤っている。目の前の生き物が己の命を刈り取ろうとしていると分かる。

 その瞬間にオーガは心の底から恐怖を感じた。



〔うごぉおおおおお!〕


 恐怖を振り払う様に雄叫びを上げる。だが掴もうとしても避けられる。殴ろうとしても受け流される。

 そして自分の体がどんどん傷だらけにされていくのが分かる。


 このままじゃ殺される。その思いがオーガを一歩後退あとずさりをさせてしまう。

 それは目の前の生き物に対して絶対に見せてはいけない隙。その大きな隙を冒険者は決して見逃さない。

 後退りの瞬間に体が後ろに引いてしまった事で顔がガラ空きになってしまった。



「楽しかったよ。じゃあなオーガ」


 そしてユウヤはナイフを投げた。そのナイフはオーガの喉に刺さり、オーガはよろめく。


「オラァアア!」


 そして刺さったナイフを蹴りで奥にを押し込んだ。オーガは空を見上げながらそのまま後ろに倒れた。そしてユウヤは息を吐くと、離れていたマイナが近くに寄ってきた。


「ユウヤ!大丈夫なのか?怪我は?」


 マイナが心配そうな目で見てくる。血だらけではあるがこれは返り血で俺は無傷だ。


「あぁ、大丈夫だ」


 俺は顔についた血を拭いながらマイナを見ると


「良くぞ、我のペットを倒した!見事である!!」


 上で見ていた酒呑童子が椅子から立って声を上げる。


「これでしばらくは退屈しなさそうだ。次も期待しておるぞ!!」


 こいつは、次も俺たちを見せ物のようにして楽しむつもりなのだろう。


  だが、それは無理な話だ。


「ウハハハハハ!」


 俺はおかしくてつい笑ってしまった。


「何がおかしい?」


 目の前の鬼は冷徹な目で俺を見てくる。それでも俺は笑いが止まらなかった。


 だって…そうだろ?


「ばーか。次なんてねぇよ」


「なに?」



 酒呑童子は怪訝そうな目で見てくる。だがもう遅い。逃げる算段はもうついている。


白雪しらゆき


 すると、ユウヤの周りには吹雪が舞う。


 見る見るうちに周りの景色は白くなっていく。 



「馬鹿な!?なんだそれは?魔・法・か?いや、違う!」



 酒呑童子が驚いた様な声を上げて、椅子から前のめりになって覗く。

 けれど俺たちの姿はどんどんと吹雪に阻まれて見えなくなっていく。



「これは警告だ。今後、俺たちの邪魔をするな。もし、俺たちの邪魔をするならば」


 そして俺の姿はゆっくり、ゆっくりと溶け込んで見えなくなっている。



「お前を殺す」



 姿の見えないユウヤの声だけが響いた。そして足元に落ちている槍を投げた。

 槍は酒呑童子の頬を掠めて椅子に深々と刺さった。



「お嬢様!」



 すぐに横に控えていた執事が庇うように前に出る。



「黒髪のヒューマンか。面白い」



 そう言って酒呑童子は頬から出る血をぺろりと舐めた。


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