自由への飛翔

東京家兵

自由への飛翔

 その日のクーノポリの空は、珍しく雨模様だった。

 少し湿気た空気は、この街の女主人ドミナ――法的にはそうでなくとも、事実上の――である、都市参事会長にして帝国元老院議員、かの偉大な魔人クーの末裔、魔族の中の魔族……とにかく、その有角の美女、メウィア・クー・アルカディアーの午後のひとときを、少しばかり気だるいものにしていた。

「はぁ」

 何かものを考えているような顔つきで、椅子に座った彼女はため息をつく。別に雨が降ったから残念、というわけではない。

 雨の中では街を見下ろすテラスへ出られぬといえど、城の中には祖先の遺してくれた、何やら不思議な魔法で浮かんで、どうしてか雨風を受けることもない、ガラス張りの空中庭園がある。そこには、どこから来て、どこへ流れるのかも知れない美しい噴水があって、その中心からは、何を司るのかさえ忘れ去られた古い女神の像が、咲き誇る花々を見守っている。庭園について、花の名前以外の具体的な事柄をメウィアは知らないが、知る必要もない。大体それを作ったのは大昔の「」なのだし、保守点検が必要なら眷属クリエンテスの魔術師なり、奴隷として所有している魔術技師なりに頼めば良いことだ。花々にしても、植物系魔族の配下に世話を任せきりだからこそ、いつでも綺麗に咲いてくれているのだ。「魔王」の血を引いて生を受けた以上は、どうだって良いことのためにあくせくするなんて、初めからありえないことなのである。

 どうにもならない心の悩みを抱えて、花園で物思いにふけるような歳というわけでもない。

 帝都に住んでいたころ、召使いの少女と中庭の花を摘んで遊んでいた日々も、修辞学教師に古典作品を嫌々読まされていた日々も、下宿しに来ていた友人と同じように帝都の学院で勉強した日々も、もう大分昔のことだ。ちゃんと卒業して、元老院議員への登竜門とされる名誉ある職務に早速就いて、家の名に恥じない程度には働いてみせて、親と同じように元老院議員となって、家督を相続した。

 ぶどう酒をほんの少しだけ口に含む。南方から運ばれてくる安ワインというのは、鉛を入れて甘くしなくては飲めたものでない。本来、それはメウィアのような階級の者が嗜むものでなく、コロッセオや馬術場で熱狂する民衆に振る舞われるものだ。しかし、その安っぽい味というのが、ことメウィアにとっては、昔のことを思い出すための特別な手がかりになってくれるのだった。

 とはいえ、追憶のため、記憶の糸を必死に手繰り寄せる必要があるような歳というわけでもない。

 もし彼女がニンゲンだったなら、もうじき長老の一人として数えられるような歳やもしれないのは事実だ。しかし、エルフやドラゴンなんかから、彼女たち上位魔族――ニンゲンは「有角族コルヌティ」と呼ぶけれど――、それに獣人、ゴブリン、オーク、果てはスライムまで、ありとあらゆる知覚種族が混在して暮らす、「帝国の平和」《PAX IMPERIA》の下では、元老院の生き字引ぶるには格別、中堅ぶるにも少し若い。

 ある程度長い年月を過ごしたとて、ニンゲンと変わらないのは、大切なモノとの別れを経験するにはそれで十分なことくらいだった。

 手に入れようと思えば、全ての物が手に入る立場に生まれたのだ、と子供の頃は無邪気に信じていた。しかし思えば、まず物心ついた頃にはもう、母はいなくなってしまっていた。母の分まで十分すぎるほどの愛を注いで育ててくれた父も、ある皇帝が在位中ずっと続けた、誰も得をしない戦争の対応を続ける中ですり減ってしまい、最後には倒れた。彼はそのまま帰らぬヒトになってしまったとき、メウィアはさめざめと泣いた。その時は、こんなにも早く自分が家督を継ぐことになるとは思ってもいなかったし、家長として相応しい振る舞いをする能力が自分に備わっているかさえわからなかった。あの時の自分は、ただただ、年甲斐もなく、冷たくなった父に縋りついて泣いていた……

 なんとなくグラスを見つめて、それから少し中のぶどう酒を揺らしてみる。特に芳香が立つとか、そういうことはない。安いぶどう酒だどそんなものだ。ただ、子供の頃、よく知りもしないのに気取って、こうしてやたらとグラスの中の飲み物をくるくる回していたのを、彼女は思い出した。運命にただ流されてきた、と感じたことも昔はあった。もう一口、ぶどう酒を飲んで、目を閉じる。

 メウィアが一番好きだったニンゲンも、最期の最後まで本当の意味では自分の物になってくれはしなかった。どうだってよいものはいくらでも手に入るけれど、本当に大切な物は尽く手に入らない人生だ、と一人嘆くことも若い時はままあった。

