大賢者の使い魔

にゃべ♪

大賢者の残した秘密兵器

 西大陸の辺境にあるパム王国は存亡の危機に陥っていた。突如現れた魔王軍の侵攻で国土の4分の1を失ってしまったのだ。王国軍は必死に抵抗して魔族を抑えているものの、いつその均衡が崩れるか分からない。

 各地の冒険者も、魔王にかけられた賞金を巡って魔族に対して無謀な戦い繰り広げていた。


 そんな冒険者パーティーのある一団が、古代に魔族を退けた大賢者が作ったダンジョンを発見する。賢者が書き残した古文書を解読したところ、また魔族が襲ってきた時のために秘密兵器をダンジョンの奥に残しているらしい。力のあるものが扱わないと持て余すためにそのようにしたのだとか。

 そして、パーティーはついにその秘密兵器のある部屋まで辿り着いた。そこにはいかにもな宝箱がぽつんと置かれてある。


「やったぞ! ボスを倒してついに賢者の秘密兵器をゲットだぜ!」

「油断するなよ、宝箱に罠が仕掛けられているかも」

「それこそ盗賊のお前の腕の見せ所だろ?」


 リーダーのアツモが仲間のリツの背中バシンと叩く。彼は盗賊のスキルを持っているだけの戦士なのだが、アツモからは常に盗賊と呼ばれていて多少不機嫌になる。それでもスキルを活かして宝箱は呆気なく開いた。


「さて、お宝をはいけ……え?」

「ん? どうした?」


 リツが絶句したところでアツモも中を覗き込む。そこで、彼が絶句した理由をアツモも知る事になった。


「おい、こりゃあ何の冗談だ? 新手の罠か?」

「こんな罠がある訳ないだろ。コイツは最初から宝箱の中に入っていたんだよ」

「うっさいなあ……。お、開いたって事は魔族がまた攻めてきたかあ?」


 2人の口論を聞いて、宝箱の中のものがもそりと起き上がる。それは毛並みの美しい黒猫だった。兵器が入っているはずの宝箱の中にいたのはただの猫だったのだ。


「「「「猫がシャベッタァァァ?!」」」」


 猫が喋った事でその場にいた4人全員の声がシンクロする。静かなダンジョン内で、その声はめっちゃ響いた。当然、人より耳のいい猫はその耳を大袈裟に塞ぐ。


「何だよ更にうるさないな。俺様は大賢者ガレフの一番の弟子で使い魔のクロだ。ジジイが死んで何年経った?」

「えと、大賢者様が生きていたのは今から800年前って伝えられてますっ!」


 クロの質問に答えたのは魔法使いのエルル。このダンジョン発見の契機になった古文書を解読したのも、ダンジョン自体を見つけたのも彼女の功績だ。エルルは古代文明マニアだった。

 この答えを聞いたクロは、ふむふむと深くうなずく。


「へぇ、よく800年持ったな。流石はジジイの結界」


 ここで、改めてアツモがクロをじっと見つめる。


「クロとか言ったな。お前が秘密兵器なのか?」

「ああそうだぜ。魔族を追っ払った後、ジジイはまた同じ事になると踏んで俺様を時を止める箱の中に眠らせたんだ。安心しな。俺様はジジイから全ての技術を継承している。つまり、俺様が起きたって事は大賢者が復活したって事なんだぜ」


 彼の言葉通り、クロを連れたパーティーは快進撃を続ける。冒険中にどんな強敵のモンスターと出会っても彼の魔法で瞬殺された。調子に乗ったパーティーはどんどん魔族の中枢に向かっていき、魔王城でも無双は続く。

 気がつけば、この騒ぎの元凶の魔王と対峙していた。ちなみに、クロ以外のメンバーは彼が仲間に加わってから一切バトルをしていないため、低レベルのままだ。


「俺達、こんな所まで来て良かったのかな」


 メンバーの1人、サムライのトムがビビりちらす。多分クロが離脱したら一番最初に倒されるのは彼だろう。前衛だし。素早さはそこまで高くないし。

 そんなトムの背中を、アツモがバシンと強めに叩く。


「なあに、クロに任せておけば大丈夫だ。今までそうだったろ?」

「そうです! 私達だってダンジョンのボスまでは倒せたんですよ!」

「ここまで来たら流れに任せよう。なるようにしかならねーよ」


 そんなメンバーのやり取りをよそに、クロは魔王に啖呵を切っていた。


「よう、お前はジジイが追っ払ってから何代目の魔王だ?」

「む! 10代前の魔王が苦渋を飲まされた時代の者が今も生きているだと? 猫の寿命は20年もないはずだぞ!」

「それもジジイのおかげだな。今度も追っ払ってやるぜ」


 クロは速攻で魔王に向かって飛び出した。大ジャンプからの高出力魔法攻撃だ。その魔法はかつて大賢者ガレフが古代の魔王に致命的なダメージを与えたのと同じもの。魔法は魔王に直撃して大爆発。そこで発生した爆煙は王の間全体に広がった。

 魔法が無事に発動した事で、見守っていた冒険者メンバーは全員が勝ちを確信する。


「「「「やったかっ!」」」」

「やってないわよ!」


 爆煙が消えると、防御魔法のフィールドと無傷の魔王。そして、その魔法を行使した白猫が現れる。

 この想定外の展開には、流石のクロも驚きを隠せない。


「なにぃ!」

「クックック……。こちらも無策で侵攻する訳がないだろう。対大賢者用に魔界魔術を極めた使い魔を作っておいたのだ。さあ、行くのだシロ! 魔界魔法の恐ろしさを見せつけてやれ!」

「任せといて! 人間界の使い魔なんかには負けないわ!」


 そこからはクロとシロの激しいバトルが始まった。お互いに究極の魔法を極めた使い魔同士、力は拮抗して簡単には決着がつかない。激しい破壊魔法の応酬で魔王城は徐々にボロボロになっていく。

 音速を超える超スピードでシロの黒光魔法を避けたクロは、ここでニヤリと口角を上げる。


「やるな! ならば究極破壊魔法テラフレアアアア!」

「なんの! こっちは絶対破壊魔法ファイナルデッドエンドエターナル!」


 2匹の放った究極魔法は空中で激突。そこで生まれた破壊エネルギーは魔王城を一瞬で灰燼に帰してしまった。半径10キロのクレーターの中心にぽつんと魔王と冒険者メンバーだけが残る。


「へへ、やるじゃねえか」

「そっちもね」


 2匹共まだやる気十分だったものの、それを魔王が止める。


「シロ、もういい。魔王城と魔族軍を勝手に壊滅させおって。いいか人間共! 我らは一旦引く! 命拾いしたな!」


 シロ以外の残存勢力を全て失った魔王は地方を任せていた魔族と供に魔界へと帰っていった。完全に気配がなくなったところでクロは結界を完全修復する。

 こうして、パム王国は魔界の脅威から救われた。


「今度の結界なら1000年は持つだろ」


 クロは自信満々な表情で胸を張る。と、ここでアツモからツッコミが入った。


「あのシロってやつが壊しゃしないか?」

「大丈夫。シロは究極魔法で体がボロボロになってた。アイツはもう低級魔法しか使えない」

「それなら安心ね」


 その後、クロはパーティーと離れてまたダンジョンに戻り、同じ宝箱で眠りについた。次にまた魔王が襲ってきた時に起こしてくれと伝言を残して。


 パーティーはそれからも冒険を続けて数々の武勇伝を作るものの、それはまた別のお話。



(おしまい)

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大賢者の使い魔 にゃべ♪ @nyabech2016

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