第6話 (芽を摘むダルアナ深淵)

   6話(芽を摘むダルアナ深淵)



           1

 ダルアナ深淵/上層・仕掛けの間(サヴィリク/レシィーナ)。


 深淵の中央に架かる、すごく大きな橋……。

 そして、先に待ち構える、深淵への入口……。


 「「ゴクンッ(呑)」」

 「ねぇ、サヴィリクさん⁉ すごく如何【いか】にもという感じだよね?」

 「……そうだね。落っこちちゃったら、戻って来られるのかな?」

 「ヤダ、サヴィリクさん⁉ 出発早々、すごく縁起が悪いよ」

 「ああっ⁉ わ、悪い……思わず、すごくネガティブに駆られちゃってさ」

 「うーん……まあ、気持ちはね、すごく理解できるけどね」


 ……そして。

 覚悟を決めて、橋を渡る……(すごく重い足取りながら、出発……)。


 「まあ、幸いね、すごく丈夫な橋みたいだから、落っこちるような心配は、すごく杞憂【きゆう】に終わりそうだね」

 「…………(考)」

 「ねぇ、レシィーナさん⁉ 俺の話、聞いてる⁉」

 「…………(考)」

 (うーん……彼女には、すごく珍しく、とんでもない集中力だね)

「ねぇねぇ、レシィーナさああぁぁん⁉」

 「わぁおぉ……す、すごくびっくりしたああぁぁ……! サ、サヴィリクさん⁉ このような場所でね、あまり、大きな声をね、出さないでよ。橋がね、崩れちゃったらね、どうするの⁉」

 「あのね、君がね、全く反応をしないからでしょ⁉」

 「あっ、あれれ……そうでした……。てへっ♥ ごめんなさい……」

 「ふふっ、まあ、すごく君らしいと言えば、それまでだけどね。と言うより(ジトー)。これくらいのボリュームでね、壊れる訳がないでしょ⁉ 常識でね、考えなよ、常識で!」

 「あははぁ……ヤダな、サヴィリクさん……冗談だよ。本気【ほんき】にね、しないでよ。私ね、すごく困っちゃうよ(ニコニコ)」

 「あ、あのね……君だって、すごく縁起が悪いこと、さりげなく、言ってるじゃない?」

 「うんうん……そうだね。私たち、すごく似た者同士だね」

 「うーん……すごく嬉しいような……すごく悲しいような……」

 「まあ、すごくいい感じで、緊張も解【ほぐ】れたみたいで……」

 (あはぁ……すごく独特な感性の持ち主すぎて、すごく反応に、困っちゃうよね。まあ、彼女の人柄にね、救われていることもあるから、一概【いちがい】にはね、否定できないんだけどね[苦笑])


 深淵入口前に到着……。

 覗【のぞ】くと、下層へとつづく、長く険しい階段が立ちはだかる……。

「さあ、いよいよだね。ねぇ、レシィーナさん、心の準備はね、出来ているかい?」

 「うん、大丈夫だよ。ここまで、来たんだもん」

 「うん、了解……。それじゃあ、気を引き締めてね、出発するよ」

 「アイ・アイ・サー!」

 (ふふっ。どんな時でも、笑顔を絶【た】やさない……これこそ、彼女の長所だよね)


