一章 ー弐ー

「おはよう!」

朝のHRを告げるチャイムと同時に行う朝の挨拶、毎朝ある担任からの連絡事項、今日もいつも通りの一日が始まる。

「今日も休みの人は居ないね。素晴らしい!」

担任が元気よく言う。

相変わらず欠席者は無しか。他のクラスは一人や二人休みなのにな。そう思いながらふと思い出したことがある。

昨日の律と彰との会話。右後ろの席を見る。

……いる。蘭菜が、昨日ぶっ倒れたらしい蘭菜が何事も無かったかのように澄まし顔で座っている。

一瞬目線が重なり、俺はすぐに前を向いた。

こういう時はロクなことにならない。俺の16年間の人生経験が警鐘を鳴らしている。

HRが終わり俺はすぐ席から離れトイレに行こうとすると後ろから澄んではいながらも怒気を含んだ声が聞こえてくる。

「ちょっと」

捕まってしまった…。

「あんたなんで私の顔見ただけでびっくりするのよ。」

機嫌の悪い蘭菜に反抗するのは悪手だということを俺は身をもって知っている。

「いや、律たちから昨日倒れたって聞いたからさ。今日は休みなのかと思ってて。」

よし。上手くいった筈だ。昔は苦労したが今となっては蘭菜の扱いなんてお手の物。

「昨日はただの貧血よ。皆が過剰に心配するから他のクラスの人から死人を見たような目で見られるんだから。」

血の気の盛んな蘭菜が貧血?冗談も言えるようになったんだな。」


あ、まずい…。

恐る恐る蘭菜の顔を見る。

「聞こえてるわよこの馬鹿」



やってしまった。気が緩んでつい心の声が漏れてしまった。肩を結構な強さで叩かれ自分の席へ戻る蘭菜を見ながら時計に目を向ける。


ー8時42分。

まだ一日は始まったばかりだ。

大きな溜息をつくと同時に、一限の始まりを告げるチャイムが鳴る。


ーさて、今日も頑張るか。


「よろしくお願いします」

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