第5話 動き出す世界


 グリーンデイ城を単身で出立しレッドアイの本国へと向かい始めて2日。

 ろくな準備をしていなかったせいで渋々薬草を食べながら移動していたが、速力の制限を解除しながら移動しているおかげでレッドアイの城下町が視界に入って来た。


「でけぇ街だな、グリーンデイとは大違いだぜ。どうやって忍び込むかねぇ」


 高台の上から見下ろすように見る城下町は10メートル近い壁に囲まれ、大きな門の前には商人たちの入国審査をしているのか長蛇の列もできていた。


「忍び込むにも壁の周りは兵士が巡回してるし、捕まってグリーンデイの人間だってばれたら間違いなく独房にぶち込まれるだろうしなぁ」

「こんにちは」


 忍び込むための作戦を練ろうとしていた時だった、後ろから聞こえた声に振り向くと振り返った視線の先には若干サイズが合っていなさそうな甲冑を着た男が立っていた。


「? どっかで聞いた声だな?」

「この前はどうも、ムサシです」

「っ!?」


 身構えるように武器を握ろうとしたが、そもそも全部ぶっ壊して持ってきて居ないことを忘れていた。


「大丈夫ですよ、ここは戦場ではないですし。今は敵意もありません」

「生憎と武器を持ってきて無いし、しばらくは戦闘もできなそうなんでな」

「それはお互い様でしょう、僕もまだ体が全快ではないですから」

「というか、なんで生きてやがる」

「なんで、と言われても。そういうスキルを持っていますから」

「羨ましいやろうだな」


「今日はわざわざ単身でレッドアイ王国へ足を踏み入れたのはどういう理由ですか?」

「どうもこうもうちのトップの願いでな、報酬積まれてホイホイ敵地のど真ん中へってことよ」

「グリーンデイの女王陛下ですか?」

「あぁ、ってことで中に入れてくれると助かるんだけど」

「いいですよ、僕もあなたと話をしたいと思っていたんだ」

「あぁ、お前の名前を聞いたときから俺も少し思ったことがあってな。せっかく生きてるんだったら話して損はないだろうしな」


 ※


 レッドアイの城下町にムサシのおかげですんなり入ることができ、城下町を見て回っていた。


「グリーンデイへはいつから?」

「まだそんなには長くないな、これと言って義理も無ければせっかく手に入れた家以外は守るもんもない」

「そんな状態でよくあの戦場に立ちましたね」

「ノリと勢いだ、戦って勝てる相手じゃないのは最初からわかってたしな」

「よかったらステータスを見せてくれませんか? なんで負けたのか未だになっとくしていないので」

「そっちのも見せてくれるならよろこんで」

「もちろん」


 モチヅキ・ショウ  クラス:ヒーラー Lv16(ステータス上は表示なし)


 HP1820

 MP400


 筋力:42 速力:20 魔力82


 ユニークスキル

 女嫌い・精神的苦痛(対女性)・自己嫌悪New!・制限解除・プレイヤー・精神感応・精神順応・瀕死(対被女性)・精神崩壊(対被女性)・自己治癒New!・???SP50


 スキル

 治癒Lv52・指揮官Lv10・薬草採取Lv200・ナイフ術Lv3・剣術Lv3・槍術Lv16・キング×キングLv82・跳躍Lv32・登攀Lv40・観測者Lv4・強襲Lv4・奇襲Lv4


