第4話 『花のカーテン』
「桜の木の下には死体が埋まっている」
「古くからそう言われてきた。それは、正しい。どんな生命も、死体なくしては育たないのだから」
翁の足元には緑の草。そして、視線の先には色とりどりの無数の朝顔。天高く垂直に伸びた
それは、生命の世界と外の世界とを
一面に広がる花のカーテン。
その先に広がるのは生命なき荒野。
歴史上、なにも死んだことのない、そのために、いかなる生命も育つことのない火星の大地。
そこは、一〇〇年も前に作られた火星最初の植民地。小さなちいさなドーム都市。
仲間たちはひとり死に、ふたり死に、ついには
そうして、少しずつ、少しずつ、火星の荒れ果てた大地を花の咲く大地へとかえてきた。
目の前に広がる花のカーテンはその象徴。
やがては、自分も大地に還り、植物の根に吸われ、花のカーテンへと生まれ変わる。
その花のカーテンもやがて枯れ落ち、大地に還る。そうして一歩、ほんの一歩だけ生命の世界を広げる。
その広がったところに新しい花のカーテンが出来上がる。
そして、その花のカーテンがまた一歩だけ生命の世界を広げる。
それを繰り返し、繰り返し、生命の世界は広がり、火星の大地を埋め尽くす。そのとき、もはや、生命の世界と外の世界とを
それこそが、自分たちの役割。
生きて、死んで、土に還り、新たな生命を育てる
新たにやってくる開拓団が生きていける場所を用意する、そのために。
この火星の大地に、花のカーテンがいらなくなる日はきっと来る。
自分たちの死体の上に、新たな人類の世界は広がるのだ。
完
死んだぐらいであきらめられるか! 人類根性物語 藍条森也 @1316826612
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます