1-36.最悪魔邪神王:インク・B・アーク


 「……あぁ、私はなんていう事を。……息子を殺した悪魔と同じように、私も同じようになっていたのですね。……私は、どうなるのでしょうか。……もう司祭にも……人間にも、戻る事はできないのであれば……死ぬしかないのでしょうか?」


 先ほどまで。

 人間をただ殺す、殺戮さつりくの悪魔だった自分を見せられていたかのように。

 事の成り行きを見ていた元司祭の悪魔が呟いた。


 「ふぃふぃ。そうか……辛いなら、介錯おわりにしてやるよ。おい、ポンコツ」

 「ダレの事だドチビ? ……まぁ、これでアンの仕事を終わらせられるなら良イカ」


 アン・エルは左手に持っていた巨大な散弾銃を、元司祭の悪魔に向けた。


 「……私の人生とは、神に祈っていた日々とは、いったい」


 悪魔達を燃やし尽くした残り火、燃え上がる炎を見つめたまま。

 両膝を地面につけ、腰を抜かした状態で、全てに絶望した顔のまま。

 元司祭の悪魔が呟いた。


 「オマエは……辛い夢を見ているんだ。神の為に働き過ぎたから……辛い悪夢を見ているんダヨ。目が覚めて。悪夢終了ゲーム・オーバーダ」


 アン・エルはそう言いながら、左手の引き金を引こうとしたその瞬間。


 「__!? 待って!!!」


 映像越しに、ユーサは大声でその引き金を止めた。


 「ユーサ・フォレスト? 何ダ?」

 「彼を……殺すのは、一旦止めてもらう事はできないのかな?」

 「ソレは、何故?」


 アン・エルは銃を降ろさずに映像越しでユーサと目線を合わせた。

 アン・エルは、早く自分の仕事を終わらせたいのか。

 天使として、苦しむ子羊の解放を中断された事に不快になっているのか。

 わからない程に、不機嫌な態度で返事をした。


 「その人は……後悔している」

 「ダカラ? 何?」

 「後悔する事ができるって事は……まだって事でもある気がするんだ」

 「へぇ……。それで?」


 アン・エルの横から、イフ・エルが楽しそうな声でユーサに話しかけ、次の言葉を待っていた。

 __言葉次第では、お前も処刑する・・・・・・・

 という視線、態度、圧力を。

 先程まで口喧嘩をするほど仲が悪そうだった紫と赤の天使が、今は息がピッタリ合わせてユーサに向けていた。


 「僕も人の事は言えないけど……後悔しない悪魔なんていない。……更生の余地はあるんじゃないかな」


 ユーサは、二人の圧力に圧倒されながらも勇敢に答えた。


 「ナラ、コイツの、今後の人生の面倒は誰がスル? 教会にしろト? 悪魔を飼いならすヤツなんて教会にはイナイ。天使はただ、悪魔を殺す、はらう事しかしない集団ダゾ?」

 「それは……」

 「ユーサ・フォレスト。お前の言っている事は優しくて良い言葉だ」

 「なら……」

 「しかし、優しいだけでは守れない。正しいだけでは伝わらない。今、この元司祭の悪魔は人間のフリをしているかもしれない。もし何かあった時に、お前が責任を負うのか? お前の家族にも迷惑がかかるだけだぞ?」

 「……」

 「できないのであれば、黙っていてくれ。俺達は天使として、コイツを苦しみから解放するだけだ」


 イフ・エルとアン・エルが、仮面越しの冷たい目でユーサを見つめる。

 

 「家族にも……」


 ユーサは、イフ・エルに言われた言葉。

 自分の家族の方を、不安そうに目を向けた。


 「あなた」

 「パパ」


 しかし、二人はユーサの判断に賛同するかのように

 ディアとマリアは、ユーサの手を強く握り返して答えた。


 「コレは僕の贖罪しょくざいでもある」

 「贖罪?」

 「僕は、ザキヤミに現れた彼と同じような、僕に似た悪魔を倒したんだ。倒したその悪魔も……彼と同じように利用されていた事すら覚えていない人間……天使になれると信じていた司祭だったのかもしれない。知らなかったとはいえ、救えなかったつぐないをさせて欲しい」

