ねこ踏んじゃった
オカン🐷
ねこ踏んじゃった
うちに初めて猫がやって来たのは娘が小学3年生の頃だ。
パートタイムの仕事から帰ると、玄関にグリーンの持ち手のピンク色のプラスチックのバスケットが置いてあった。
「ねえ、お母さん、猫飼っていいでしょ?」
「あかんよ、このマンションはペット禁止なんやから」
賃貸マンションでもないのに自治会の規則が厳しかった。
「ええ~、あの猫片目が潰れているの」
同情をひく作戦に出たようだ。可哀そうやけど、バスケットの蓋は絶対に開けへん。顔を見てしまったら、目が会ってしもうたらえらいことになる。
冷淡な口調で言い放った。
「あかんもんはあかん。もとの所に置いておいで」
娘は素直に従った。
えらいぞ。
それから数日して、パートから帰った私が目にしたものは、廊下の真ん中に転がっている白い毛糸玉。
しかも、その毛糸玉ミルクを飲んでいる。
猫の赤ちゃん。
可愛い。
「ミルクは温めたの?」
「うん」
温めてへんやろな。やけど一生懸命舐めてるし、まあええか。
「雨が止んだら、もとの所に返してくるんやで」
私の声は弱々ししかった。
家の中に上げてミルクまで飲ませて、しかも可愛いんやで。
返して来いなんて、よう言えるな自分。
よちよち歩きの猫から視線がはずされんようになった。
自治会との約束事はどこへやら、お隣の家でも気のキツイ黒猫飼っているやん。
モフモフの毛が優しく癒してくれる。
疲れた心をとき解いてくれた。
それから18年、よう長いことうちの家族でいてくれた。
「お母さん、また猫飼おうよ」
「飼おうよって、飼いたかったら勝手に飼ったらええやんか。お母さんの許可はいらんのやで。ええ大人が」
「でも、お母さんが頼りなんやで」
「頼りにされても困る。かりにその猫がまた18年生きたとして、お母さんそれだけ生きられる自信ないわ」
「そんなこと言わんと、あと18年生きようや、猫のために」
最近の我が家ではこんな論争が続いている。
【了】
ねこ踏んじゃった オカン🐷 @magarikado
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