私のために戦った?意味が分かりませんわ

礼依ミズホ

第1話

 フィデラリア王国には国の名を冠したフィデラリア王立学園がある。ここは成人した十五歳から十八歳までの貴族と才能のある平民を中心に高等教育を行う機関である。校風は自由だが、才能豊かな生徒達が切磋琢磨することで大きなトラブルは建学以来起こったことはない。しかしながら残念なことにその歴史も本日、終焉を迎えたようだ。




*****




 訓練場に激しく剣を打ち合う音が響く。互角に打ち合っていた二人はパッと後ろに下がると、しばし息を整えるために睨み合いながら立ち止まった―――かに思えたが


「はあっ!」


金髪の男が大声で自分を鼓舞しながら両者の間合いを一気に詰め、振りかぶってから相手を薙ぎ払おうとした。


「させるかっ!お前の剣は綺麗すぎるんだよっ!」


銀髪の男は体重のかかった一撃を片手剣で弾くと、金髪の男の腹にガンッと蹴りを入れた。


「ぐっ!」


金髪の男が姿勢を崩した隙に、銀髪の男は剣先を相手の首筋に当てた。


「どうする?まだやるか?」


銀髪の男は相手の首筋に剣先を当てたまま、にやりと笑って問いかけた。


「いや、悔しいが男に二言は無い。俺の負けだ。」


銀髪の男は頷くと金髪の男に向かって手を差し、二人は固い握手を交わした。



―――うわああっっ!!!



訓練場は大きな拍手と歓声に包まれた。




*****




 「エレノア様。」


エレノアは放課後、帰り支度をしていると級友のキャサリンに声を掛けられた。


「え?私?」

「はい。ちょっとよろしいですか?」


キャサリンはぐいっと手を引っ張ると、そのままエレノアの手を掴んで歩き始めた。


「え?ちょっと、キャサリンさん?」

「とある方から、エレノア様をお連れするように頼まれているのですわ。」

「わ、私の鞄・・・。」

「用事はすぐ終わりますから、問題ありませんわ。さ、行きましょう。」


エレノアはキャサリンの様子に、これはこのまま自分が行った方が用件が早く終わるだろうと思い直すと、転ばないようキャサリンについて行った。


 ―――うわああっっ!!!


学園の渡り廊下を挟んだ向かいにある別棟の訓練場から大歓声が聞こえてきた。


 「どうやら、勝負がついたようですわね。エレノア様、こちらですわ。」

「えっ?ちょっと―――」

「いいからいいから、とにかく訓練場へ急ぎますわよ。」


エレノアは言われるまま、キャサリンと一緒に訓練場へ向かった。


 「エレノア様をお連れ致しましたっ!」


キャサリンは訓練場へ入るなり、大きな声でエレノアの到着を場内へ告げた。訓練場内の騒めきが一瞬で止み、キャサリンとエレノアに視線が集中した。そんな中、キャサリンは気後れすることなくエレノアの手を引き、訓練場の真ん中に立っている二人の男の前にエレノアを連れて行った。


「うむ。ご苦労。」


訓練場の真ん中で腕組みをして満足そうに立っていた銀髪の男が頷いた。


「それでは殿下、私はこれで。」

「ああ。」


エレノアをその場に残し、キャサリンは一礼して下がってしまった。


「え、ちょっと、キャサ―――」

「エレノア嬢。」


キャサリンに殿下と呼ばれた銀髪の男がエレノアの手を取り、その場ですっと跪いた。その様子に訓練場の観客は息を呑んだ。


「横にいるシシリー・ベクスト、ベクスト公爵令息と戦って、今日ようやく私は君に結婚を申し込む権利を得た。」

「は?」

「結婚してくれ。王太子である私リグレタ・フィデラリアの妻となり、ゆくゆくは国母として一緒に国を導いて欲しい。」

「え?」


驚くエレノアの様子には目もくれず、殿下は右手を差し出した。え、これって、正式な求婚の作法なんですが、なぜ私に?