 しかし、帝国東方において「第二の帝都」とさえ呼ばれる大都市の女主人として何十年も辣腕を奮ってきた今、彼女がそんな悲嘆を外に見せるようなことはもうない。少なくとも当主になってからは、自分で自分と家の道とを選び取ってきた、という大きな自信が今の彼女にはあるのだ。

 そんな彼女が自らに許すうち、メランコリックな感情を表現するための最大限の手段というのは、こうしてときおり昼からぶどう酒を嗜み、ただぼんやりと下界を見下ろして、過ぎた日々の思い出に浸ってみせることだけなのだった。


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 カルルス・ドミティウス・アルカディアヌスは困り果てていた。ほとんど頭を抱えていた。その抱える頭に、メウィアと同じ角はない。メウィアのつややかな黒髪とは違う、柔らかな茶髪を備えたその少年は、典型的な「帝国人」の子のようにも見える。しかし、瞳を彩るラピスラズリのような深い青は、少年が純血の帝国人でないことを示していた。

 もっとも、彼に混じった血というのは、帝国における家族法上の母と同じ魔族の血ではなかった。それはかつてメウィアに仕えた解放奴隷の血であり、生粋の帝国人からすれば野蛮で恥ずべき血に他ならなかった。

 それでもメウィアは彼の瞳に、かつて使役した少女のそれと同じだけの美しさを見出していたのだろう。彼を養子に出したドミティウス氏族は、二百年ほど遡れば皇帝を出したこともある一門ではあるけれど、今では取り立てて有力というわけではない。あのクーの血族が彼らと繋がりを作る政治的必要性は見受けられないのだ。ともすると彼女にとっては、彼の蒼い瞳だけが「カルルス坊や」と彼の妹を養子として一門に迎えた理由なのかもしれなかった。

 しかし今、カルルス少年を悩ませていたのは、彼の養母が彼をどう思っているのかではなく、彼女から検討課題として与えられた小論文、『哲人王と恒久平和についての一論考』であった。初めこそ、普段読まされているような古典作品よりもずっと短く見えたから、これくらい楽勝だと思って取り掛かった。ところが実際に読んでみれば、一体何を言っているのか、ちんぷんかんぷんなのであった。

「『正義ユス』とは、元来『拘束オブリガトゥス』をも意味するものであり、言い換えるならば、本質的には自由な存在であるべき個人を、社会的秩序の中へ編入する強制的規範である」

 声に出して読み上げる。これは書物を読む上での王道で、理解を助けてくれるのだ、と教師たちは言う。

「同時に、『正義ユス』とは、一の法秩序の下の全ての法的行為の根底にあって、評価規範として機能するものでもある」

 だけども、何度読み直してもわからないのである。

「古の思想家たちの言葉を借りるならば、法秩序によって『統治ポリテイア』を現実の世界に具現化せしめる『国家レス・プブリカ』の本質もまた『正義ユス』にこそ求められよう」

 修辞学教師に読まされた古典の中で、こんな一節が確かにあったような気はする。

「もし『国家レス・プブリカ』が『正義ユス』を欠くならば、秩序と平和とをこの世界にもたらす『統治ポリテイア』としての前提は失われていることになる」

 まあ、単語の意味は流石にわかっているはずなのだ。

「蓋し、『正義ユス』を喪失した『国家レス・プブリカ』とは、『統治ポリテイア』の似而非形象として現実に表出する『支配権インペリウム』に過ぎない」

 前言撤回で、正直に言えばカルルスには文脈からしか意味が汲み取れない表現もちらほらある。

「ここで、『正義ユス』の『拘束オブリガトゥス』的性質を踏まえ、『正義ユス』により個人を秩序へ編入する規範としての法が、その淵源たる徳のもとに、立法と施政と法務とを司る『絶対者インペラトル』をも『拘束オブリガティオ』し、強制をもって規律しうる制度を観念しよう」

 何やら高尚なことを言いたいらしいのだけは、とにかくわかる。

「かかる前提が成り立ちうるならば、平和と秩序とをこの世界にもたらすべき有徳の哲人としての『支配者ドミヌス』を、法は『拘束オブリガトゥス』をもって構造的に再製しうるのであって、その下で『支配権インペリウム』が発動するのであれば、理想的な『統治ポリテイア』を実現し、維持することもまた可能である。しかし……」

 だがその言いたいことが一体何なのかがわからない。やってられないな、と彼は思った。普段教えてくれる宮廷魔術師のクレイオスも、この本は今のカルルスが読むには難しすぎると言っていた。聞くと、これは何十年も前の法学者の弟子の一人が、学院スコラの卒業に際して提出した法論文なのだという。それを聞いたとき、一体なんでこんなものを自分に読ませるんだ、と彼は愚痴りたくなった。