 カツラギ・ムサシ  クラス:マジシャンLv120


 HP15000

 MP3560


 筋力320 速力64 魔力1200


 ユニークスキル

 不死鳥・夢幻刀術・マーキング・プレイヤー


 スキル

 刀術Lv140・剣術Lv80・グランドクロスLv65・初級魔法Lv60・中級魔法Lv86・上級魔法Lv48


「すげぇステータスだなこりゃあ」

「あなたもすごいスキルの量ですね」

「器用貧乏なだけだ、お前みたいに攻撃魔法に特化してればもう少し違う成長方針になってるだろうな」

「なるほど」

「ってかHP15000ってどういうことだよ」

「人を相手にするときは致命傷の攻撃をされることもありますからHPはあくまで指標なんですよ」

「なるほどな」


「随分と俺相手に戦ったときは手を抜いてくれてたんだな」

「そんなことはありませんよ、僕が持てる全ての力で正々堂々と戦わせていただきました」

「にしては刀術やらユニークスキルの夢幻刀術やら使わないでいてくれたみたいだが?」

「連戦になることを想定していたので疲弊する夢幻刀術は使わなかっただけです」

「不意打ちで俺の腕を飛ばすくらいすれば、圧勝出来たんじゃないのか?」

「僕の戦い方には合いませんから」

「そうか、じゃあもう1つ聞きたいことがある。ムサシ、お前は日本って国を知ってるか?」


 その言葉を聞いた時並行して歩いていたムサシの足が止まり、俺は振り返った。


「やっぱりでしたか」

「俺とお前の共通点が2つあってな、1つはこっちで名乗ってる名前が和製の名前だってこと、そしてユニークスキルのプレイヤー。検証してるかもしれないがこのスキルは最初から発現してるのに何の効果も無い腐りスキルだ。それはつまり何かを示すためだけの効果が他にあるってことになる」

「そうでしょうね、僕も自分以外でそのスキルを持ってる人間はショウさんが初めてです」

「うらやましいねぇ転生してこっちでいいスキルを貰えたみたいで」

「神様と名乗る人からもらったんですよ、僕の生きていた時代の技術や文化をこの世界で広めて欲しいって」

「羨ましいな~本当に俺なんか知識を世界に広めることを禁止されたレベルなのに」

「僕の時代は国内での戦争が多かったですから」

「そういや、ちらほら瓦屋根の家があるな」

「えぇ、レッドアイの女王陛下が気に入ってくれたようで」

「ってことは時代的には昭和より前で、刀の文化を考えると、戦国とか江戸時代ってとこか、かつ国内で戦争があるような時代だから。織田信長とか知ってるか?」

「えぇ、織田軍の所属でしたから」

「ヒュー、すげえ経歴」


「ショウさんは何をしていたらこんな風にスキルが取れるんですか?」

「さぁな、前世はただの引きこもりだったし、今世は少し前まで家も無いレベルだったしな。勝手に盛られただけだし俺にはよくわからん、ユニークスキルって潜在能力的な部分もあるわけだろうから、俺自身のポテンシャルだったんだろうな」