「あの・・・殿下。発言を宜しいでしょうか。」


エレノアは小さく右手を上げると殿下に発言を求めました。


「うむ、いいぞ。結婚式の予定か?俺としてはできるだけ早い方がいいかな。」


シシリーとの勝利に浮かれた殿下は、早くもエレノアとの幸せな未来を妄想しているようだ。


「いえ、まず今の状況を確認したく。」

「うむ、何でも聞いてくれ。私の好きな物でもいいぞ。」

「殿下のお好きな物については、いずれ。」

「今でも私は構わないが。」


エレノアは殿下を冷たく一瞥すると咳払いをした。


「失礼致しました。先程、殿下はベクスト様と戦ったと仰いましたが、理由は何ですか?」

「それは勿論、エレノア嬢に結婚を申し込むためだ。」

「は?」


エレノアは驚きのあまり飛び出た言葉と開いた口元を慌てて扇で隠した。


「なぜ、そのようなことを。」


思い当たる節の無いエレノアは、怪訝そうに首を傾げました。


「くっ、そんな様子も可愛らしいっ。エレノア嬢。君は学園の男子生徒の憧れの的であり、結婚を申し込みたい男子生徒が山のようにいたのを知らないのか?」

「ええ。生憎、そのようなことは全く存じませんでしたわ。」


エレノアは眉をひそめながら殿下に答えた。


「とにかく、だ。学園内は毎日のようにエレノア嬢に結婚を申し込もうと、エレノア嬢に近付こうとする男子生徒が多すぎて学園の中が混乱しかけたのだ。」

「はあ。」


私の事情は伏せられておりますもの。周りからは婚約者がいない令嬢と思われても仕方がないわね、とエレノアは扇の後ろで溜息をついた。


「ここは学園の方針に則り平等に機会を設けようということで、私主導のもとエレノア嬢に結婚を申し込む権利を懸けて希望者で学園で剣術大会を行ったという訳だ。」

「その訳の分からない剣術大会で優勝したのが殿下だった、ということでよろしいですね?」

「ああ。エレノア嬢にとっては急な話だ。返事は今すぐではなくていいぞ。」

「恐れながら殿下。その件につきまして、国王陛下に謁見をお願いできますでしょうか?」

「ん?エレノア嬢はもう未来の父親と対面したいのか?いいぞいいぞ、私が手配しよう。」


殿下はウキウキした様子でエレノアの申し出を受け入れた。


「殿下、謁見の予定が決まりましたらクレバリー侯爵家へ連絡を下さいますようお願い致します。」

「うむ。王宮で会えるのを楽しみにしているぞ。」

「それでは殿下、失礼致します。」


エレノアは殿下に美しく一礼をすると、訓練場を後にした。




*****




 「はあ。殿下達はご存じないのかもしれませんが、面倒なことになりましたわね。」


エレノアはクレバリー侯爵家へ向かう馬車の中で溜息をついた。


「お帰りなさいませ。」


家令のセバスが帰宅したエレノアを出迎えてくれる。


「セバス、ワイズを呼んでもらえるかしら。」

「畏まりました。先にお着替えをなさいますか?」

「いえ。緊急事態だから、先に話をするわ。」

「畏まりました。」


エレノアはセバスに学校の鞄を預けると、執務室へ向かった。


 「エレノア、お帰り。」

「ただいま。ワイズ、今戻りましたわ。」


ワイズはエレノアを軽く抱きしめると、エレノアの頬に口付けた。


「お茶の用意が済んだら、皆下がって頂戴。」


エレノアの指示で人払いがされ、執務室はエレノアとワイズの二人になった。


「それで、学園で何があったんだい?」

「実は―――」


エレノアは自分が学園で見聞きしたことをワイズに話した。


「ふ~ん。王太子殿下は俺たちの事情をお分かりでない、と。」


ワイズは冷笑した。


「ええ。『私のために戦った』なんて、意味が全く分かりませんわ。」

「まあ、面倒な奴が一人で済んだだけ良しとする?」

「良しとたら駄目じゃない。それに、『奴』だなんて不敬だわ。」

「今は誰もいないからそれ位見逃してよ。殿下も知らないということは、国王陛下は約束をきちんと守って下さっている、ということだよ。エレノア、それでいいじゃないか。」

「もう、ワイズは甘過ぎですわ。」


ワイズがエレノアを宥めていると、セバスがノックをして執務室に入って来た。


「お話し中のところ、失礼します。王太子殿下から早馬で書状が届きましたのでお持ち致しました。」

