俺が彼女に求めること
羽間慧
俺が彼女に求めること
柔軟剤の香りが鼻腔をくすぐる。もう、彼女が来る時間になっていたのか。
コーヒーくらいは準備してやらないとな。俺は起き上がり、腕を伸ばした。
夜勤から帰って、そのまま廊下で寝てしまったらしい。フローリングで背中と首を痛めた気がする。遅れて空腹がやって来る。階段を降り、俺の腕に飛び込む彼女を出迎えようとした。
「玄関が空いたと思ったんだけど、気のせいだったか? 歳は取りたくないなぁ」
俺は頭を掻く。彼女とは一昨日の夜に別れたはずだ。セックスしに来てもいいのは夜勤の前後どちらか、訊かれたことを思い出す。
合コンで出会ったときは白のワンピースだった彼女から、電話越しで恥ずかしげもなく告げられた。こちらの顔に火がつきそうだった。
じきに一ヶ月になる俺らも次の段階へ行く頃合いだと、考えはした。だが、俺は家ですることに乗り気ではなかった。実家暮らしではないものの、一人で住んでいる訳でもないのだ。
噂をすれば、立ち尽くしていた俺の脚に擦り寄る者がいた。
「こむぎさんは今日も美人だなぁ。こんな可愛い顔してんのに、勝手に鍵を開ける覗き魔なんて信じらんねぇよ。あの顔なんなん? 『私のことはどうぞ放っておいて。そのまま続けなさい』って言いたいのか? 悟りを開いたお袋みたいで笑っちまうから、せっかくムード作っても台無しになるんだけど? こむぎさん、聞いてる?」
俺は淡い茶色の猫を抱き上げた。ひなたぼっこをしていたのか、干したての布団みたいな温もりがある。
背中の毛に顔を埋めようとする俺に、こむぎは唸り声を上げた。
「こむぎさんが辛辣すぎる。あー! 包容力がある彼女ほしーい!」
俺が彼女に求めること 羽間慧 @hazamakei
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