 とはいえ、カルルスはメウィアの期待を裏切りたくなかった。彼はメウィアが好きだった。生みの親ではないし、直接に身辺の世話をしてくれるというわけでもない。それでも、彼女は彼と彼の妹を、間違いなく愛してくれている、と彼は思っていた。なればこそ、その期待には応えたかったのだが、一方でこのわけのわからない論文との睨めっこについては、少なくとも今日はもうごめんだった。

 自室を出て、宮殿の長い廊下を行ったり来たりしてみる。読むわけでもないのに、冊子はまだ右手に持ったままだった。それは言ってみれば、いちおう読む気はまだあるのだ、ということを誰にでもなく示すための、彼なりのエクスキューズだった。最初のうち、カルルスは部屋での読書に戻るべきか迷っているかのように、廊下の往復を意味もなく続けていた。しかしそのうちに彼は、馬術場にでも行って、メウィアの配下の戦奴たちの練習を見よう、と思うに至った。

 実のところ、カルルスは読書よりも、乗馬をしたり弓を使って的当てをしたりする方がよほど好きだった。法律は格別、古典も魔法もつまらない。クレイオスは立派な先生だとは思うが、どうにも堅物で仕方ない。彼にあれこれを事細かく教わるよりも、メウィアの私兵ブケラリィである戦奴たちの手解きを受けて、馬に跨って風を切る方が、カルルスには断然楽しかった。

 それに、そうして彼が戦奴たちの教えを受け、武芸に親しむことをメウィアが嫌っているかというと、別にそういうわけでもなさそうだった。たまに、彼の妹を連れたメウィアが馬術場まで様子を見にきて、馬から落ちたりしないようにね、とかなんとか言ってくることもあるが、とはいえ止めるよう言ってきたことは一度もない。わざわざ「魔王」の血筋に大昔から代々仕えている宮廷の魔道士に自分の教育を任せたり、難解な論文を渡してきていたりといった事情から、賢いカルルス少年は、彼の法的な母親が自分に期待してくれていることに気づいてはいた。だけども、彼女の望む自分の姿、彼女の期待する未来のカルルスが、一体どのような存在なのかは、実のところ彼には皆目わからないのだった。

 歩いていくうちに、彼は空中庭園に出た。この庭園は宮殿の不思議な構造上、中心といってもいいような位置取りで、開けた空間となっている。つまるところ、城内のどこかに行こう、と思い立ったなら、敢えて遠回りしようとでもしない限りまずここを通ることになるのだ。彼はこれまた不思議な透明の床を踏みながら、今日はどうやら雨だけど、馬術場に人はいるだろうか、なんて考えていた。女神像を中心にいただく噴水の近くまで来て、少し離れたところにメウィアの護衛兵が直立しているのを見つけ、カルルスはどぎまぎしてしまった。裏手に回りこんで気づかれないようにやり過ごそうか、どうすべきか彼が少し迷っているうちに、護衛兵は自分のことを見つけて声をあげた。

「これはカルルス様」

 近くで椅子に座ってくつろいでいたメウィアが、それを聞いて、こちらを見たのがわかった。ラアール、間が悪いよ!とカルルスは思ったが、口には出さず、とりあえず会釈をした。

 この護衛兵はラアールという名の、まだ若い南方人の戦奴で、メウィアが最近よく護衛につけている自慢のしもべだった。そして実はカルルスにとっても、彼は信頼できる歳の離れた兄貴分なのであった。彼は主人であるメウィアの前では寡黙な護衛として振る舞う男であり、メウィアの養子たるカルルスにも礼節を尽くしてくれる。しかし、馬術場での彼とカルルスの関係は、乗馬や武芸については師弟と言ってもいいようなもので、カルルスは身分を越えて彼のことを尊敬していた。

 とはいえ今のカルルスは、ラアールの生真面目さに不平の一つも言いたい気持ちになっていた。勘の鋭いラアールから隠れおおせるのは初めから難しいこととはいえ、それなら自分がコソコソと馬術場へ向かおうとしていることにも気づいて欲しかったな、と彼は心の中で独りごちた。

 メウィアはとくに何も言わず、こちらを見ていた。言葉はなくとも、その眼差しの望むところが一体何なのか、カルルスには理解ができた。彼は観念して、メウィアたちのところまで少し早足で歩き出す。近づいてみれば、彼女はこの昼間からワインを飲んでいるようで、そういう時は結構面倒くさいところがあるのもメウィアだということを彼はよく知っていた。冊子を握ったままでよかった、と彼は思った。

「あら、かわいいカルルス坊や。渡した冊子はもう読んじゃったのかしら」

 カルルスの彷徨を最初から知っていたような口ぶりで、からかうように彼女は言った。この状況を招いたのは自分自身であるのに、カルルスはなんと返したものか困って、黙りこくってしまった。そんな彼に、メウィアはにこりと微笑んで語りかける。