 サヴィリクとレシィーナ、階段を下りていく……。



           2

 空とは、お別れのようだ……(所謂、内部に突入である……)。

 外壁に沿って、円形状につづく、階段を下降中……。

「うん、今のところ、特に、奇妙な点はね、見当たらないよね」

 「はぁい……このまま、ひたすら、下りていくだけだったら、どれほどね、素晴らしいことかああぁぁ……」

 「でもね、現実はね、そんなに甘くはないと思うよ」

 「うん、そうだよね。私もね、すごく同感……」

 「おや、すごく素直だね。熱でもね、あるの?」

 「あのね、サヴィリクさん……どこまで、私のこと、バカにしているの? 私だって、それくらいはね、すごく自負しているよ」

 「あっ、そっかい⁉ ごめんね……。命と背中合わせだけに、すごくナーバスになってしまってね……。うん、だったら、すごく余計な情けだったね」

 「うふふっ♥ サヴィリクさんはね、やっぱり、サヴィリクさんだよね」

 「ええ、どういうこと……なの⁉」

 「いえ、すごく仲間想いでね、すごく温かい……私の、すごく率直【そっちょく】な感想だよ」

 「あ、ありがとう……。冗談あっても、すごく嬉しいよ」

 「プンプン! 冗談なんて、私はね、言わないよ! すごく本気【ほんき】だよ」

 「あれぇあれぇ……言っていることがね、すごくダブルスタンダードだよね(ニヤリ)」

 「え、えっと……まあ、一応ね。すごく褒めるところはね、すごく褒めるという訳なの。……追及はね、私……すごく居た堪れないから、勘弁してくれない?」

 「ふふっ。思っていたより、すごくピュアなんだね」

 「ああぁぁ……サヴィリクさん……すごくひどおおぉぉいぃ(ムスッ)」

 「いやぁいやぁ……すごく褒めてるんだよ!」

 「ホ、ホント……(ジトー)」

 「ホ、ホントだよ。俺はね、すごく正直な人間なんだよ」

 「うふふっ、そうだね」


 なお、階段を下りている際……。

 「あのさ、足場にね、注意しな! 崩れるかもしれないから……」

 「うん、そうだね。帰投ルートはね、確保しておかなきゃね」

 このような、やり取りがあった模様……。


 ……そして。


 「ひとまず、イージールートはね、ここまでみたいだね」

 「うん、所謂、仕掛けの間という名にね、すごく相応【ふさわ】しいお部屋だね」


 下降ルートは、終了……。

 名の通り、ここからは、仕掛けの試練が始まるようだ……。


 「うーん……四体の石像……そして、道はね、行き止まり……どうやら、トリックを解読する必要があるみたいだね」

 「そうだね……。それにしても、すごく大きな石像だよね。どうやって、運んだのかなぁ?」

 「レ、レシィーナさん……注目点はね、そこじゃないでしょ(汗)」


 四体の石像が、横一列に配置されている……。


 「さあ、それじゃあ、解読をね、始めますかぁ⁉」

 「うううぅぅぅ……(ジー)」

 と、レシィーナ、石像を凝視【ぎょうし】する……。

 「ええ、レシィーナさん⁉」

 サヴィリク、呆然……。

 その理由は、その場に、しゃがみ込むレシィーナの姿にあった……。

 「ええっと、ごめんね、サヴィリクさん。私ね、パス……」

 「ちょ、ちょっと⁉」

 「私がね、参加しても、すごく足手纏【あしでまと】いにね、なるだけだよ。したがって、邪魔をしないのがね、すごく賢明な判断だと、想定をしたの」

 「そ、そうかい……なるほど……じゃないよ!」

 「ふえぇ……」

 「俺だって、すごく疎【うと】いよ!」

 「ええ、そうなの⁉ えへへ、何だか、すごく意外だね」

 「まあ、そういうことだ……」

 「あれぇあれぇ……すごく上手く纏【まと】めちゃった……」

 「まあ、ひとまず、ヒントだけでも、一緒にね、解読しようよ」

 「ヒ、ヒント……ね。うーん……見つかるのかなぁ……」

 「見つけるの!」

 「うん、一応ね、探してみるよ」


