心霊スポットへ行きたい

@ku-ro-usagi

読み切り

「リアル心霊スポットあるあるー」

友人S

「うん」

「肝試しで心霊スポット行くと

大抵気がついたら1人いないか1人増えてる」

「ないよ」

「帰りに寄ったファミレスで人数より2つ3つ多く水を置かれる」

「ないよ、あっても1つだよ」

「えっ……じゃあたまにアルバム見返すとランダムに手足が消えてたりするのは?」

「心霊スポット関係ないし、ないよ」

「ないの?」

え?

みんな?

本当に?

普通あるよね?


小学校で肝試し後に撮った写真に1人で増えてて

みんな知ってる顔なのに名前が出てこなくて

大騒ぎになった

父親の転勤で着いていった中学校では

夏休みの度胸試しで山で1人消えて大騒ぎになったし

(どこ行っちゃったんだろうね)

高校では交換留学先で

肝試し的なのに誘われて

まぁ要は余所者いじめだったらしくて

日本とは全く違う

ひたすら広く深い森の奥に置いてきぼりにされたんだけど

記憶力だけはあるから普通に帰ってきたよね

外は若干暗くはなってたけど

そしたら

3日後位にリーダー格の子じゃなくて

大人しい腰巾着みたいな立場に見えた子が

あの辺りでは珍しい野良犬に襲われてさ

私は馬鹿だから気づかなかったけど

腰巾着みたいな子が実は発案者でリーダーだったらしい

能ある鷹は爪を隠すみたいな感じ?

あ、違う?