「よくわからないけど、精神力が高いみたいな話なのかな」

「そうか、お前も横文字わからない系か」


 同じ世界の元住人なら話が通じるかと思ってたが生きてた時代が違うんじゃしょうがないか、これがジェネレーションギャップって奴なんだな。


「それで女王陛下に謁見したい理由は?」

「終戦のお知らせにな、どんなに不利な条件でも受けるってさ」

「グリーンデイの女王陛下も戦争を望んで居ないんですね」

「どういう意味だ?」

「2週間ほど前グリーンデイの使者と思わしき者に襲撃を受けたんです、僕が倒しましたが、人間とは思えない程強力な敵で」

「それが引き金になってレッドアイは戦争再開の準備をしていたってことか」

「ちょうどグリーンデイ国内で伝染病が流行り始めたのと同時期か」

「グリーンデイの方でもそんなことが?」

「レッドアイの人間が持ち込んだんじゃないかって話になってたな。こりゃますますうさん臭くなってきたな、情報の摺り合わせの必要がありそうだ」


 ※


 こちら側の事情をある程度説明しつつムサシの案内で玉座の間へと通され、この短期間で王族に2度も会うという一般人には気の重い状況に立たされていた。


「女王陛下グリーンデイからの使者をお連れしました」

「ありがとう、下がっていいわ」

「はっ、失礼します」

「待ってくれムサシにも話を聞かせたい」

「私がレッドアイの女王と知っての発言ですか? それは」

「あぁ、あんたが誰だろうと俺には知ったこっちゃない」

「ショウさん! いくらなんでも」

「口が過ぎるってか? 冗談じゃねぇ、俺はこいつにもうちの女王にも文句が腐るほどあるんだ、戦争を再開して人の平穏な生活をぶち壊してくれたんだからな」

「無礼な!」


 女王が声を荒立る、別にそんなもんにビビるような性格はしてないが、レッドアイの女王はどうも気性が荒いらしい。


「いっちゃ悪いがな俺は戦争なんてやる奴は全員クソ野郎だと思ってんだ、どんな理由があろうとむやみやたらに人の命を散らそうとしてる野郎は死んじまえってな」

「なにも知らない者が偉そうに」

「なにもしらんさ、知りたいとも思わん。元々グリーンデイの先代女王との下らない小競り合いで始まった戦争だったんだろうしな、その女王も代替わりして本当に戦う理由はないはずだ」

「なに? グリーンデイの女王は代替わりしていたのか?」

「おいおいそれすら知らねぇのかよ、終わってんな本当に」

「女王陛下、本題に入りましょう」

「こほん、そうだな」


「それであなたはどのような要件でいらしたのです? 女王である私に喧嘩を売りに来たわけではないのでしょう?」

「グリーンデイの女王陛下アリシアから終戦協定を結ばせて欲しいってことでな、書状を持ってきてる」

「拝見しても?」

「もちろん」

「ムサシ渡してやってくれ、俺は近付いたら噛みつかれそうだからお断りだ」

「誰がそんなこと!」

「まぁまぁ女王陛下」


 ムサシに書状を手渡しそれをムサシが女王陛下へと手渡す。

 中身を見たレッドアイの女王は読み終えた後呆れた顔をしながら膝の上に書状を置いた。


「なるほど、あの子はまだ昔の事を覚えているんですね」

「いや感傷に浸られてても困るわ、俺らはなんも知らねぇから」

「そうですね、まずはそこから説明しましょう。その前に名前を教えておきますわ、レッドアイ第12代目女王マシス・レッドアイ・イルスと申します。気軽にイルス様と呼んでいただければなと思います」

「自分の名前に様つけて呼ぶの痛いっすよ」

「うるさいわね!」

「それで?」


「その昔、レッドアイとグリーンデイは友好な関係だったのはご存知ですか?」

「いやしらん」

「私がレッドアイの女王になるまでは友好的な関係でした、元々ブラックウィンド帝国とホワイトローズ王国以外の4ヶ国は親交が深かったんですわ。もちろんアリシアとも仲良くさせていただいていました」

「これ長くなる奴?」

「ですが私は先代グリーンデイ女王は私の事が気に入らないらしく、多少トラブルもありきでしたが、関係に亀裂が入ってしまったのです」

「無視!? ん、というかそういう話なら悪いのはグリーンデイの先代女王ってことか?」

「結果的にはそうなるんでしょうか、4ヶ国の親交パーティーの時にレッドアイの先代女王に女王陛下が平手打ちを食らうということがありまして」

「くだらねぇ」


「女王が変わったのであれば尚のことレッドアイに戦争を続ける理由はありません、あの子は先代女王のしたことを気にしているようですし、ほぼ征服に近い条件での和解を求めているようですが」