 サヴィリクとレシィーナ、先に進めないので、ひとまず、ヒントから探し出すことに……。

 ……しばらく。


 「うーん……すごくまずい。まさか、このようなかたちで、立ち往生するとはね……」

 「…………」

 「すごく想定外だよ」

 「…………」

 「大手【おおで】をね、振った手前……収穫なしはね、すごく恥ずかしいな……」

 「…………」

 「全く同じ石像じゃない……。こんなの、ホントにね、分かるの⁉」

 「…………」

 「大体、どのような、仕掛けなの⁉」

 「ねぇ、サヴィリクさん⁉」

 「うんっ⁉ 何かね、分かったの⁉」

 「あのね、あまり、期待しないでよ。すごく些細【ささい】なことだから」

 「い、いやぁ……すごく些細【ささい】なことでも、この際ね、すごく充分だよ。ひとまず、話してくれない?」

 「ま、まあ……サヴィリクさんが、そのようにね、おっしゃるのなら……。あのね、ホントにね、すごく些細【ささい】なことだよ。ヒントにもね、ならないかもしれないよ」

 「うん、謙遜【けんそん】しないでさ、早く言いなよ!」

 「うん、サヴィリクさんがね、そこまで、おっしゃるのなら……」

 (すごく意味深だね)

 「えっとね、石像の色にね、注目してくれない?」

 「ええ、色……」

 「ほら、何かにね、気がつかない?」

 「うん……。……。……⁉ ああっ⁉ 一番の左の石像はね、銀色だ! そして、右から二番目の石像はね、鉛色だ! そして、両サイドはね、すごく焦げているような色……」

 「ガクッ! サヴィリクさん、そこじゃないよ!」

 「ええっ⁉ 違うの⁉」

 「あのね、一番左の石像はね、すごく新しいでしょ⁉」

 「うーん……」

 サヴィリク、まだ、気がついていない……。

 「おほんっ! そして、すごく焦げていると言った石像はね、明らかにね、すごく年代物でしょ⁉」

 「うん、そうだね……。それで……⁉」

 「あははぁ、サヴィリクさん……まさか、ここまで、すごく鈍感だとはね……。すごく意外かも……」

 「…………(考)」

 「はあぁいっ!」

 と、レシィーナ、両手を強く叩きながら……!

 「うんっ⁉」

 「あのね、どうして、すごく新しいものと、すごく古いものがね、混在しているの!」

 「ええっ⁉」

 「時代背景から、察してね、すごく奇妙でしょ⁉」

 「ああっ、ホントだ!」

 「それだけじゃない! 加えてね、どうして、すごく新品な遺物がね、存在をしているの」

 「ああっ、確かに!」

 「古代の遺跡なんでしょ⁉ これだと、誰かの手によって、すごく最近にね、手を加えられたみたいじゃない?」

 「うわあぁ⁉ レシィーナさん……すごく敏感だね。うん、ヒントどころか、これはね、答えだよ!」

 「あははぁ……そ、それはね、ありがとう……」

 「うん、後はね、俺にね、任せてくれない?」

 「ええっ⁉」

 サヴィリクさん、右から二番目の石像の指を差し……。

 「あのね、この石像の下にね、抜け道があるの! うん、間違いないよ‼」

 「すごく瞬殺……」


 ……そして。

 レシィーナ、右から二番目の石像を押す……すると。


 「あっ⁉ ホントだ……サヴィリクさんの言った通りだ!」

 「ねっ、階段がね、あったでしょ⁉」

 「でもね、どうして、分かったの⁉」

 「まあ、トリックというのはね、こういうものなの」

 (うーん……サヴィリクさんの解読の方が、すごく難解だったよね。あれれっ⁉ もしかして、私の成長のために、すごく意図的な手法で……えへへ、そっか)

 「さあ、行くよ!」

 「ねぇねぇ、サヴィリクさん⁉」

 「うん、何⁉」

 「改めて、伝えておくね。ホント、私のために、ありがとね。えへへ、すごく嬉しいよ♥」

 「ああぁぁ……うぅん。それはね、どうも」

(うんっ⁉ 俺……階段のトリック以外にね、何か、解読にね、貢献をしたっけぇ……。うーん……今回に関してはね、レシィーナさんのお手柄だよね)



           3

 ダルアナ深淵/中層・落石の間(サヴィリク/レシィーナ)。


 サヴィリクとレシィーナ、洞窟を抜け、再び、吹き抜けの深淵地帯に……。

「うわあぁ……すごく深くまで来たよね」

 「うん、空がね、見えなくなっちゃったよね」

 「そして、うーん……これはね、どのような状況なんだろうね?」


 道が途切れている……。

 遥か下に、洞窟の入口が……。


「ま、まさか、あそこまで、飛び降りるの⁉」

 「あははぁ……うん、そのような解釈に、なっちゃうよね」

 「まあ、不可能じゃないと言えばね、それまでなんだけど……」

 「そうだね……。でもね、どうやって、交わすの? この落石……」

 上から、周期的に、降ってくる、すごく大きな岩……無論、直撃すると、大惨事は免【まぬが】れないと思われる……。


 「えっと、そうだね。ひとまず、ロープを使って……」

 「サヴィリクさん、ちょっと待って!」

 「うん、レシィーナさん、どうしたの⁉」

 「あのね、どうやって、帰投するの⁉」

 「それはね、足場を使ってね……」

 「足場なんてないよ」

 「ええっ⁉」

 「それに、上昇はね、下降と違ってね、すごく困難を極めるよ」

 「あ、あれぇ……た、確かに……そうだね」

 「第一、金塊を回収してね、どのように、帰投するの⁉ そもそも、冒険者が帰ってこない地点で、すごくおかしいよね」

 「ああぁぁ……(パクパク……)。確かに、そうだね。すごく時間だって、経っている……誰一人戻ってこないというのは、すごく不自然でもある……大体、金塊なんて、ホントに、あるの⁉ もし、存在するのなら、どうして、一部でも、回収しなかったの⁉」

 「岩石の餌食【えじき】にね、なっちゃったのかなぁ……」

 「そっか……そういうことか……」

 と、サヴィリク、何かに、気がついた様子……。

 「ええ、サヴィリクさん、何かね、分かったの⁉」

 「レシィーナさん、帰投するよ」

 「ええ、捜索はね、いいの⁉」

 「うん、構わないよ。どうやら、俺たちはね、試されていたみたいだからね」

 「ええ、ちょっと待って、私ね、全く意味が分かんないだけど……」


 サヴィリク、レシィーナの両肩を掴【つか】んで……。


「うん、サヴィリクさん……⁉」

 「あのね、レシィーナさん、やっぱり、君はね、すごく一流の冒険者だよ。うん、俺がね、すごく保証をするよ!」

 「あ、ありがとう……サヴィリクさん、すごく先走っていて、すごくおっかないんだけどね」

 「……そうだね。順を追って、話さなきゃいけないよね。ひとまず、帰投しながら、お話をするよ。うん、ギルドはね、すごく真っ当な判断をしたよ」



           4

 ダルアナ深淵(サヴィリク/レシィーナ)。


 帰投中……。

 「ええ、ウソでしょ⁉ それはね、ホントのことなの⁉」

 「うん、すごく俯瞰的【ふかんてき】にね、検証をした結果、間違いないと思うよ」

 「ああぁぁ……」

 「や、やっぱり……すごく困惑しちゃうよね」

 「う、うん……で、でもね、私はね、すごく解【げ】せないよ。どうして、ギルドがね、そのようなことをね、したの? すごく表現はね、悪いけど、所謂、やっていることはね、詐欺でしょ⁉」

 「そうだね……。加えて、人殺しだね。まあ、すごく語弊【ごへい】があるのはね、言うまでもないんだけど……」

 「あのね、根拠はね、あるの⁉」

 「もちろん、それなりにはね……じゃなきゃこんな発言はね、とてもじゃないけど、できないよ」

 「うん、サヴィリクさんのことだから、すごく思うところはあるんだろうね」

 「うん……そうだね。そして、その根拠にね、なり得るのがね、これだよ」


 四体の石像付近……。

 「せ、石像……⁉」

 「うん、レシィーナさん……すごく疑念にね、駆られていたよね?」

 「う、うん……そうだね」

 「そう、これでね、すごく辻褄【つじつま】がね、合うの」

 「うーん……。……あっ⁉ まさか、ギルドの人間がね、介入してたの!」

 「うん、ご名答……だね」

 「で、でもね、何のために……」

 「悪魔をね、排除するためだよ」

 「ええ、あ、悪魔……ど、どういうこと⁉」

 「……そうだね。詳しくは、ギルドに戻ってからだけど、一応ね、可能性についてはね、伝えておくよ」

 「う、うん……お願いします……」



           5

 階段を上りながら……。

 「あのね、レシィーナさんもね、経験したと思うけど、冒険者になる際、何かね、特別な試験はね、受けたかな?」

 「ええ、試験⁉ うーん……そうだね。これといって、何も受けていないよね。エントリーというのは、試験という表現にはね、すごく程遠いような気もするし……」

 「そう、そこがね、すごく盲点【もうてん】なの!」

 「ええ、ホント⁉」

 「うん、条件があるのはね、年齢くらいだったでしょ⁉ したがって、実質ね、誰でもなれるの!」

 「あっ⁉ まさか、サヴィリクさんが、おっしゃりたいのはね、人となりを知るという、すごく重要なポイントがね、欠けているという点だね」

 「うん、そうだね。君だったら、すごく理解できるはずだよ」

 「おそらく、ギルドはね、すごく重大な過ちを犯した……そのように、判断をしたんだろうね。したがって、今回の行動にね、繋がっていった……そう、悪魔に毒されているのか……そのチェックだね」

 「うん、つまり、こういうことだね。様々な観点から、検証をした結果……この方法がね、最も、すごく効率よく人となりを知ることができる……うん、そういうことだね」

 「うん、すごく重要なのは、悪魔に毒されている確認をね、どのように、行【おこな】い……そして、見極めるのか……その際、最も、可能性の高い方法がね、これだったんだよ。そう、金塊の回収だよ」

 「ゴクッ(呑)」

 「悪魔というのは、ケールにすごく目がない……すごく強欲の塊だからね。そして、強欲なのはね、ケールだけじゃない! 自分の思うように、事が進まないと、納得がね、できないの」

 「ああぁぁ……なるほど、その先はね、すごく察しがね、できるよ」

 「うん、所謂、独裁者……支配者……といった、完全な悪魔だね。無論、知能がある分、モンスターより凶暴で、すごく脅威な存在として、俺たちの前にね、立ちはだかるだろう」

 「すごく些細【ささい】なところから、始まるんだね」

 「……そうだね。そして、肥大化をはじめて、悪魔の政権……所謂、独裁政権がね、誕生する!」

 「うんうん、人じゃないんだから、人殺しじゃないよ。悪魔の駆除だよ!」

 「そのとおり! 無論、人の心なんて、皆無だから、話し合いをしたところでね、すごく無意味! 仮に、話し合いをしたところで、自身たちの、すごく都合のいい方向にね、持っていくだけ……こちらにとって、全く収穫はね、ないよ」

 「うん、そうだね。協調性や慈【いつく】しむというのはね、人の心があってこそだからね。ひとまず、現状の打破を優先せざるを得ないと考えると、悪魔の芽を摘む……すごく苦渋の決断だったんだろうけど、それしかないよね」

 「うん、失敗はね、誰にでもあるよ。でもね、すごく重要なのは、その失敗をね、糧【かて】にすること……うん、それに尽きるよね」

 「そうだね……。形骸化【けいがいか】されたルールはね、更新しなきゃいけないよね」

 「まあ、そういうことだよ」


 ……そして。

 深淵にかかる橋を渡る、サヴィリクとレシィーナ……。


 「うん、私たちはね、少なくとも、人の心を持っている、すごく真っ当な人間ということでいいんだよね」

 「うん、危うく、悪魔にね、蝕【むしば】まれるところだったよ」

 「えへへ♥ ひとまず、すごくホッとしたよね」

 「ああ、すごく胸を張ってね、帰投するよ」

 「はぁい♥」



           6

 ナイバース/ギルド(サヴィリク/レシィーナ/パルマディア)。

 「あのね、以上がね、俺たちの判断だよ。如何【いかが】でしょうか?」

 「うん、やっぱり、私の目に、狂いはなかったみたいだね」

 「「ええっ⁉」」

 「ホントに……それは、それは、すごくお察しのよろしいことで……」

 「うん、私たちはね、すごく不安だったの」

 「ふふっ。人の心がある、すごく温かな冒険者だったよ。言動を見てね、すごく安心していたの。あなた達はね、必ず、帰投するとね」

 「えへへ、それはね、どうも♥」

 「うん、すごく人の目のある方でね、すごく安心したよ」

 「当然でしょ⁉ 私はね、人の心をね、持っている人間なんだから」


 ⦅どうやら、無事に、帰投してくれたみたいだね⦆

 「「⁉」」

 「ああっ⁉」

 「あなた達は……」

 「ローラさん……それに、鬼のような先輩⁉」

 「ガクッ! すごく突拍子だね……」

 「コラッ⁉ ダメでしょ⁉」

 「レシィーナさん⁉」

 「わああぁぁぉぉおおぉぉっ⁉」

 ローラ、安心のあまり、思わず、レシィーナに飛びつく……!

 「よ、よかった……戻ってきてくれて……(涙)」

 「ロ、ローラさん……ヤダ、泣かないでよ! わ、私まで、すごく……ううっ⁉」

 「「うえええぇぇぇん……(号泣)」

 「あらあら、すごくしょうがない人たちだね」

 と、若干、涙ぐんでいるパルマディア……。


 ―一方。

 「えっと、サヴィリクさんだったよね?」

 「は、はい……はじめまして。クラーオウさん、本日はね、すごくご心配をおかけしました」

 「いやぁいやぁ、すごくとんでもないよ。帰投してくれたことをね、すごく心から、お喜びするよ」

 「あ、ありがとうございます」


 各々、すごく和んでいた……。



           7

 ギルド(サヴィリク/レシィーナ/ローラ/クラーオウ/パルマディア)。

「でもね、受付嬢さん⁉ いつまでも、このような手法はね、とてもじゃないけど、できないよ。冒険者の人材にだって、すごく限りがね、ある訳だし……」

 「はい、もちろん、課題はね、すごく山積【さんせき】している訳だけど、冒険者の試験をね、設ける前提でね、進んでいるの」

 「うん、そうだね。すごく賢明な判断だと、俺はね、思うよ。それに……」

 「あら、どうかなさったの?」

 「いえ、ホントにね、今さらなんだけど、もしかして、大陸各地のギルドに依頼を……」

 「ふふっ、すごく鋭いね。うん、サヴィリクさんのおっしゃる通りだよ。加えて、数カ所のギルド支部はね、規約違反により、活動休止をね、宣告したの。まあ、浄化をするまで、再開の目途【めど】はね、経たないのだけどね」

 「まあ、そうだよね。どうやら、俺から、伝えることはね、特に、なさそうだね」

 ……。

 「ええ、転属届はね、出さないの⁉」

 「うん、ごめんね……ローラさん」

 「うん、俺からも、ごめんね。すごく温かな街なんだけど、俺たちとしてはね、すごく時期早々だと思うんだよね」

 「そ、そうなんだ……」

 「コラッ⁉ ローラちゃん、あまり、困らせないの?」

 「はあぁい……」

 「それで、これからね、どうするの?」

 「はい、ひとまず、大陸各地をね、回ってみる予定です。そして、すごく目ぼしいところが、あればね、検討をする予定です」

 「ふふっ。まあ、すごく賢明だろうね。照らし合わせて検討をする……すごく確実な方法だろうからね」

 「ありがとうございます」

 「レシィーナさん……必ず、また会おうね」

 「うん、ローラさんの気持ちはね、すごく分かっているよ。私だって、すごく寂しいもん」


 レシィーナとローラ、抱擁【ほうよう】を交わしながら、お互いの思いを話す……。


 『ねぇねぇ、お酒はね、ほどほどにね』

 『はい、すごく肝に銘じます(苦笑)』



           8

 プープープー!