でもさ

森から1人で生還したしさ

これで仲間として認められるかと思ったのに

逆に露骨に避けられるようになって寂しかったな


そんな話を友人のSにしたら

不憫に思ったのか

「なんか可哀想だから大学の思い出の1つとして心霊スポット行って楽しい思い出作ろうか」

と言ってくれた

やったね

お礼に

手足が必ず消えるアルバム見せようかと言ったのに断られた

つれない


大学では

私はどこにも所属していないのだけれど

Sがサークルの夏のイベントの企画を任されていたみたいで

その1つで心霊スポット巡りすることにしたから

それにおまけとして参加させてもらえることになった


都会田舎問わず心霊スポットってわりとどこでもあるけど

街中からほどほどに近く

尚且つアクセスしやすい場所はヤンキーの溜まり場だったり

ホームレスの寝床になっていたりするらしい

それで

人の多い夏場は特に

心霊スポットに来た人間の車を狙う車上荒らしもちょこちょこ紛れて来るから注意が必要だとか

なるほどね

勉強になる

我が大学は

ほどほどに山が見え

到底花の都とは言えない場所にある

駅からもバスだし

移動は当然車になるから

私みたいなおまけでも1人多いと

それだけで座席1つ分使ってしまうなと申し訳なく思ったけれど

心霊スポット行きは

友達のサークルでは人気のイベントではないらしい

まぁそれもそうか

行き先は

山と山を繋ぐちょっと有名な橋を越えた先の

何とかトンネル

もう使っていないトンネルで

廃墟ではないからホームレスやヤンキーが常駐もしておらず

車上荒らし対策は

運転もしてくれるサークルのO部長が

車に残ってくれると聞き

万が一の対策もバッチリだった


いざ当日の夕方

車2台に分かれてのなかなかの大所帯

女子の参加は若干少なめだけど

元々女子が多いから参加比率は男子6で女子が4

イケメン先輩がいてその先輩目当ての子が多いらしい

そのイケメン先輩は今は助手席に座り

心霊スポット先での留守番も買って出てくれたO先輩と楽しそうに話している

部外者の私がそのサークルのイベントに快く参加できたのは

どうやら私がそのイケメン先輩目当てではないと

Sが女子に断言してくれたかららしい

老け専なのが功を成したね

それから1時間も走ったかな

今走ってる道より遥かに高い位置に例の橋が見えてきてさ

友人曰く

有名って言っても橋を散歩できるわけでもなく車で通りすぎるだけ

景色は良いけれど

この時間はもう車も通らないただの田舎橋

確かに

暗い山のシルエットの中

昼間はちゃんと赤く見えるんだろうけど

夕陽が落ちる直前の妙に赤黒く見えた橋は想像より全然短くて

何だか拍子抜けした

他の皆も同じことを考えたのか少し車内のテンションが下がった

その時だった

橋の真ん中から

何かが羽ばたく様に落ちたんだよ

鳥かな

鳥にしては随分大きいなと思ったけどね

直後に

橋からロープ?か何かでぶら下がるように揺れてすぐに止まったのは

とてもか細く長細いシルエットだった

「え?え?」

「何?今の」

「何あれ?」

「人?」

橋を見ていたのは私だけではない

私が乗る車ともう一台だけでなく

後から来ていた見知らぬ軽トラもノロノロ路肩に停まると

車から降りて

お爺さんが大声だしてどこかに電話かけてた

多分警察だろうね

隣にいたSには

「あんた、とうとう心霊スポットに辿り付くことすらできなくなったか」

と呆れ顔で言われ

私は心底憮然とした


憮然とはしたんだけどね

話はこれだけで終わらなかった

あれから

とりあえずいつまでもここにいるわけにはいかないって

警察も来るだろうしそしたら橋もしばらくは渡れない

例え渡れたとしても

さすがに心霊スポット巡りは不謹慎過ぎる

そもそも

女子だけでなく数人の男子も

橋からの首吊りバンジーを見せられて

もうそれどころじゃなさそうでイベントは即中止

でも

一番動揺して

動揺どころじゃないか

動けなくなったのは

運転手の先輩

O先輩で

大柄な先輩だから

運転席から下ろすのも大変な位固まってしまっていた

それで

イケメン先輩は免許持ってなくて(くっそ使えねぇ)

