始まりと終わり

「退屈だ。」

公園ベンチに座っている男はそう言った。実際にそうだ。この世はついに技術、食べ物、音楽人類の全てにおいてそれ以上のない頂点に達した。

男は全てに飽きてしまったのだ。人間は適応の動物。どんなに完璧なものでもいつかは飽きてしまう。いや、もしかしたら完璧じゃないから飽きてしまっているのかもしれない。

すべてが頂点に他の世界で完璧なものを作れないということは、神でもない人間なんかが完璧になれるわけがないという意味なのかな。

「そうだ。死んでみようかな。」

ふっと男の頭の中に浮かんだ死後世界のこと。

昔から死後世界は国ごとに差はあるが、大体は悪いことをすれば地獄、いいことをすれば天国に行くと伝えられている。

自分が絶対天国に行くという希望的な考えはしてない。何があるだろうが地獄でも天国でもこの退屈な世の中より面白いのではないかと考えただけだ。

「どこで死のうかな。」

生きる理由もないからか長く悩まずに死ぬことを決めた。 その後はどこで死ぬのかだ。

目立つところでは迷惑だからなるべく目立たないところで死のうと男は思った。

「あそこにするか。」

ちょっと街を歩いたら出てきた10階建てのビル。

他のビルとビルの間が狭くて人が通らないから発見されるのも遅いだろうし、週末だからこの時間には人もいないから飛び降りる瞬間も目撃されないだろう。

階段を上りながら何も考えなかった。考えることもなかったけど。

遂に屋上に塗着した時には

「さよなら。世界。」

男は悩むこともなく体を投げた。











「ここは...?」

男が目を覚ましたのは明るい雲の上。本や映画で表現される天国そのまま。いつも想像していたのと変わらない天使たちの出迎え。そして到着した場所は想像通りの楽園。すべてが完璧で楽しい世界だ。まさに男が求めていたことばかり。

「これだ!これが僕が求めていた楽しさ!」

久しぶりの楽しさに男は喜んだ。

そんなに想像通りの天国を楽しんでいたところ、急に世の中が消えてまた始まった。

「なん...だ?お酒を飲み過ぎて昨日の記憶がないとかの感覚ではない。まるでこの世に一瞬存在しなかったような…」

「ああ、またバグったのかよ」

まだこの状況を理解してない時に知らない男性の声が前から聞こえてきた。声がする方向に目を向けるとスーツを着た背の高い男一人が見えた。

「あ、あなたは…?」

「普通は即消しだけど、久しぶりにだし今回は遊んでやるか。」

「いったい何の話を…。」

”即消し、今回は”とかの理解出来ない言葉を吐かれた男は混乱した。いったい何の話なんだろうか。

「ここは死後の世界なんかじゃない。データで作られた世界だ。」

「そんなはずが…。僕は昨日のビルから飛び降りて死んだはず…。」

そうだ。この男は昨日退屈な今生とお別れした。

「死んだ後、お前の脳だけを摘出して記憶だけをデータ化させてこのデータの世界に入れた。現実でのお前の脳がどうなったのかは知らんがな。」

「噓つくんじゃね!」

男は怒った。自分がデータという普通なら、信じられない現実を、いや。データを見せられるとなれば、誰もがこのような反応をするだろう。

「たまにお前みたいなのがいるんだよな。サーバーを再起動する時に消えてからまたもどされる感じを受けて違和感を感じるやつが。」

「さっきから何わけわかんないこと言っているんだよ!」

「うるさいな。もう消えろ。」

もう飽きたのかスーツの男はは手を一振った。

降った後男は倒れた。足がどんどん無くなっていっていたから。

絶望しながら彼は少しずつ「削除」されていった。

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【短編小説】時に真実は残酷 @miraikun

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