「ありがとう、セバス。返事を書く必要はあるかしら?」

「はい。『使いの者に返事を渡して欲しい』と殿下からの伝言です。」

「分かったわ。ワイズ、お願いしていいかしら?」

「勿論。それが今の俺の仕事だからね。」


ワイズはセバスから手紙を受け取ると、中を確認した。


「明日の放課後はいかがだろうか、だって。王太子殿下も先走ってるねぇ。」


ワイズは王太子殿下からの手紙をぴらぴらと振ってエレノアに見せた。


「はぁ、殿下の妄想で終わってしまえば良かったのに。それでも、事態の収拾は早い方がいいわね。ワイズも一緒に行って貰えるのかしら?」

「私も一緒に行った方が良さそうだね。説明のため、ワイズ・クレバリーと共に登城しますと返事をしておくよ。エレノア、それでいい?」

「ええ。その方が助かるわ。」

「それなら、明日は俺が学園まで迎えに行くよ。学園なんて行くの久しぶりだなぁ。」


ワイズは執務机で王太子殿下への返事をしたためるとセバスに渡した。


「それでは、使いの方にお返事を渡して参ります。」


セバスは一礼して執務室から去った。


 「ねえ、ワイズ。明日の放課後迎えに来てくれるのは嬉しいけれど、私は謁見用のドレスに着替えなくてもいいのかしら?」

「エレノア、学生の特権で学園の制服を着ていれば陛下にも謁見できるんだよ。平民の学生は奨学金を貰って学園に通っている者がほとんどだから、学園生は制服が正式なドレスコードになるんだ。制服で陛下に謁見できる貴重な機会なんだから、楽しまないと。」

「ふふ、それもそうね。せっかくですもの、楽しむことにするわ。」

「うん、その調子。エレノア、明日が楽しみだな。」

「ええ、本当に。」


エレノアとワイズの二人は含みのある笑顔で見つめ合った。




*****



 時は流れて、翌日の放課後。

王城の謁見の間で国王に拝謁した後、小さな応接室にエレノアとワイズは案内された。ソファーに二人が並んで座っていると、奥の部屋から国王と王太子が近衛騎士を伴って現れた。二人はその場で立ち上がると、膝を折って最高位者への礼をした。


「良い良い。二人共座ってくれ。エレノア嬢は制服だからこちらが気になるわ。クレバリー家の二人に発言を許す。挨拶は謁見の間で先程受けたから、本題に入ろう。」

「「ありがとうございます。」」


エレノアとワイズはソファーに腰掛けると、向かい側に座っている国王に向かって話を始めた。


「まずは国王陛下、本日はお時間を頂きありがとうございます。」


エレノアとワイズは国王に向かって座ったまま軽く頭を下げた。


「エレノア。陛下とは義理の親子になるんだから、そんな堅苦しい挨拶なんていいって。」

「リグレタ、黙れ。お前に発言は許しておらん。」


国王は王太子に向かって厳しく言い放った。国王の叱責が済むのを見計らって、エレノアが口を開いた。


「陛下。王太子殿下は私共クレバリー侯爵家の事情をご存じない、ということでしょうか。」

「ああ。公にするのはエレノア嬢が学園を卒業してから、という予定だったからな。」


国王の回答にエレノアとワイズの二人は顔を見合わせて頷いた。国王の返事が二人の予想通りだったのだろう。


「それで、学園で大々的に学生たちが見ている中で王太子殿下が私に求婚した、という訳ですね。」


エレノアは昨日の出来事を思い出しながら発言した。


「はっ、求婚だと?リグレタ、どういうことだ?」


国王はエレノアの発言に驚き、リグレタを問い質した。


「ええ、私が学園内でエレノア嬢に求婚する権利を懸けた剣術大会を開きまして、私が優勝致しました。」


リグレタは胸を張って国王に答えた。余程剣術大会に優勝したのが嬉しかったのだろう。


「リグレタ、何を寝惚けたことを。『エレノア嬢の伴侶は決まっている』と前にも言っただろう。」

「それはあくまでも婚約しただけで、婚約者を変えることは可能ですよね?」

「ふんっ、とりあえずお前の言い分を聞こうか。それで?」


国王は嬉々として話し始めたリグレタの顔をギロリと睨んだ。


「先日、そちらにいるワイズ・クレバリーがクレバリー侯爵家の一員となったと聞きました。それは、エレノア嬢が他家に嫁ぐことが決まったから、クレバリー侯爵家の後継をワイズが担うためですよね?」