「さ、あなたもお座り。ぶどう酒は飲む?あなたのお婆ちゃんは、これが大好きでね……」

 カルルスは、別にぶどう酒は好きではなかった。


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 メウィアは、言うまでもなくカルルスが論文を読み込んでいないことに気がついていた。言ってしまえば彼がそれを読み進め、理解してくれるとも初めから思っていなかった。理解したとして――これは確か書いた本人も認めていたような記憶があるのだけれど――その内容はしょせん未熟な学生の理想論に過ぎない。では何故それを渡してみたのかといえば、単に、理解の全く及ばない書籍を前にした彼が、どのような態度を示すのかが気になったからだった。

 彼女が彼ら幼い兄妹を引き取ったのは、初め、出来心からの行動でしかなかった。ニンゲンの寿命は彼女たち上位魔族と比してあまりに短い。むかしメウィアは、彼らと自分たちとは、同じ時間を生きているわけではないのだ、と思うようにしていた。しかし直接自分が世話するわけでないにせよ、子供の親として面倒を見てやり、その成長を眺めているうち、ニンゲンに対する考えがまた少し変わったのも事実だった。

 メウィアはグラスのぶどう酒を飲みながら、カルルスに微笑みかける。

「今日、お酒を飲みながら、あなたのお婆ちゃんのことを思い出してたのよ」

「リナの婆ばのこと?」

 婆ばという言葉を聞いて、メウィアは上品に少しだけ笑う。カルルスには、なぜ彼女が笑ったのかがわからないようだった。

「カルルス、お婆ちゃんのことは覚えてる?」

 彼としては少し返答に困るところだろう。

「うん」

 そう返してくれたけども、彼はきっと、そんなに覚えてはいない。物心ついた頃にはメウィアの城にいたのだし、産みの親のことさえ大して覚えてはいるまい。しかし祖母がメウィアに仕える奴隷であった、ということだけは、城内にいれば嫌でも知ることになる。メウィアがかつて、彼の祖母に執心していたことも含めて。

「苦労してきたはずなのに、すごく優しい人だった。メウィアに仕えていたからかな」

 彼女はグラスに残った葡萄酒をぐいと飲み、その分の感傷を声に出す。

「元から優しい子だったのよ。お花の冠を私に作ってくれたりね……」

「メウィアにもお花の冠なんかで喜ぶ時期があったんだ」

 メウィアは少しだけ目を閉じて、それから急にカルルスの頭に手をやって撫でる。すこし縮こまってしまったカルルスをよそに、彼女は呟くようにして言う。

「そうよ?誰にだって、そんな時はあったのよ」


 メウィアは昔、あるニンゲンの少女のことが好きだった。その子は内気で泣き虫だけれど気が利いて、メウィアが知らないような、森の中の草木や花々についてもよく知っていた。それに、何より、ずっとメウィアに尽くしてくれた。だからし、彼女がニンゲンの中堅氏族、ドミティウス一門の男に恋をした時も、――本当は喉のあたりに詰まるような感覚がして、胸の奥にツンとした冷たい何かが広がるのがわかるくらい、苦しかったけれど――手助けをしてやった。

 そしてメウィアは、彼女が、自分には今まで見せたことのないような笑顔を男に見せている様を目にすることになった。自分の選択を心底後悔する感情と、彼女を幸せにしてやれたという感情とが、身体中でぐちゃぐちゃに入り混じってしまって、メウィアはもうどうしようもなくなってしまった。その日、彼女はぶどう酒を飲みまくって、結局誰も見ていないところで吐いた。

 少しして、その男は極東の戦地へと出征していき、音信不通になった。メウィアは気を利かせて、極東に展開する軍との伝手を使って男の状態の照会なり確認なりを行っていた。最初のころは返答が毎回違った。何某方面に展開していると思われるだとか、都市攻めを行っている部隊の指揮を取っているかもしれないだとか、まだ生きているのだろう、という希望が持てるような報告があった。けれど、時間が経つにつれて、彼の健在を示すような文言は減っていって、最後にはただ「戦闘中行方不明」という短い一文だけになった。その後は、何度問い合わせをしても、もはや文面が変わることはなかった。

 いずれにせよ、音信が途絶えてから半年ほど過ぎたころには、メウィアにとって彼の死、少なくともその未帰還はほとんど確実なものに思えていた。それを確信した彼女の胸中には、奇妙な喜びが芽生えていた。「戦闘中行方不明」と伝え聞くのを三、四回ほど繰り返した後のある日、メウィアは自分の持てる最大限の誠意と、厳粛さと、そして優しさとをもって、男の未帰還をかつての少女へと告げた。幼い子を連れたその男の妻は、もう嘆き悲しむことはせず、しかし涙を堪えながら、そうでしょうね、とだけ返して、子の手を強く握るばかりだった。