「俺は中の話に関しては関わってないんでな、無条件で終戦協定を結んでくれるならそれに越したことは無い」

「使者として危険を犯していらしてくださったこと深く感謝させて頂きたいと思います」

「金は貰ったんでな別に不満はない、それに俺は俺であんたと話す機会が欲しかったんでな」


 俺がわざわざここまで来たのはもちろん終戦協定を結ばせるためでもあるが、アリシアと話した時に入った報告の事を忘れていなかったからというのもある。


「あなたの方はどうして?」

「詳しくは協定を結ぶ時にアリシアにさせてもらうが、今回の戦争再開裏で糸を引いてる野郎が居るんじゃねぇかと思ってな」

「それは私も薄々思っていましたわ」

「俺の目的は戦争の終結だが、戦争を意図的に始めようとしてる奴がいるっていうんだったら、それはそれで話が変わってくる」

「ショウさんはまた戦争が起きる可能性を考えているんですか?」

「起きそうじゃなくて起きてるんだろうなもうすでに、あんたらの所にもホワイトローズ王国が滅ぼされたって話は入っているんだろう?」

「はい、ブラックウィンド帝国によって滅ぼされたと」

「俺的にはブラックウィンド帝国がグリーンデイとレッドアイへのけん制、または目くらましの為にやった可能性を考えてる」

「ブラックウィンド帝国がわざわざ何のために?」

「1つは自分らが攻めるときに楽をするため、もう1つは俺らの戦力分析だろうな」


 あくまでも全て空想の話で可能性の話になってしまっているが、タイミングを考えれば本当に無い話ではない。


「火種を摘むのはもう無理だろう。なら俺は次の世代に戦争を残さない方法を取りたい、だから今回の終戦協定とは別に4ヶ国同盟を組みたい。元々仲良かったなら都合もいいしな。詳しくはまた後でな」

「そういう考えでしたら賛成ですわ、ブラックウィンド帝国のしたことを良く思う国は居ないはずですし」

「だろ、じゃあ日取りを決めてまた後で連絡しにくるわ。ムサシの奴もう少し借りるな」

「えぇ、それではまた後日」


 ※


 城を後にしてムサシと2人で再び街を歩き始めた。


「僕にまだ用が?」

「いや、正確にはお前には無いんだが、いい武器屋紹介してくれねぇかなと思ってよ。この前の戦闘で槍も剣も壊れちまって商売できねぇんだわ」

「なるほど、そういうことでしたらドワーフが経営している僕行きつけのお店に案内しますよ」

「頼む」


 そしてムサシに案内され平屋の店へと連れていかれた、中に入ると小柄な老人の鍛冶姿が目に入った。


「良い店だな、どれもこれも一級品に見える」

「ショウさんのメイン武器は槍なんでしたっけ、それだったらあまり種類はないですけど、ここに立て掛けてあるのがそうですね」


 雑多に籠の中に置かれた数本の槍の中から気に入った物を手に取ってみる。


「重量もそこそこ、投げるにも振り回すにも突き刺すにもちょうどよさそうだな、気に入ったこれにするぜ」

「早いですね!? 他にもありますよ!」

「目がいいな兄ちゃん、それは俺の作った槍の中で2本目にいい槍だ」


 鍛冶をしていた老人がこちらへと歩いてくる。


「2本目ってことはこん中にもっといいのがあるのか?」

「いや、1番の奴はもうこの世には無い。俺の友人が戦場に持ってってドラゴン相手にへし折っちまいやがった。その槍のおかげで命拾いしたなんてお世辞を言ってやがったけどな」

「へぇ、じゃあ俺の目に間違いはなかったってことだな、これくれムサシの奴のおごりでな」

「100万マインだ、今持ってるかい?」

「ひゃ、100万!? 流石にいまはないので後で持ってきます」

「まぁ急ぎじゃねぇし俺とお前の中だ、ツケといてやるよ」

「それと適当な剣とナイフが欲しいんだが、2つ合わせて10万くらいで済む奴」

「そんな安いのがうちにあるわけねぇだろ、うちは王国騎士団御用達の高級店だぜ? うちで10万ぽっちで済むのといやぁあの鉄くずくらいさ」


 そういいながら店主が壁にかけられた1本の刀を指差す、鞘がところどころボロボロで、柄に至っては軽く布で包んである程度の代物だった。


「そいつぁ俺の弟子が作った刀でな、何年経っても刀だけはまともに打つこともできねぇからだいたい溶かして再利用しちまうんだが、そいつは初めでまともな形になったもんでな売れるとは思っちゃいねぇが、壁に掛けてんだ」