「「っ!」」

「はぁ・・・ここまで愚かだったとは。」


リグレタの発言に国王は溜息をつき、エレノアとワイズの二人は固まった。クレバリー家の二人は口角を必死に上げてはいるが、目が笑っていない。


「クレバリーよ。愚息が大変申し訳ないことをした。」


国王はエレノアとワイズの二人に頭を下げた。


「父上っ、何で父上がその二人に頭を下げる必要があるんですかっ!」

「黙れっ、お前が愚か過ぎるからだ!この大馬鹿者っ、お前もクレバリーの二人に頭を下げんか!」


国王は立ち上がるとリグレタの頭を掴み、エレノアとワイズの二人に向かって押し下げた。


「ああ、忌々しい。クレバリーよ、一年ほど早まってしまうが愚息に分かるように説明してもいいか?」

「あくまでも、ここだけの話でしたら構いませんわ。ね、ワイズ。」

「そうですね。王太子殿下には、ここできちんと理解して頂きましょう。」


エレノアは国王へ是と返事をしながら、隣に座るワイズに確認を取った。ワイズはエレノアの発言に微笑みながら頷く一方、国王は眉間を揉んでいる。


 「これは本来、エレノア嬢が学園を卒業してから公表する予定だったんだが―――ああ、リグレタ、お前はエレノア嬢と同じ学年だったな。」

「はい、そうです。クラスも同じですよ。」


リグレタは国王の問いかけに対し、王太子は嬉しそうに返事をした。


「エレノア嬢は学園卒業と同時にクレバリー侯爵を継ぎ、女侯爵として立つ。」

「え?クレバリー侯爵家はワイズ・クレバリーが継ぐのではないのですか?」


国王の発言にリグレタは驚いた。


「今は便宜上私がクレバリー侯爵を名乗っていますが、私は侯爵代理。要は、中継ぎです。エレノアが学園を卒業して爵位を継承するまで、という期間限定の肩書です。エレノアが学園に通っている間、侯爵の執務が滞らないようにするためですね。」


ワイズは穏やかにリグレタに向かって説明した。


「え?侯爵代理ならば、クレバリー家の養子になってクレバリー姓を名乗る必要はありませんよね?」


エレノアはリグレタの言動に呆れて口を開けてしまいそうになったが、持っていた扇で口元を隠してから発言した。


「王太子殿下、ワイズはクレバリーの入り婿です。」

「え?」


状況が理解できないリグレタは父親である国王の方を見た。


「まだ分からないのか。ここにいる二人は婚約者という間柄ではなく、既に結婚しているということだ。」

「は?だって、エレノア嬢はまだ学生ですよね?」

「リグレタ。二人の結婚は私が認めたものだ。」


「でも、学生の間は白い結婚が通例ですから、別に伴侶を変えても問題ないのでは?」

「リグレタ、いい加減黙れっ。」


リグレタは自説を滔滔と話し続けたが、国王から叱責されてようやく黙った。


「クレバリーの。愚息にも分かるように言ってやってくれ。実際の所、そなたらは白い結婚なのか?」

「―――っ!」


国王の問いにエレノアは扇に顔全体を隠して俯いてしまった。扇からはみ出ているエレノアの耳は赤くなっている。


「陛下、エレノアに代わり私が発言してもよろしいでしょうか。」


赤くなっているエレノアを一目見て微笑むと、ワイズが口を開いた。


「良い、続けよ。」

「クレバリー侯爵家の務めが恙無く行えるよう、私共は婚姻の儀式を全て滞りなく終わらせており、教会にも届出が済んでおります。」

「閨も済んでいるということだな。」

「はい。」


ワイズも国王に向かって軽く頭を下げた。


「は?学生で閨事だと?そんなの学園で認められる訳がないだろう?」


リグレタは鼻息荒くクレバリーの二人に詰め寄った。


「私は既に学園を卒業しておりますし、婚姻の儀式はエレノアが成人してすぐ、学園に入学する前に済ませました。この件に関しましては予め陛下にもお伝えし、了承を頂いております。手続き上、何も問題は無いと思いますが。」

