旅は続く

夜桜くらは

旅は続く

 国と国をまたぐ列車──国際列車。国籍も年齢も人種も様々な人々を乗せ、列車は行く。


 その国際列車には、一人の女が乗っていた。

 ウェーブがかった明るい茶色に近い金髪に、碧色あおいろ双眸そうぼう。服装は質素な物で、白のシャツにカーキ色のロングスカートとブーツ。四人掛けの座席に一人で座り、楽しげに外の景色を眺めている。

 と、そんな彼女に声を掛ける人影があった。


Hey there, girlieやあ、お嬢さん! ご一緒しても?」


 掛けられた訛りの言葉に、どこか懐かしさを憶えて、金髪の女は振り向いた。

 そこに居たのは、二十代後半から三十代前半ほどに見える男だった。

 茶みがかった金髪は、癖毛なのだろうか。肩に届かない長さで、所々はねている。快活な笑みを浮かべた顔は、どちらかと言えば整っている方だろう。

 服装は白のシャツに紺色のズボンという格好で、大きなバックパックを背負っている。履いているブーツを見ても、旅慣れているのは明らかだ。


Yeah, ええ、I'm cool with it構わないわ.」

Thank youありがとう. では失礼」


 金髪の女がうなづくと、男は対面の席に座る。そしてバックパックを隣の座席に立て掛け、座席の背にもたれ掛かった。


「いやあ、列車はラクでいいな。こうして足を休められる」

「フフ、そうね。貴方、お名前は?」

「おっと失礼。俺はCapsonキャプソン. Capキャップとでも呼んでくれ」

「よろしく、キャップ。私はSnowelleスノウェル. Snowスノウでいいわ」

Okわかった. スノウ。ところで、一人で旅行かい?」

「ええ。自由気ままに、あちこち旅してるの。キャップは?」

「俺? 俺は見ての通り、バックパッカーさ」


 そう言って、キャプソンは人懐っこく笑う。


「普段は歩いて旅をしてるんだが、たまには気分を変えてな。こうして列車に乗ってみたってわけだ」

「あら、そうなの。ならこれからしばらく、旅仲間ね」

Yeah.ああ。 It's nice to meet aこんな可愛い子と girlie in this train旅ができるなんて最高だ.」

「フフ、お上手ね」


 軽快に話すキャプソンに、スノウェルはクスクスと笑う。

 そんなスノウェルの様子を、キャプソンは微笑ましそうに見つめた。


「そのロングスカートもいいセンスだな」

Thanxありがとう. これはちょっと良い物でね。私のお気に入りなの」

「確かによく似合ってる」


 楽しそうに笑い合う二人。それからしばらく、二人は会話を楽しんだ。

 キャプソンは旅の土産話や、自身の体験談を語り。スノウェルはそれを聞きながら、穏やかな笑みを浮かべて相槌あいづちを打つ。


「それでさ、そこで食ったパスタがもう絶品で! パスタなんてどこの店でも食えると思ってたんだけど、全然違ったよ。麺ので加減も味付けも完璧だった」

Wow! まあ! It's really greatそれは素晴らしいわね. ノフェイの方には何度か行ったけれど、そんな名店があるとは知らなかったわ。一度行ってみたいわね」

「ああ。是非とも行ってみるべきだ。話してたらまた食べたくなっちまったよ」


 そう言って苦笑するキャプソン。そんなキャプソンに、スノウェルはクスクスと笑う。


「そんなに美味しかったのね」

「そうとも。スノウはどうだい? どこか最高の一皿はあるかい?」

「そうね……モルベンで食べたポワレは絶品だったわ」

「モルベンか。あそこは魚料理が美味いと聞くな。どんな味だった?」

「小ぶりのお魚で、上品な味わいだったわ。皮はカリッと焼けていて、身はふっくらと柔らかくて……舌の上で旨みが溶けていったわ」


 スノウェルの語る言葉に、キャプソンは喉をごくりと鳴らす。


「そいつはいいな。俺も是非食べてみたい」

「あら、でもモルベンに行くには、一度ソゴルへ戻らないとダメね」

Ah……, I seeああ……そうか. まあいいさ。またそっちの方に足を延ばすのも悪くない」

「フフ、そうね。旅は終わらないものね」


 残念そうに頷くキャプソンに、スノウェルはクスリと微笑む。


「貴方との旅も、楽しい時間が過ごせそうね」

「俺もだ。一人旅は気楽だが、話し相手がいるのもいい」

「ええ。私もよ」


 二人は穏やかに笑い合い、穏やかな時間を過ごす。

 そんな他愛もない会話を続けていると、不意にアナウンスが流れた。どうやら次の停車駅が近いらしい。


「おっと、もう次の駅か。んじゃスノウ、俺はここで失礼するよ」

「あら、そうなの? 楽しい時間はあっという間ね」

「まったくだ。できればもっと話していたかったが……」


 名残惜しげに眉を八の字にすると、キャプソンは立ち上がる。そしてバックパックを背負うと、スノウェルに向けて手を差し出した。


「それじゃまたな、スノウ」

「ええ。またどこかで、キャップ」


 スノウェルはその手を取り、握手を交わす。そして列車が停まると同時に、キャプソンは手を離して降車口へと向かった。そうして扉の前で一度足を止めると、キャプソンはスノウェルの方を振り返る。


Have a great journey良い旅を!」

You bet貴方もね!」


 別れの言葉と共に、キャプソンは笑顔でサムズアップをし、スノウェルはそれに微笑んで返す。そうしてキャプソンはきびすを返し、列車を降りていった。


「フフ……」


 そんな一連の流れに、スノウェルは小さく笑みをこぼす。そして扉は閉まり、列車は再び走り出したのだった。


 二人が血のつながった実の兄妹きょうだいだと知るのは、もう少し先の話。

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