 遅きに過ぎるとはメウィア自身思うところだけれど、この時になって彼女はようやく、愛する人を失ったのが目の前の女だけではないことに気がついた。自分が知っていた、自分の愛していた、内気で泣き虫なあの少女もまた、もうこの世界から永遠にいなくなってしまっていたのだ。それもきっと、とっくの昔に。

 メウィアの胸中から、愛してやまなかった、あの少女の無謬の幻影は消えてしまって、代わりに男の未帰還を内心で喜んでいた自分へのどす黒い嫌悪感が、溢れるほどに湧き出してきた。その日の彼女はまたぶどう酒を飲みまくって、子供の頃に父から与えられた、美しいビロードのベッドを嘔吐物まみれにして寝た。


 メウィアはカルルスの髪をワシャワシャと撫で上げる。カルルスは少し困惑しているが、メウィアは気にせず撫で続ける。

 言うまでもなく、彼女はカルルスの蒼い瞳に、自分がかつて愛した少女の面影を見ていた。ニンゲンは変転し続ける、落ち着きのない生き物だ。彼と彼の妹とが、どのように育って、どのような人物になるかはメウィアにもまだわからない。しかし、今度ばかりは、ちゃんとした計画を立てて、彼らが善い人生を送れるよう、愛し続けてやろうと彼女は決めていた。それが、彼女の考えるところの親としての責務なのだった。メウィアは、彼女の計画する「アルカディアー家のニンゲンとしての人生」を、目の前の少年がきっと気に入ってくれるはずだと、なんの理由もなく信じていた。


 その時とつぜん、何かの影がメウィアたちのもとを通り過ぎた。鳥の大きさではない。彼女は消去法的に飛行種族の存在を思い浮かべた。とはいえ彼女は、自分が空中庭園に滞在するときいつも、ハーピー系の配下に空域侵入制限をかけさせている。そして、この天翔ける侵入者が彼らを無理やり排除してやってきたのなら、既に城内は大騒ぎになっているはずである。

 そうすると、頭上を通り過ぎた影の主というのは、飛行種族に顔が利いて、なおかつ自分の元まで通しても良いと判断されうるような者、ということになる。そしてメウィアには、幼少期を共に過ごした竜族の旧友以外に、そのような条件を満たす候補が思いつかなかった。


 ラアールが、ほんの一瞬だけ左腰の剣に意識を向けたが、しかし彼の左手は、鞘に触れるその直前でぴたりと動きを止めた。

「竜人……」

 カルルスの呟きが終わる前に、ラアールはバネに弾かれたような早さで腰のケースに差し込まれていた弓を取り、殆ど同時に矢筒からも一本の矢を引き抜いていた。

 それを見てか、竜人は少し離れた場所にバサリと大きな音を立て着地した。雨除けだろうか、大きな植物の葉を頭に被っていて、一瞥では竜相を判別し難い。その背には、北の極地「ヒュペルボレイア」で見られるという、オーロラを思わせるような、美しい七色の翼が広がっている……

 しかしメウィアは、その容貌をよく観察するまでもなく、「魔王」の子孫をして傲慢ささえ感じさせる堂々としたその立ち振る舞いと、事前連絡なしでいきなり空から舞い降りてくる自己中心ぶりとにこそ、旧友の姿を見出していた。

「オトナス!」

 メウィアは臨戦態勢に入り既に矢を番ている護衛を手で制すと、ゆっくりと立ち上がって言う。

「久しぶりね」

 しばらくぶりの再会だろうに、名を呼ばれた竜人の方は大して嬉しそうではない。

 陽光を浴びればアメジストのように輝く、貝紫の竜鱗に覆われた大きな尻尾も、この雨を抜けてきた今では、ぬらりとした本来の質感が際立っていた。

 来訪の理由が何なのかは、数日前に配下の報告を受けていたこともあって、メウィアにはだいたい見当がついていた。

「兄さんが死んだ」


 ##########


 カルルスは、空から降り立った竜人のことを、困惑をもって見つめていた。

 竜人を見るのは初めてではなかった。けれど、目の前の竜人からは、外でよく見かける緑色の竜たちのような、なにか落ち着きのない、フワフワとした雰囲気や、あるいは極度に鬱屈とした感じは見て取れなかった。

 綺麗だけれど、なにか冷たいような印象も拭えない……

「青い瞳」

 竜人が呟いたのを耳にして、カルルスは彼女の方もこちらを見ていたのにようやく気がついた。彼女の顔に注意を向けてみれば、昏い橙色の瞳と目が合った。彼女の、人間とも魔族とも違う縦長の瞳孔は、カルルスのことをしっかりと捉えていた。けども、彼はそこに、自分への興味や、あるいは優しさのような、そんな感情を見ることはできなかった。

