願い

平 一

願い

表紙:

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818023214110010688


目の前に悪魔が現れた時、

私は迂闊うかつにもぼんやりとしていた。

いけない、いけない。

魔術師として、あってはならないことだ。


召喚儀式は術者の精神にも影響を及ぼし、

意識をとおのかせることがある。

これは、相手によっては命取りにもなる。

悪魔の召喚は、極めて危険な行為なのだ。


そいつははかなげな印象のある、

愛らしい少女の姿をとっていた。

『私の名前はビフロンズ……ああ、

ご存知ですのね? 嬉しいわ』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818023214103453201


私は心の中にある、願いの言葉を口にした。

有力魔術師の娘との政略結婚のために、

離別させられてしまった恋人との復縁だ。

許嫁いいなずけもまた私を許し、儀式を手伝ってさえくれた。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818023214133072603


すると悪魔も、喜んだ。

『本当にそのかたと、お会いになりたい? 

良かった、彼女もそれをお望みですよ!』

願ってもない展開だ。


私はすぐに希望をかなえるよう命じたが、

返ってきたのは意外な言葉だった。

『ご免なさい、初めに申し上げませんでしたね。 

実は呼ばれたのは、貴方のほうなんです』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818023214103914417


そのときようやく私の脳裏のうりに、

召喚失敗の恐ろしい記憶がよみがえってきた。

愛を取り持つ枝角えだつのの魔王フュルフュールを呼ぶはずが、

現れたのはたけり狂うけだもののようなベレスだったのだ。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818023214104392502


悪魔に関する知識もやっと、はっきり思い出せてきた。

ベレスは愛情を仲介するが、召喚者を襲うことがある。

そしてこのビフロンズは、

死者の霊を呼び出す悪魔だったということも……。


結局私は、現世での復縁には失敗したようだ。

悪魔召喚は、極めて危険な行為なのだ。

いや、何よりも危険なのは悪魔の力さえ使おうとする、

私達人間自身のさがだったのか?

そう思いながらも愛しい人と再会するため、

私は素直に、差し出された悪魔の手をとった。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16818023214108662305



フュルフュール:

ソロモン王が使役した、72大悪魔の中の一柱ひとはしら

秘密や神聖な物事に関する質問に答え、

男女の愛を引き起こし、雷や嵐を呼び寄せる。


ベレス:

同じく72大悪魔の中の一柱ひとはしら

男女を問わず愛情関係を取り持つが、

召喚時の危険が高く、特に注意を要する。


ビフロンズ:

同72大悪魔の中の一柱ひとはしら

占星術、幾何学、鉱物学、薬草学に詳しく、

降霊術や死びと遣いネクロマンシーの能力がある。

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