 「はい、こちら、ナイバース支部でございます。はい……はい……あっ、そうですか⁉ それはね、すごく大変ですね。かしこまりました。至急ね、向かわせます」

 ガチャ!


 「うん、パルマディアさん、どうしたの⁉ すごく慌てているご様子だけど……」(ローラ)

 「うん、ルナーヨ温泉でね、熱湯事件があったの」

 「ね、熱湯……すごく普通なんじゃないの⁉」

 「ローラちゃん……だったら、依頼はね、こないでしょ⁉」

 「うん、すごく興味深いよね。ねぇ、受付嬢さん、俺たちにもさ、教えてくれない?」

 「うん、もちろんだよ。あのね、温泉がね、沸騰をしちゃってるみたいなの」

 「「「「⁉」」」」

 「ふ、沸騰……」(サヴィリク)

 「へえぇ、何、それ⁉ すごく大変じゃない?」

 「レシィーナさん……言動がね、一致していないよ」

 「えへへ、ごめんなさい♥ すごく興味があって……」

 「まったく、相変わらず……すごく好奇心旺盛なんだから」

 「てへっ♥」

 「おほんっ! あのね、すごく申し訳ないんだけど、緊急クエストにね、なるの。すごく大変でしょうけど、至急ね、ルナーヨ温泉にね、向かってくれないかな?」

 「うん、もちろんだよ!」(サヴィリク)

 「はぁい! 私たちにね、お任せを!」


 ※ 緊急クエスト(ルナーヨ温泉の異変調査)自動受諾



           9

 ギルドの外(サヴィリク/レシィーナ/ローラ/クラーオウ)。

 「ええ、来てくれないの⁉ どうして、どうして……⁉」

 「レシィーナさん、何となく、察しはね、つくでしょ⁉」

 「う、うん……まあ、しょうがないよね」

 「うん、ごめんね」

 「ご承知の通り、現在、すごく人手不足だからね。俺たちはね、街にね、留【とど】まらなきゃいけないの。治安維持のためにね」

 「まあ、そうですね。すごく苦しいと思いますが、よろしくお願いします」

 「うん、気持ちだけはね、受け取っておくよ。まあ、新たなシステムの導入に伴って、すごく冒険者の誕生にはね、すごく時間を要すると思うけど、未来のためだからね。ひとまず、気長にね、頑張るさ」

 「はい、先輩、私もね、お供します!」

 「うん、すごく期待をね、しているよ!」

 ……。

 「それでは、僕たちはね、現場にね、急行しますので、これで、失礼しますね」

 「うん、気をつけてね」

 「やっほおおぉぉ! それじゃあ、またね!」


 サヴィリクとレシィーナ、ローラとクラーオウに、別れを告げて、ルナーヨ温泉に出発……。


 「…………」

 「あれれ⁉ サヴィリクさん、すごく悩んでいるね?」

 「うん、それはね……」

 「ご心配なく。おそらく、モンスターの仕業【しわざ】でしょうから、私がね、極大魔法でね、スクラップにしてあげるよ」

 「ええっ⁉ ちょっと待って、そうじゃなくて……ダメダメダメダメ! 絶対にね、ダメだよ‼ TPOはね、弁【わきま】えなよ‼」

 「えっへん! 大丈夫だよ、サヴィリクさん。私はね、すごく一流なんだから、すごくキレイにね、始末するよ」

 「ああぁぁー……もおおぉぉうぅ! 発言撤回‼」

 「えへへ♥ 照れない、照れない♥」

 「ああぁぁ……すごく心配……」


 旅立つ、サヴィリクとレシィーナをすごく温かな表情で見送る、ローラとクラーオウ……。

 「ふふっ。すごく仲良しですよね?」

 「うん、すごく長い旅になりそうだね」



                            STORY 1  完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

100%剣士と0%魔法使いの大陸放浪記 いってんnoアイ @ai2024

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