「あの奴隷の血筋か。キミは変わらないな」

 メウィアは答えないでカルルスの方を向く。

「カルルス」

 さっきよりも少し低い声だった。

「彼女はね、あなたのお婆ちゃんと私の古い友達なの。ちょっと私はこのヒトとお話があるから、お部屋にお戻り」

 カルルスは、この法律上の母親に対し、口答えをする権利がないことをよく知っている。

「う、うん。わかった。また後で」

 メウィアはそれを聞くと、微笑みを作ってみせるような間もなく、すぐに竜人の方へ向き直った。ラアールはこちらを見て、小さく頷いたが、もう何も言わなかった。

 竜人も、そして声が低い時のメウィアも、少し怖く感じた。少なくとも、自分は今ここにいるべきではないのだろう。結局、カルルス少年はすごすごと自室へ帰ることにしたのだった。

 彼は途中で振り向いて、もう一回だけ竜人の方に目をやった。彼女は、もう全く彼に意識を向けていないようだった。


 部屋に繋がる回廊まで戻ってきたころになってようやく、彼はメウィアの呼んだ名が、『哲人王と恒久平和についての一論考』の著者のそれと同じであることに気がついた。

 先ほどの短い邂逅から得られた彼女の印象に鑑みれば、少し合点がいくような気もした。


 ##########


 ああ、やっぱり。

 カルルス坊やをこの場から遠ざけつつも、メウィアは思う。

 彼女の兄は、支援軍アウクシリア経由で帝国市民権を得ていた。自由民が市民権を得る経路としては全く典型的なものだ。彼が過去の戦争において獅子奮迅の活躍を見せた英雄で、元老院議員にも伝手を作り政治力を持とうとしていたことは、一世市民としては極めて特異だったけども。

 しかし、メウィアの記憶では、彼はお世辞にも帝国の上流階級の多く――メウィア自身を含めて――から、好感を持たれそうな人物ではなかった。ラゴナスは確かに戦いの場では勇猛な戦士であったろうし、事実長い時間を帝国軍への奉仕に費やしてきた、力強く正義感に溢れる竜族の男ではあった。

 けども、いわば外人部隊として挙げた軍事的功績は、それがどれほどのものであろうと、政治言論の場でさして役に立つものでない。彼は、そこではしょせん、支援軍上がりの粗野な新参の帰化者でしかなかった。それに、彼が目指していた「竜族の元老院議員」の椅子には、彼なぞよりよほど座るに相応しい者が他にいることを、彼女は誰よりよく知っていた。

 それでも、メウィアは旧友のことを思いやり、彼女の方に向き直りながら、もう一度驚いてみせた。

「ラゴナスさんが」

「ああ」

 オトナスが頭に被った「ヘタ」を少しずらす。そこから覗く橙色の瞳には、意外なことに、メウィアが思っていたほど強い感情は宿っていなかった。

「毒か何かでやられたらしい」

「竜族を殺せる毒なんて」

「ボクもそう思った。詳しいことはわからない」

 なぜ、誰が、ラゴナスを殺したのだろうか。具体的な経緯について、メウィアは知らない。しかし、知る由もない、と言えば、それは嘘になる。ラゴナスは何人かの元老院議員から明らかに敵視されていたし、思慮の足りない今上の皇帝による「万民化勅令」にも真っ向から反対していた。飛行種族系の議員からはある程度後援を受けていたにせよ、大して寄るべのない、生意気な成り上がり者が消されるのは、帝国社会では大した事件というわけでもない。

「兄さんは乱暴なところもあったし、例の自由人への市民権付与政策にも反対してた」

 オトナスは無感動に続ける。

「大方、人間系の議員にやられたんだろうね」

 自分も同意見だ、という言葉が、メウィアの喉の辺りまで出かけていた。彼女は、それを無理やり飲み込むように目を瞑って返す。

「残念だわ」

 オトナスはその言葉を聞いて、少しだけ頷く。それまで広がったままだったオーロラの翼も、少しだけ閉じた。

「お願いがあるんだ」

 一拍の静寂があった。

 彼女はメウィアのもとへ数歩ほど歩み寄る。

「帝国の中心地域は」

 オトナスの視線が、雨の降るテラスの方へと向く。

「たぶん、ある程度ほとぼりが冷めるまで危険だ」

 彼女は「ヘタ」を取って、右手で胸の辺りに抱え、メウィアに向き直る。

 この時点で既に、メウィアは彼女に市民権を付与するため使えそうな根回しの経路を考え始めていた。

「兄さんには小さい仔がいたんだ、まだ飛べないくらいに幼い」

 オトナスの髪、いや羽毛は、「ヘタ」からこぼれ落ちた雨露をはじいて、つやつやとした紫色を保っている。

 メウィアは少しだけ眉を動かして、とりあえず短い相槌を返す。

「そうね」

 ラゴナスの仔竜については、オトナスが帝国市民になってから養子に取るという構成が使えないか、いやそれは迂遠か、いずれにせよ関連しそうな近年の皇帝勅令を調べさせる必要はあるな、というふうに、メウィアは考えを巡らせていた。