「手に取ってもいいか?」

「あぁ、好きにしな」


 壁から取り外し手に持ってみれば素材の関係なのか以上に重く、刀身を見てみると波紋が歪な形をしている誰がどう見てもなまくらに見えるような代物だった。


「包丁くらいになら使えるか? 長すぎて取り回し悪そうだが」

「まぁ正気の奴だったら買いはしねぇだろうな」

「いや、俺は気に入ったぜ。確かになまくらかもしれねぇが、刀術すら持ってねぇ俺の練習用にはいいかもしれねぇし」

「はっはっは、物好きだなぁ兄ちゃんも好きにしな」

「そう思うなら売れるように値引きするとかしろよ」

「中途半端な意思の野郎になまくらだろうと200年以上の歴史がある刀を握らせたくはねぇからなぁ」

「なるほど」


 筋は通っている、ようにも聞こえるんだが俺自身もどこぞの馬の骨である事には変わりないような。


「なら買ってくよ。俺に使いこなせるかはわからねぇけどな」

「そうか、ならおまけでこれとこれも着けてやるよ」


 そう言いながらナイフと剣を1本ずつ手に取って渡してきた。


「いいのか? 売りもんだろ?」

「見る目がいい奴にはお得意様になってもらいてぇんでな、初回限りのサービスってわけだ」

「ならお言葉に甘えてくよ」


「よかったですねショウさん」

「そうだな、それじゃ俺は帰るとするよ。この結果を早いとこうちのお姫様に教え

 てやらないとな」

「そうですね、それでは調印式の日にまたお会いしましょう」

「おう」


 ※


「ふぁーあ、しっかし4日も寝ずに動き回ってるとその内寝落ちしそうだな」


 行きに2日半、今は帰りの2日目無駄に頭を使ったまじめな話を1回挟んだとは言えそろそろ休憩を挟まないと眠すぎて気絶する可能性がそろそろ出てきた気がする。


「でもこの辺で休めるとこなんて無いしなぁ。1時間仮眠を取ろうとして半日寝てたとかざらにあるし、もう少しでクラナドに付くし家で寝ればいいか」


「きゃーーーー!!」


 目が覚めるような悲鳴が聞こえて、視線を声のした森の方へ向ける。

 森の中から白いローブに身を包んだ少女が飛び出して来たかと思えば、その後ろに3メートルを越えるモンスターが数体出てきた。


「あれ、この前の戦争から数が減ったって聞いたがまた出てきたのか。あのサイズのオークが居るとは。新しい武器の試し斬りと行くかぁ?」


 背中から槍を取り出し手に持って構える。


「きゃあっ」


「あっこけた」


 良く手に馴染む槍を思い切りオークの1匹に向けて投擲する。


「そのまま転んでろよ!」


 頭を貫いた槍に事前に巻き付けていた糸を引っ張り横に薙ぐ。

 戦闘で身体に負荷をかけないように戦う方法を模索し、モンスター程度を相手にするなら事足りる方法を見つけその結果がこれだが。

 ま、全部を倒せるほど都合は良くないわな。

 手元に軽く引き、引き戻して背中に担ぎ直す。


「残り3匹、ぶった切るとするか。跳躍制限解除、角度は20°ってとこか」


 地面が抉れるほどに強く踏み込まれた地面を蹴り、突っ込む。


 オークに切り込める射程まで到達する3秒の間に刀を抜こうとするも、鞘が引っかかった。


「そもそも抜けへんのかい!」


 鞘ごと腰から抜き取ってオークの顔をぶん殴り、肩を踏み台に残り2体の片方にナイフを投擲し、もう1体を頭から剣で切り落とす。


 2体は仕留めたが、残った1体は目にナイフが刺さった程度じゃ死ねないだろ? だからしっかりととどめを刺させてもらうよ。

 剣で足を切り、バランスを崩して倒れた所を槍で突き刺す。


 黒い霞と化して消えたオーク達の死体からナイフを回収し、こけた少女の元へと向かう。


「大丈夫か嬢ちゃん」

「こ」

「こ?」

