第9話・妖賀忍法【皮かぶり】ラスト〈☆・性的忍法描写あり〉

 熊女の指摘に苦笑する獄卒 方相。

「化ける相手の調査不足でした、わたしは魔賀の最後の忍び『獄卒 方相』……魔賀 蛇ノ目が亡くなった今は、わたしを倒しさえすれば妖賀の勝利です」

 熊女が言った。

「おまえからは、忍び特有の殺気と邪気が感じられない……もしかして、もう魔賀と妖賀の忍法死闘を終わらせたいんじゃないのか?」

「気づいてしまいましたか、妖賀は現代でも抜け忍の処罰はしているんですか?」

「そんな時代錯誤なコトは、祖父の目目連の代から廃止している」

「そうですか、魔賀とは大違いですね……魔賀と妖賀の死闘は終了です、アギト島の次期大統領は白狐 ダンで決まりです」

 方相は熊女と、すれ違って去っていく時。小声で何かを囁やき、驚いた熊女が歩き去っていく方相の背中を見て、ダンに言った。

「ここから、離れるぞ……人混みの中なら、魔賀も手出しができないと思っていたが、それは違った……急いで階段を使って下の階の出口へ」

 熊女がそう言った時、商業施設の中で買い物客の悲鳴が響いた。

「マズい! すでに商業施設の中に魔賀の下忍が入り込んでいる」


  ◇◇◇◇◇◇


 商業施設の玩具売場──獄卒 方相は、襲ってきた魔賀の下忍たちと闘い倒し続けていた。

 血まみれになりながら、方相は仲間だった下忍たちを諭す。

「もう、いいだろう……命が惜しければ、抜け忍になって魔賀から離れろ。おまえたちにも家族がいるだろう」


 一般人に擬態した、売り場店員の制服を着た下忍や、地下の食料品売場の調理バイト学生の格好をした下忍が次々と、裏切り者の方相に襲いかかる。

 方相はしかたなく、下忍すべてを倒す。

 飛び散った血が玩具売場の商品を汚す。


 悲しげに骸になった下忍たちを眺めている方相に、近づいてきた兵主部ひょうすべが言った。

「それが、方相が出した魔賀への答えか」

「魔賀忍びは裏切り者を許さない、わたしが白狐 ダンを辱めるか、殺害しなかったから……蛇ノ目は下忍を差し向けた」

「辛いな忍びの掟というのは……熊女とすれ違った時になんて言った」

「『魔賀 蛇ノ目を完全に殺すには腹を寸断しろ』と……」

「そうか、魔賀の掟から逃れるためには死ぬか、狂うしか方法がないのぅ……ヒッヒッヒ」

 笑う兵主部、つられて方相も笑う。

「あはははははは……そうですね、今までありがとうございました、残された家族を頼みます。あははははははっ」

「ヒッヒッヒ、ヒッヒッヒッ」

「あははははははっ、魔賀の鬼は外へ」

 魔賀忍び『獄卒 方相は……壊れて笑い狂った。

 兵主部が自分の顔の皮を剥がすと、変装皮マスクの下から『妖賀 目目連』の顔が現れた。


  ◇◇◇◇◇◇


 大型商業施設の駐車場では、ヒーローショーが行われていた。

 ステージ上では、日本刀を振り回す『魔賀 蛇ノ目』がヒーロー、怪人関係なく斬り捨てていた。

 熊女とダンの姿を発見した蛇ノ目は、刀を振り回して二人に襲いかかる。

 制止する警備員を斬り捨てて、疾走する蛇ノ目は叫ぶ。

「白狐 ダン、魔賀の栄光のために殺す!」


 熊女が姿勢を低く、白木の刀の柄に軽く手を添えて、抜刀の構えに入って……失踪してきた『魔賀 蛇ノ目』の胴体を腹部から一刀両断した。


 上半身と下半身が寸断された、蛇ノ目の腹から紫色をした卵が溢れ。

 魔賀 蛇ノ目は二度目の【自分卵生】を果たすことなく……絶命した。

 熊女の呟き声が聞こえた。

「……化け物」


  ◇◇◇◇◇◇


【妖賀】

妖賀 熊女

✕鵺 夜行

✕野槌 七転

✕磯女 ミサキ

✕磯女 カズキ

✕赤舌 縊鬼

✕風鎌 人魚

✕片輪 入道


【魔賀】

✕魔賀 蛇ノ目

✕壁塗 笑子

✕毛羽 件

✕火取魔 鬼火

✕鉄鼠坊 ガゴゼ

✕百目 妖妃

✕姑獲鳥 雪女

✕狂骨 魍魎

✕獄卒 方相


 残った忍び、妖賀 熊女ウンニョ一人。

 壮絶な妖賀と魔賀の忍法死闘は幕を閉じた……が、熊女の心の中には、くすぶり続けている不安があった。


 ◇◇◇◇◇◇


 訪れた平穏な日々、妖賀高層ビルの熊女の部屋──熊女は、ダンを前で腕組をして。が、ずっと考え続けていた。

(妖賀が勝利した……だが、ダンが生存している限りは黒カラス党は邪魔者を始末するために刺客を送り続けてくるだろう……どうすれば)

 やがて、熊女が口を開く。

「やはり、この方法しかないか」

 熊女が心配そうに見ている、白狐 ダンの目を真剣な眼差しで見つめながら言った。


「白狐 ダン、わたしを最初で最後の女にする気はないか? 互いのバージン処女と童貞を捧げる勇気はあるか?」

 ダンは熊女の強い決意を感じ取って、静かにうなづく。


 微笑む熊女。

「わかった、今日が互いの初体験記念日だな……成功するかどうかはわからないが、まずはシャワーだ」

 一緒にシャワーを浴びて体を清めた。

 ベットに裸体で仰向けに横たわり胸を手で隠して、恥ずかしそうにダンと視線を合わさないように横を向いている熊女が言った。

「あまりジロジロ見ないでくれ、恥ずかしい」

 恥じらっている熊女に、裸のダンが近づき。男体が女体に重なるような体位で、年上の熊女とキスをする。


「んっ……ん、ダン……見えているとやっぱり恥ずかしい、室内をオレンジの明かりにして、徐々に暗くしてくれ」

 熊女に言われた通りに段階的に光源を落として室内を暗くしながら、互いの体を愛する熊女とダン。

 暗い部屋の中で熊女の。

「妖賀忍法【皮かぶり】……あぁッ」の声が聞こえた。


  ◇◇◇◇◇◇


 翌日──柵やフェンスぎ無い三階建てのビルの屋上に立つ、白狐 ダンの姿があった。

 ダンが見上げている通行人に向かって叫ぶ。

「わたしは、次期大統領候補の『白狐 ダン』だ、わたしは大統領候補を辞退する……その証しを今から見せる」

 ダンは衣服を全部脱いで全裸になった。

 赤面して小刻みに裸体を震わせるダンが、屋上から下の路面にダイブした。

 男子高校生の、全裸飛び降り自殺に騒然となる通行人。


 その混乱を離れた建物の陰から、涙を流しながら見つめている熊女の姿があった。

 熊女の近くに立って、一緒に見ていた目目連が言った。


「妖賀の忍びとしての、見事な最後じゃった」

 妖賀忍法【皮かぶり】それは、熊女が生涯で一度しか使えない忍法。

 建物の陰から飛び降り自殺をした、ダンのは入れ替わった熊女で……今の熊女の皮の中には、ダンの中身が入っている。

 目目連が言った。


「この世から白狐 ダンは消えました、もう黒カラス党から狙われるコトはないでしょう……偽造作成した電子戸籍の新しい名前は柳花ユファです。これからは柳女として、死んだ熊女の分も女の幸せな人生を歩んでください」


 ダンは唇を噛み締めながら、熊女の決断を胸の奥に強く刻み込んで、女の柳花として生きていくと心に決めた。


人工島アギト忍法帖~完結~

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人工島アギト忍法帖 楠本恵士 @67853-_-

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