「そうだな。エレノア嬢にはクレバリー侯爵当主として、血を残してもらわねばならぬ。」

「陛下。クレバリーの血を繋げるのは学園を卒業してからでご容赦下さいませ。」


エレノアは顔が赤いまま奏上した。


「ああ、勿論だ。若いエレノア嬢に負担を懸けさせるつもりはない。あと一年だが、学園でしっかり励んでくれ。」

「はい、ありがとうございます。クレバリーの名に懸けて、研鑽致しますわ。」

「ここの愚息にはクレバリーの役目を私の方から説明しておく。二人共、大儀であった。下がってよい。」




*****




 数日後。フィデラリア王立学園の講堂に先日の剣術大会、もとい騒動に参加した学生達が集められた。


「婚約者のいる者に求婚するのは言語道断の行いであり、この国の婚姻制度に大きな混乱を招く。これを看過すれば、ゆくゆくは国内が乱れる恐れがあるため、今回の騒動に関与したものを処分する。」


と学園長からの説明に、講堂にいた一同に衝撃が走った。


 剣術大会の主催者かつ、エレノア嬢に求婚した王太子リグレタがこの騒動の発端であると責任を取り、フィデラリア王立学園を退学。準備ができ次第、隣国の学園に転校することになった。その他の者は剣術大会の参加者が余りにも多過ぎたため、学園内で剣術を切磋琢磨する場に参加したという好意的な解釈をし、学園でこの国の婚姻制度について学び直す補習を受けることを条件に、厳重注意処分、となった。


 また、王太子であったリグレタはこの騒動が原因で王太子から王子に降格。リグレタを除く王族の中から男女問わず王太子の選出からやり直すことになった。更に、リグレタは隣国の学園を卒業後、隣国の高位貴族に婿入りすることが決まった。当事者には謝罪の意も込めて先に知らせておく、とクレバリー侯爵家へは学園での発表前に国王から書状で知らされた。




*****



 「ふ~ん。リグレタ殿下はフィデラリアには帰ってこれないんだ。やらかしたから、体のいい厄介払いをされたんだね。ところで、シシリー・ベクスト公爵令息はどうなったの?」


執務室のソファーに並んで休憩しながら、ワイズが隣に座るエレノアの髪に指を絡ませながら聞いてきた。


「ベクスト公爵令息は補習と学園で厳重注意で終わったわ。剣術大会で優勝しなかったお陰で、首の皮一枚繋がったわね。」

「彼は運が良かったのか。」

「あら、そうかしら?ベクスト公爵家は王家と血の繋がりがある家。ベクスト公爵令息は王太子殿下を諫めることができるお方よ。王太子殿下を諫めるべき方が、むしろ同調して大会に参加していらっしゃるのですもの。厳重注意で済んだ高位貴族とは言え、肩身は狭いでしょうね。まあ、あの方も王太子殿下と一緒になって私と昼食を一緒に食べようと嫌になるほど誘ってきてたたから、自業自得ですわ。」

「婚約者のいる人にちょっかいを出そうという愚か者が多くて、学園も大変だね。」

「何とは言わないけど、最近流行の三文芝居や大衆小説の影響でしょうね。あれは作り話だからこそ、面白いのに。」

「それが理解できなかったから、こんな騒動が起きてしまうんだろう?学園長先生も大変だなぁ。」

「そうね。クレバリーの事情を知っていたのにこんな騒動になって済まなかった、と学園長先生からは個人的に謝罪されたわ。あ、そうだ。その時に、学園長先生からこれをお詫びに頂いたの。」


エレノアは鞄から封筒を取り出すと、ワイズに手渡した。ワイズは早速中を改めた。


「おおっ、これは王都で有名な高級菓子店の招待券じゃないか。これを使って予約すると、ティールームが貸し切りにできるらしいぞ。学園長先生の親族が経営している所だろう?」


「あら、そんな素敵なお詫びだったのね。ワイズ、早速予約を入れましょうよ。いつがいいかしら?」

「俺はいつでも構わないよ。これは学園長先生から『二人で甘い時を過ごして下さい』っていうメッセージだよね?」

「え?」


ワイズはエレノアの髪から手を放すと、そっとエレノアの肩を自分の方へ抱き寄せた。


「ワイズ?子作りは学園を卒業してからですわよ。」

「分かっていますよ、俺のお姫様。」


口ではそう言いながらも、しっかり妻のエレノアを抱き締めて額に口付けるワイズであった。

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私のために戦った?意味が分かりませんわ 礼依ミズホ @mizuho01

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