「こ、怖かった、怖かったよぉ!」


 泣き叫びながら俺へと抱き着いてくる少女に若干の恐怖を感じながら、スキルの発動音がしないことに安堵する。


「よしよし、どっから来たんだ嬢ちゃんは」

「わからないの、ここに来て2日くらい住んでた場所が燃えちゃって、それで」

「逃げて来たって事か、この辺で村が滅んだってことかよ。まいったなこりゃあ」

「お兄さん助けて」


 子犬のような目が俺を見つめる、瀕死さえ発動じなきゃいいや別に。


「とりあえずクラナドに連れて行く、それまでは肩車でもしてやるから行くぞ」

「あ、ありがとう」


「どの辺から来たんだ?」

「わからないの、雪山の中にお城があって、私はその中で生活してた」

「雪山、ホワイトローズ王国か? いや、そんなところから子供の足でこんなところまで来れるわきゃねーか」

「黒い格好をした人達にお城が襲われて気が付いたらこの辺の森で寝ていたの」

「かあぁぁぁ、点と線が繋がっちまった」


 肩車をしたまま歩き出していていた足を折り、その場で少しうなだれる。


「終わりだぁ」

「な、なにか変なこと言っちゃいました?」

「大丈夫だよ、嬢ちゃんには関係ない話だから」


 ※


「たでーまー」

「お邪魔します」


 店に入ると、出て行ったときに比べて繁盛してるように見える店内をあわただしくミストが回していた。


「いらっしゃーって、おかえりショウ!」

「随分と繁盛してるじゃねぇの」

「皆本当はショウ目当てで来てるんだよ、この街を救ってくれた英雄だって」

「中身を知らなきゃそうもなるか、ちょっとこの子置いて着替えてくるから待ってろ」

「はいはーい、ってその子は?」

「後で詳しく話すわ、まずは店の方片付けようぜ」


「上で待つか? 腹減ってるなら下で飯でも出すが」

「お。お腹は空いてないので」


 少女のお腹が鳴った、森をほっつき歩いていたならそりゃ腹も減るだろう。


「カウンターに座ってな、武器とかおいてくるから。ミストこの子に水出してやってくれ」


 よくよく見ればローブはあちこち汚れていて足元は裸足のせいで汚れている。


「あと水で濡らしたタオルも持ってくる、少し待ってろよ」

「あ、ありがとうございます」


 考えられる事もたくさんあるし、正直何も考えたくは無いのだが。


「ブチギレそう。俺の中で何かが切れそう」

「どうでもいいから早く着替えてきてよ店長」

「あいあい」


 武器を部屋に放り投げ服を着替える。

 明日城に戻るとして、今日は仕事してあの子の正体を調べて寝て。

 寝れんのかな俺。


「やっときた」

「5分も経ってないと思うんだけど」


「おぉっ、店主がやっと来やがったか」

「こっち来てくれよ」

「あーはいはい。行きます行きます」


 それから数時間客に揉まれ、引っ切り無しに来店してくる客に感謝というか、こいつらは何目的でうちに来てるんだという疑問とか色々思いながら店を閉めた。


「それで、その子は?」

「クラナドで仮眠取ろうと思って帰ってきたんだが、その道中で拾ってな」

「拾ったぁ? 誘拐じゃないよね?」

「そうだったら大人しく檻の中に戻るよ、俺も正体はしらんし名前すら聞いてない」

「ごめんなさい! 名前言ってませんでしたね」

「ガキはそんなもん気にしなくていい、聞かなかったのは俺の方だしな」

「子供には優しいんだねショウって」

「ちくちく言葉やめてもらっていいですかね」


「わ、私はモナミ・ツキって言います」

「俺はモチヅキ・ショウだ」

「私はミストだよ、よろしくねツキちゃん」

「よろしくするかはまた別話だけどな」

「そうなの? かわいい子だしいいじゃん、うちで引き取っちゃおうよ」