 そこらでギャオギャオしている愚劣な竜族の統率者であるよりかは、帝国の統治構造の中で才覚を発揮する方が、彼女自身にとって望ましいことのはずだ。何より、思慮に富む長命種で、しかも自分の幼馴染であるオトナスを、政局の味方にすることができるなら、それはメウィアにとっても非常に大きな利益となる。

 きっかけが悲劇であれ、オトナスがようやく帝国市民となるのであれば、あとはほんの少し助けてやれば、そのうちに彼女は相応しい席を得てしまうだろう。メウィアはそう確信していたし、それを望んでいた。

 オトナスが続きを言う素振りをみせたから、彼女は先回りするように問いかけた。

「母親はいるの?」

「ああ。だから……」

 そこだけ聞いた彼女は、オトナスを遮って先に答える。

「わかったわ、その母子については一門の者に保護させる」

「本当にありがとう、でも、頼みはそれだけじゃないんだ」

 オトナスにしては、少しむず痒そうというか、申し訳なさそうな調子だな、とメウィアは思った。腰の低い、丁寧な物言いを見せることはできても、結局物事は自分の思い通りに進むだろう、という傲岸不遜な腹の内を隠せないところは、昔から何も変わってはいないのだけれど。

「何だって聞いたげるわよ」

「その」

 オトナスは右下の方にちょっとだけ目をやって言う。

「ボクの蔵書を彼女にやろうと思うんだ。そのうち読めるようになったらね。だから、けっきょくはそれも暫くキミに預かってもらうことになる」

 彼女は気まずそうな顔を浮かべてみせた上で、しかしメウィアの返事を待つことなく、一方的に話を続ける。

「分量は結構なものになるから、こんど氏族の者に分割して運び込ませるよ。この宮殿の書庫にでも収蔵しておいてくれると助かるんだけれど」

 これを聞いて、メウィアは少し驚いた。その頼みを聞くの自体は別に苦ではない。とはいえ、彼女としては、オトナスが本を手放す理由が全くわからなかった。

「あと、その仔竜にはよい教師をつけてやってほしい、できれば学派は……」

「それは」

 メウィアが遮って問いかける。

「それはいいけど、オトナスはどうするの」

 それを聞いたオトナスは、少しの間目を閉じた。しかしもう一度目を開くまで、沈黙が流れる、というほどの時間はかからず、彼女は改めてメウィアの目を見据えると、こう言った。

「ボクはいちど、帝国の外へ出てみようと思うんだ。西か東か、南か北か、何もわからないけれど」

 それは、メウィアが全く想定していなかった回答で、こんどこそ二人の間にひとときの沈黙が訪れた。


「帝国の外!?」

 メウィアは驚きのあまり、大声をあげてしまった。

「帝国の外に」

 言葉が詰まっても、目も口も開いたままだ。彼女は瞬きをして言い直す。

の外に行って」

 自分が少し感情的になっていることに気づいた彼女は、一度息を大きく吸って、それから続ける。

「それで、一体何があるというの」

 気づけばオトナスの視線は、メウィアの顔からテラスの方へと移っていた。

「わからない」

「わからないってどういうことなのよ」

 また沈黙が流れて気まずい雰囲気になるその前に、メウィアは言葉を続けることにした。

「危険を感じることが少しでもあるなら、私がいくらでも力になるわ。帝都の近衛軍団プラエトリアニに難癖をつけられそうなら、クーノポリにいればいいわ。なんなら、私が直接あなたの弁護をする。暗殺者が来るっていうなら、私の私兵を貸して、寝室から便所まで張り付けてあげるわよ」

 メウィア自身、少し早口な自分の言葉が、どうも説諭じみているようにも思えてならなかったから、彼女はオトナスの方を向いたまま、自分の護衛兵を指差した。彼はとっくに武器をしまっていて、何も言わず、ただそこに直立していた。オトナスも彼に目をやった。しかしどうしてだろう、その目は、子供の頃、彼女がリナに向けていた目、憐憫と侮蔑との入り混じる目によく似ていたような気が、メウィアにはした。

「ボクは平気だ」

 それだけ言うと、オトナスはテラスの方へ向かってゆっくり歩き始めた。

 メウィアはその場に立ったまま、オトナスに向けて問いかける。

「ならどうして」

 オトナスは歩きながら答える。

「『帝国の平和』の中にいる限り、見えない物があるんじゃないかと思う」

「そんなもの、見えても意味がないわ」

の未来のためには、意味がある」

 彼女は歩みを止めない。

「そんなことしなくていいよ。私がどうにかして助けてあげるから」

 何も言わず、彼女は「ヘタ」を被り直して進む。声を少しだけ張り上げて、メウィアが続ける。

「文明のないところには、秩序も平和もないわ。ただ混沌だけが広がっている」

 オトナスとの距離と比例するように、彼女の声は大きくなっていく。

「光が届かないところには、ただ暗闇しかないのと同じように」

 オトナスは、それを聞いてから一瞬だけ立ち止まって、庭園の灯りに目をやった。

 その灯りはおそらく、とても古い時代のもので、しかし今も煌々と誇らしげに空中庭園を照らしていた。それは帝国の至るところで見られる街角の街灯と同じように、周囲に漂う微小なマナを集めて光を放つ、魔法のランプだった。けれども、帝国のものとはまた違う魔族独特の様式が、その外観からは見てとれる……