 「……へぇ」

 「……フン」


 ユーサは、マリアとディアの手を握りながら強く答え。

 イフ・エルは、ユーサの言葉を楽しそうに聞き。

 アン・エルは、つまらない態度で聞いていた。


 「そして、自分と同じような境遇の特殊な悪魔かもしれない。それは……放っておけない。だから彼は僕がとして、仲間として引き受けたい」

 「え……」


 ユーサの言葉に、元司祭の悪魔が驚いた声を上げた。


 「だから、その人に銃を向けるのを止めてもらえないかな?」

 「……ありがとう、青年。でも……良いんだ。天使様、どうか私を処刑してください」

 「__!? どうして!!?」

 「君のに、迷惑をかけられない」


 元司祭の悪魔が優しい顔をしたまま答え。

 遠く懐かしい昔の記憶を見ているかのように、ディアとマリアに視線を動かした。


 「もしかしたら君の家族が、私と同じように悪魔に……悪魔になった私に殺されるかもしれない」

 「__!?」

 「青年。最後に、私を人間扱いしてくれてありがとう。さぁ、天使様。私を神のもとへ……どうか」


 人間から悪魔と契約をした魔人が人間に戻った事例は存在しない。

 契約したら最後。

 人間の人生に終止符を打つものである。


 元司祭は目を瞑り、アン・エルの銃にこうべれた。


 「おい。アン・エル。銃を下げろ」

 「なんデダ? イフ・エル」

 「そりゃあ、こいつらが気に入ったからだ」

 「なんダソレハ?」

 「アン・エル。からもお願いできるかな? 民衆が見ている。できれば君の素敵な姿を知って欲しい」

 「……フン。今日は、もうアンは働かないゾ」


 イフ・エルが嬉しそうに笑いながらアン・エルに話しかけ。

 アン・エルは不服そうな態度を取ったが、シ・エルの言葉に銃を下げた。


 「ふぃふぃ。元司祭の悪魔君よ。俺の部下になるか?」

 「え?」

 「元々志があった立派な司祭であり、悪魔になり仮にも俺の攻撃に耐えたんだ。そしてお前は他の都市の悪魔と違い、まだ市民を手にかけていない。俺が強すぎて、一瞬で捕まえたからな」


 生きる事に絶望した顔の元司祭の悪魔。

 その迷える子羊に手を差し伸べるイフ・エル。


 「ユーサ・フォレストが言っていたが、後悔する事ができるって事は、お前はまだやり直せるさ。まだお前にもきっとできる事がある筈だ」

 「て、、天使様。。本当に……?」


 その姿は、まるで優しい天使。

 美形の少年天使が、悪魔を更生させようと手を差し伸べていた。


 「このオカフクでなら、顔や体が悪魔でも受け入れてくれる奴らは多いからな。もっと危ない奴らのいる違法都市だし。力ある者が地位を得る混沌の国家だからな。どうだ? 一緒に世界の為に、お前の力を使わせてもらえないか?」


 『最悪』の称号を持つ天使とは思えないほどの輝かしい紳士な姿。

 その天使の優しさに、涙を流しながらすがる元司祭の悪魔が神に祈るように、イフ・エルを称えた。


 その映像を見ていたザキヤミの市民達も、緊張がほぐれたのか歓声を上げていた。


 「ありがとう……ございます……天………………し…………さ…………ううううううううううううううううううううううううううAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 しかし。

 一瞬で狂気の時間が訪れた。


 元司祭の悪魔の体が、歪に溶け始め骸骨だけが残り、不気味にしゃべり始めた。


 「ハッハッハッハッハ!! 甘い!!! 甘いなぁ!! 『最悪』の天使!! イフ・エル!!! そんな事だから、聖戦ジ・ハードの時に、仲間と信じていた天使に殺されそうになったんだろう? ハッハッハッハッハハッハッハッハッハ!!!!!!!!!!!!」

 「__!? 聖戦ジ・ハードの事を!? お前は!!?」


 イフ・エルが、怒りに満ちた顔をしたまま骸骨に話しかけた。


 「忘れたのか? お前達が探している…………最悪魔邪神王。インク・B・アークだ」

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月虹が叶える【Arc魔転生】「生まれ変わっても幸せにすると約束したら自分が悪魔だった?」 桜月・椛(サラ・モミジ) @konohana3

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