虹の橋に雪が降る日

 歌うたいの猫が泣き腫らした顔を上げると、灰色の仔猫が雪だるまを持ってうたっています。そばでは黒い仔猫と白い仔猫がニコニコしながら、聞いていました。

 灰色の仔猫が持つ雪だるまは、歌うたいの猫に似ていました。確かに調べも、おかあさんがいつも作る曲にそっくりでした。

 歌うたいの猫はただ呆然と、仔猫がうたうのを聞いていました。



 灰色の仔猫がうたい終わると、他のふたりは大喜びです。

「すっごい、すてきな歌だった! 灰色ちゃん、もっかい、歌ってよ」

「うん! アンコールの拍手パチパチパチ!」

「パチパチパチ!」


「ちょっと、待って!」

 歌うたいの猫は、歌い出そうとした灰色の仔猫を止めました。

「それって…… きみの持っているそれって……」


 灰色の仔猫は、にっこりと笑いました。

「うん。ぼくのところに降ってきた雪だるまだよ」


「灰色ちゃんの雪だるまは、歌うたいの猫さんに似てるのよね」

「ウフフ。可愛いわよね」



 やはり歌うたいの猫の雪だるまに間違いないようです。でも、どうして彼の雪だるまが灰色の仔猫の元に届いて、他の誰にも聞くことができないはずの調べを、仔猫が覚えて歌っているのか——。



 驚きのあまり言葉の出てこない歌うたいの猫を見て、灰色の仔猫は答えました。

「あのね。歌うたいの猫さんのおかあさんは、お歌以外にも、地上のおうちのない猫たちやお外で暮らす猫たちのためのお仕事もするようになったんだよ。それで、きっと、地上でおうちのなかったぼくのところに降ってきたんだと思うよ」


「ちがうよ、灰色ちゃん。ぼくたちが虹の橋に着いた最初に、歌うたいの猫さんが言っていたじゃないか。歌うたいの猫さんのおかあさんも、ぼくらのおとうさんやおかあさんも、みんな、灰色ちゃんの家族だって」

「そうよ、灰色ちゃん。おかあさんは灰色ちゃんにだけ、雪だるまを届けたのよ。歌うたいの猫さんには、オルゴールは聞こえないよ」



 白い仔猫が意地悪を言いました。それを試すように灰色の仔猫は、素早く歌うたいの猫の耳に雪だるまを押し当てました。

 歌うたいの猫は、呆然となりました。白い仔猫の言った通り、雪だるまからは何も聞こえてこないのです。



「ほら、聞こえない。ねっ、やっぱり、灰色ちゃんの雪だるまなのよ」

「そっか」

「うん、そうだよ。だって、歌うたいの猫さんに届けたって、どうせ聞かないんだしさ」



 歌うたいの猫はドキリとしました。

 仔猫たちは、歌うたいの猫がこれまで雪だるまに見向きもしなかったのを知っているようなのです。



 灰色の仔猫は、訳知わけしり顔で歌うたいの猫を見ました。

「ぼくが覚えて歌えば、歌うたいの猫さんだって聞くことができるでしょ。それで、雪だるまがぼくのところに降ってきたのかもしれない。雪だるまだって、聞いてくれるひとがいないと悲しいもの。おかあさんだってそうだよ」


「でもさ」黒い仔猫が口を挟みました。「灰色ちゃんは、歌うたいの猫さんの代わりじゃないからね」

「そうよ。おかあさんは灰色ちゃんのために雪だるまを届けてくれたんだからね」


「うん。わかってる。おかあさんはぼくのおかあさんだし、おうちのなかったみんなのおかあさんだからね」


「歌うたいの猫さんのおかあさんでもあるけどね」

「だけど、歌うたいの猫さんたら、ねちゃっているから、おかあさん、地上でずっと呆れているよね」

「地上で甘やかされすぎたのかも。まだ赤ちゃんなんだよ」


 仔猫たちは口々におしゃまなことを言って、笑い合いました。


「ねっ、灰色ちゃん。早く歌ってよ。灰色ちゃんが終わったら、ぼくの歌も聞かせてあげるからさ」

「それじゃ、黒ちゃんの次はあたしのお歌ね」



 歌うたいの猫は今日ほど、地上のおかあさんのことを誇らしく思ったことはありませんでした。

 そして、灰色の仔猫の歌を聞きながら、今日ほど降る雪があたたかく、虹の橋でおかあさんが近くにいるのを感じたことはありませんでした。



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歌うたいの猫と雪のオルゴール 水玉猫 @mizutamaneko

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