私が恨んでいるあなた

仁嶋サワコ

本編

 あのね。


 正直なところ、最初出会ったときのことなんて覚えていないわ。

 だって、わたしまだやっと歩けたかどうかの時期だったんじゃないかしら。

 当たり前のように、春、あなたはいつもわたしに会いに来た。

 でも、わたしは全く気付かなかったわ。小さい頃から昨年まで、いつものようにただ暖かい春の日差しを 浴びて、のんきにお昼寝していたわ。

 実を言うと私、あなたの噂を聞いたとき、全く興味なかったの。関係ないと思ったの。日本中、あんなにあなたのうわさをしているのに。

 嘘みたいと思う?

 春、あなたは赤くなった顔をして、わたしを見つめてくるけど、そんなのどうでもよかったの。

 だってわたし、そんなことよりもぽかぽかする春の日差しや、風に揺れて踊る桜の花びらに夢中だったんだもの。

 ただ、物心ついたときは、お母さんはあなたのことを嫌っていたわね。

 それを聞くお父さんは苦笑いしていて、そうするといつもお母さんがお父さんに当たり散らすの。

 わたし個人としては興味なかったんだけど、あなたは家族を壊すかもしれないもの。

 それだけは思ったわ。






 でもね。今年。

 今年の春も、あなたとわたしは出会った。


 二度目の出会いと言えると思うわ。

 知ってる?

 これは、あなたとわたしとの関係性が変わる決定的なきっかけだったのよ。

 あんなに興味なかったのに、わたしはあなたのことで頭がいっぱいになった。

 あなたは覚えているかしら?



 恋?

 バカね。そんなわけないじゃない。


 わたしはあなたを憎むようになったのよ。



 わたし、あなたが嫌いになったわ。

 あんなに大好きだったひなたぼっこが出来なくなったの。

 風が吹いて舞い踊る桜の花びらも見る余裕がなくなった。

 わたしはただ,家で窓を閉めて震えているの。

 家での理解者はお母さんだけよ。分からず屋のお父さんも嫌いになった。



 わたしはあなたのことを呪うようになったの。

 あなたなんか嫌い嫌い。

 大嫌い。

 嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い。

 




 あなたをみると、涙が出てくるの。

 あなたのことを考えるだけで、頭が痛くなってくるの。



 二度目の出会いがなければ、わたしはあなたをこんな憎むことがなかったのに。

 あんなに大好きだった春を恨むことがなかったのに。

 あなたにあう春が来なくなればいいと思った。



 あなたなんていなくなっちゃえばいい。



 この前、国のトップがあなたを無くすと言っていたわ。

 そうよ。あなたはこの国になんていらないのよ。

 シンゴジラみたいに国が倒せばいいのよ。シンゴジラの結末をよく考えてみろ? そういう話じゃないだろって?

 知らないわよ。わたしみたことないもの。

 もしかしてビオランテの方が近いのかしら?

 どうでもいいわよ。

 どこかいっちゃいなさいよ。




 本当に大嫌い。





 杉花粉。




 わたしは再来月、あなたと決別するために耳鼻科へ行くの。

 早く出会いたいわ。

 私の救世主。

 舌禍免疫療法のタブレットとね。

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私が恨んでいるあなた 仁嶋サワコ @nitosawa

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