 それだけ確認したら、彼女はまた歩き出す。

「オトナス、そこでは貴女が学んできた知識も、法も徳も、そうよ、言葉だって!何も意味をなさないのよ」

 オトナスは答えないまま、雨の降るテラスへ出ていった。ついにメウィアも彼女を追って歩き出し、二歩後ろにラアールが続く。そういえば今日は髪に香油を塗っていたかしら、とメウィアは一瞬思ったけれど、それは足を止める理由にはならなかった。彼女の護衛兵たるラアールもまた、なんの躊躇いもなくその二歩後ろを保って進んだ。


 ##########


 外の天気は、小雨がぱらつく程度になっていた。

 メウィアがようやく追いついたとき、オトナスはテラスの手すりに腰掛けて、街の方を見ていた。

 後ろからの足音が止まったからか、彼女は呟くように言う。

「君の街もきれいだ」

 メウィアは彼女の側まで歩み寄る。クーノポリの街が見える。母祖たちの時代から代々受け継がれてきた、わたしの街、わたしたちの秩序で、それは「帝国の平和」の一部だ。

「当たり前よ」

「ボクは帝国の都市が好きだ」

 メウィアはその言葉に、彼女なりの感傷が含まれていることに気がついた。

「一つの法秩序のもとで発動した支配者の意思が、このアルティピアじゅうに、こんなにきれいな大理石の街を建てさせたんだ。法や秩序は、言葉によって綴られる幻想でしかないはずなのに、どんな凄い魔術や、どんなに強大な竜の力よりも大きな作用を、こうしてこの現実に及ぼしうる」

「そうね」

 普段のメウィアなら、クーノポリは「支配者」でなく、彼女の「母祖たち」が築き上げたものだ、と毅然として指摘するところだったけれど、今はただ、そう返した。

「ボクは文明と、秩序と、そしてそれを形作る、意思としての法とが好きだ」

 そう言ってからオトナスは、メウィアの方をチラリと見た。

「勿論メウィア、キミのことも」

 その言葉を聞いたメウィアは、長らく忘れていた、はにかむような気持ちというものが、一体どんなものだったのかを思い出した。まったく思いがけず、自分の顔がほころぶのを彼女は感じた。

「オトナス・ナスン・ソラヌム!」

 彼女は声を大きくして眼前の友の名を唱え、その翼に手を置く。

「貴方は、その全部にとって相応しいよ」

 メウィアの髪はだいぶ濡れてきていたけれど、オーロラの翼は細かな雨粒をいまも弾いていた。

「アルティピアの元老院と市民の名において、この私、メウィア・クー・アルカディアーが、今ここで保証するわ」

 オトナスはその言葉を聞くと少しだけ笑って、それから空を見上げてみせた。メウィアも遠くの空を見た。曇天だけが続いていると思っていたけれど、光の射しこむ雲の切れ間は、そこかしこにできていた。

「でも、帝国は」

 少しだけ俯いたけども、オトナスはもう振り向きはしなかった。

「結局、帝国でしかないのさ」

 そう言うと彼女は、手すりから身を投げ出した。それから彼女は、二度三度力強く羽ばたいて、メウィアには手の届かない雲海へと舞い上がっていった。

 メウィアは、旧い友が飛び去っていくのを、ただずっと見つめ続けるしかなかった。

 その軌跡には何かがキラキラと輝いていて、虹の雫のようだ、と彼女は思った。


 ##########


 カルルスは、やはり冊子を読む気にはなれず、自室の窓からなんとなく外を眺めていた。

 美しい翼を持った竜人が空の彼方へ飛び去っていく様が見えたような気がして、彼は少しだけ注意を向けた。この世にある全ての色彩を帯びているようにも思えたそれは、やがて雲の切れ間へと吸い込まれていって、すぐに見えなくなってしまった。

 それからもう一度、彼は『哲人王と恒久平和についての一論考』の表紙に目をやったけども、取り立てて何を感じるということもなかった。



 クーノポリの雨は、その頃にはほとんど上がっていた。

 下界の人々は、雨の女神の不安定な情緒と、雲の隙間からその様子を伺う太陽神の表情とを気にしながら、外へと繰り出し始めていた。

 けれども、空から見下ろす限り、そこに虹はかかっていないのだった。


24.2.24 初稿・初版公開/誤字修正

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自由への飛翔 東京家兵 @jkschmidt

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