免許持ってて尚且つバンタイプの車を運転ができるのは私とSで

結局Sが運転して大学まで戻った

リアタイ生首吊りを見せられて運転できなくなったO先輩は

助手席で地蔵のように固まり

Sの代わりに隣に例のイケメン先輩が来たんだけど

このイケメン先輩

話すものほぼ初めてだったんだけど

アホだった

自分で言うのもなんだけど

よくここの大学入れたなと思ったら

「半分コネだ」

と隠しもせず悪びれもせずに教えてくれた

聞く私も私だけどさ

あと

半分ではなくほぼコネだろお前

話を戻そう

そのアホだけど

間違えたイケメン先輩だけどさ

年相応のさ

ごく自然な有り余る性欲と

コネは半分とか言っちゃう辺りから窺えるプライドだけは

人並み、いやそれ以上は高いみたいでね

この短時間の会話でもそれは有り余る程度には察した

きっと

それらの要素全部がマイナスの方向へ進んでたんだと思う

先輩だけのせいでは決してないけどね


私は次の日に知ったけど

あの橋から首吊りバンジーを決行したのは

うちの大学の1つ上の先輩だった

それで

元はあのSのいるサークルにいたらしい

本人は元でも

現サークルの1人と連絡などは取り合ってたみたいで

その人はもう一台の車に乗っていた

その人経由で

何日の何時ごろに

心霊トンネルに行くと聞いて知っていたんだって

世間話だと思ったし教えた彼女はその時は何も思わなかったって

あの橋の靴が揃えられた足許には双眼鏡も置いてあってさ

何もかも用意周到だった

あのサークルで

O先輩もあのトンネルへ行くと知ってから決めたのだろうね

あの橋からあの距離であの時間であのタイミング

よく車の判別が付いたなと感心するけど

相当優秀な双眼鏡で見てたんだろう

一世一代

そして最後の見せ場だものね

当然か

そして

橋の上からO先輩の運転する車を確認すると

時間的にも

もう先に首にロープを巻いて橋にも結っていたらしい

夕方だしね

元々人が歩ける歩幅はほぼなく

路肩に停められた車から太いロープが垂れていても隠れて見えない

そもそも車が通らない

薄暗くなってきて

首にロープ巻いたまま車の外に出て

双眼鏡で確認しつつ

スマホでも

「今はどの辺?」

と車に乗る友人に聞いていたらしい

てっきり家から送って来ているのだろうと思った友人は

何の気なしに

「もうすぐ○○だよ~」

と道の駅で返信していた

返信しなきゃよかったと言ってたらしいけど

返信してなかったら

きっと

橋を走ってきた私たちに向かって

大手を振ってから飛び降りたと思うよ

どっちにしろ未来は変わらない

スマホも遺書もちゃんとあったって

車の中にね

O先輩がなんやかんやとか

その後のこととか色々

あのサークル

女子のほとんどは

初めはみんなイケメン先輩目当てで入るんだけど

イケメン先輩、ほらアホでしょ

なのにプライドだけは一丁前だから

「遊びじゃないよ本当は遊びかも

あぁちゃんと君は本命だよ、やっぱり本命でない」

みたいなね

イケメン面に物言わせて適当にも程があるだろってくらい

節操なしに来るもの拒まずでサークル内外で女子を食いまくってた

それを近くで見ていたO先輩は

それを嗜めるどころか

「俺はあいつと仲いいから、色々知ってるし相談乗るよ」

って善人面しては

ハイエナも真っ青なレベルでやっぱり食い散らかし

なんなら

ただアホなイケメン先輩よりも

食い散らかしたあとは他の奴に回すだの何だのとやっていたらしい

そこら辺はもう胸糞過ぎて聞かなかった

ただ

たださ

人間が一人

自らの人生を華々しく終わらせる瞬間を見せつける程度には

酷いことをしていたんだよ


遺書はあってあれだけはっきりした自殺だし

彼女の両親はこれ以上娘を辱しめたくないからって

それで終わり

ただサークルは解散になった

イケメン先輩は普通に大学に通ってる

アホは無敵だな

O先輩は見てないし知らない

あぁ

O先輩にもね

生前

死ぬ前にあの彼女からメッセージが来ていたらしいんだよ

本人は勿論気にもせず返事なんかしなかったみたいだけど

もし

もし返事をしていたら

未来はまた違っていたかもしれないのにね

別の地獄にさ


あぁそうだ

そう言えば

なぜ私の友人Sは

あんな毒薬を煮詰めた鍋の中身みたいなサークルにいるのかと思ったら

「イ、イケメン先輩が好きだったのよ」

ははっ

男の趣味は私の圧勝だな

今の私の最推しは大学でも最高年齢の教授だからな

しかし

Sはよくアホ先輩に手を出されずに済んだものだと思ったら

さすがに自称本命たちの牽制が凄かったらしい

そしてもちろん

そんな事になっていることすらも知らなかったと

それ

ただの蚊帳の外

いや蚊帳の外にも程があるな

屋外だよもう

まぁ

友人がそれら




諸々に巻き込まれなくて済んだのはよかったけど


それら一連の騒ぎで

なんとなく学校だけじゃなく私自身も落ち着かなかったんだ

さすがにね

それで

数日後の休日

部屋でだらだらスマホ弄ってた時に

ふと

とん……

とね

頭に何かが降りてきたように思い出した

あの日

大学で待ち合わせした日

私は

「皆さんの写真撮りますよ」

って言ったんだ

部外者だしせめてカメラマンになろうと思ってさ

集まった皆を

スマホで写真を撮ったんだ

車に乗り込む前にね

その写真がスマホに残ってるはずだと

確かめたんだけどね

「……」

うん

いたよ

皆に混じってね

時間的には

もう遺書を積んでロープも積んで

1人で車に乗って橋に向かっていたか

もう橋には着いていたかもしれないはずの彼女がさ

ピースして皆と一緒に笑顔で写ってた

楽しそうに笑ってたよ

Oさんの隣でね







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