「ま、個人的な話もあるしつもりに積もってる分は部屋で消化させてもらうさ、そういやあのくそ雑魚野郎どもは?」

「みんなは少し前に王都に帰ったよ、一昨日まではにぎわってたんだけどねぇ」

「そうか、帰れたんだな。お前は帰らなくていいのか?」

「私は別にいいかな、お店もショウが居ない間開けてないといけないし」

「そんなに気負わなくていいんだぞ、俺が居ない間は店は締めときゃいい」


「そうもいかないでしょ」

「なんも言ってないのに殊勝なこって、まぁ好きにしてくれ。俺は眠いから寝る、ツキちょっと来てくれるか」

「は、はい」

「おやすみー、寝ぼけて少女に手出しちゃだめだよ~」

「出すかぼけ」


 眠い目を擦りながら階段を上って自分の部屋へと入る。


「着替えに使えそうな服は、俺よりはミストの服借りたほうがいいか」

「き、着替えなんて大丈夫ですよ」

「そうもいくか、明日女王のとこに押し付けに行くのに汚れた格好じゃーな」


「ついでに見せて欲しいもんがあるんだが、ステータス見せてくれね?」

「いいですけど、見せ方がわからないです」

「右手をすっと下げれば出てくるから」

「あーはい、こうですか?」


 モナミ・ツキ  クラス:???Lv1


 HP64

 MP8


 筋力3 速力6 魔力2


 ユニークスキル

 プレイヤー・成長度800倍(任意)

 ???・???・???・???・???・???(SP99)


 スキル

 無し


「えぇ、なにこれ初めて見たクラスすら書いてねぇ」

「そんなに変ですか?」

「案の定プレイヤー持ちなのはわかってたけど、ユニークスキルのシークレットが6つ、1個はSP持ちか、普通のスキル0て。SP99って99がカンストなのかそれとももとは100で知らずに1回使ってるのか」

「ショウさんのも見せてもらっていいですか?」

「好きに見ていいぞ」


 ステータスを表示して見せると刀術がLv1で追加されていた、鞘で殴ってもレベルが上がるもんなのか、それとも抜こうとしただけで上がるのか。


「俺で教えれる範囲ならこの世界の事を教えてやるが、なんか聞きたい事とかあるか?」

「特には無いですかね」

「んじゃ俺から1つ、西暦何年から来た?」

「えっ」

「俺のステータスを見たらわかると思うけどお前と同じプレイヤーってユニークスキルがあるだろ? それ多分転生者用の奴だと思うんだよな、数日前にわかったことだけど」

「2024年です」

「わお、俺からしたら未来人かよ」

「そうなんですか!?」

「まぁでもそれはムサシの奴から見た俺もそうか、何人俺らみたいなのが居るのかね国の数って考えてあと3人かぁ?」

「本当にあるんですねこういうのって、現代でも異世界物のアニメとか流行ってましたけど」


「こっちの世界の神様にも悪影響を与えてたりすんのかねぇ」

「そうかもしれないですね」

「とりあえず寝るかぁ、起きたら王都に行かねぇとなぁ」

「私はどこで寝ればいいですか?」

「この階の部屋ならどこつかってもいいから好きにしてくれ、眠れなかったらミストと一緒にでも寝てくれ」

「わかりました。おやすみなさい」


 そのまま横たわって意識を手放す、考えることはいつも通り腐るほどあるしもう面倒見たくないし俺に見る必要があるのかも知らないが、うぜぇからもう寝よう。

 知らねぇ、明日世界が滅んでも俺のせいじゃないし。

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ありふれた世界で趣味生活 箱丸祐介 @Naki-679985

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