第8話・魔賀忍法【自分卵生】

【妖賀】

妖賀 熊女

✕鵺 夜行

✕野槌 七転

✕磯女 ミサキ

✕磯女 カズキ

✕赤舌 縊鬼

✕風鎌 人魚

片輪 入道


【魔賀】

魔賀 蛇ノ目

✕壁塗 笑子

✕毛羽 件

✕火取魔 鬼火

✕鉄鼠坊 ガゴゼ

✕百目 妖妃

✕姑獲鳥 雪女

✕狂骨 魍魎

獄卒 方相


 現代忍び同士の壮絶な死闘は続く。


  ◇◇◇◇◇◇


 魔賀のアジト──ビリヤードをしていた魔賀 蛇ノ目は、ビリヤードをやめると。

 部屋の隅のテーブルで酒を飲んでいる、獄卒 方相に告げた。

「そろそろ、オレも一回死んでくる……後は頼む」

 方相は無言でうなづいた。


  ◇◇◇◇◇◇


 白狐 ダンが通う校舎のクラブ室──他の生徒は誰も訪れるコトがない、文系クラブの部室にいた。

 ダンと熊女は、不思議そうな表情で目の前に立つ黒髪の美少女を見た。

 制服姿で戦斧を背負った、少女入道がクルッと回ってスカートをひるがえす。

「どうですか、似合いますか。この学校の生徒に成り済ました方が、ダンさまを近くでお守りしやすいと考えたので」

 熊女が女になった入道に訊ねる。

「その制服はどうした?」

「ロッカーにあったモノを拝借しました……大丈夫です、代わりの男モノの着物をロッカーに残してきましたから」

「それは、制服を盗まれた女子生徒も困っただろうな」


 片輪 入道の忍法【羽化変化れんげ】は、男から女へ、女から男へ脱皮する忍法だが。

 入道が脱皮をするにはそれなりの時間を要する。特に女から男に変わる時は、男から女に変わる時の二倍の変態準備時間を必要とする。


 少女入道が自分の胸元を押さえながら言った。

「蝶の幼虫がサナギの中で体を溶かして、成虫の形態になるように……オレの体の中でも同じ現象が起こります。女の小柄な体から大男の姿に変態する時は、激痛が体に広がります」


「そうか、少しこの場を任せてもいいかな……この間が亡くなった母親の月命日だったから、遅れた墓参りをしてきたい……ニ十分程度で戻って来るから」

「どうぞ、墓参りしてきてください……ダンさまは、オレがお守りしていますから」

 熊女が学校近くの、墓地に母親の墓参りに向かい去ると。

 ダンは残った入道に頼み込んで、誰もいない体育館でバスケットボールの練習をはじめた。


 ドリブルからのシュート練習を繰り返しながら、ダンが護衛してくれている、片輪 入道に言った。

「退部する前は部活でバスケットボールをしていたんです。その前は少しだけバレーボールを……入道さんは、何かスポーツしていたんですか?」

「いや、オレはもっぱら大皿に盛られた甘い饅頭まんじゅうを食べながら、テレビの相撲観戦をするだけで自分からは何も」

 体育館の入り口の方に、視線を移した入道は眉間を寄せる。

「なにぃ、魔賀 蛇ノ目が学校に?」


 片輪 入道は、体育館の入り口から鞘から抜いた日本刀を持って、笑顔で近づいてくる魔賀 蛇ノ目の姿を見た。

「妖賀 熊女が体育館から出て行って、体育館の中から話し声が聞こえたから来てみたが……やはり、白狐 ダンを守る妖賀の忍びは残っていたか」

 蛇ノ目の歩きが小走りに変わる、日本刀を振り回して笑う、蛇ノ目。

「ひゃひゃひゃ、白狐 ダンを冥界に送る!」


 少女入道は、背負っていた戦斧を手に蛇ノ目に向かって走り出し、蛇ノ目が振り回す日本刀の凶刃をかわして、近い間合いから戦斧を斜め上に振り上げた。

 戦斧は蛇ノ目の胸を斜めに切り裂く。

 不気味な笑みを浮かべる魔賀 蛇ノ目。

「ぐッ、オレは死ぬ……あははははっ」

 体育館の床に仰向けに倒れて、魔賀 蛇ノ目は絶命した。

 血に染まった戦斧を持ちながら、入道は死んだ蛇ノ目の死体に違和感を覚える。

(なんだ? まるでワザと死んだような……まさか、オレと同じ属性の死んでから発動する忍法?)


 入道がそう思った次の瞬間、首筋に麻酔銃の麻酔針が刺さった。

「し、しまった」

 忍者が察知できないほどの距離位置からの、消音中の麻酔針弾の狙撃。

 巨象をも眠らせる強烈な麻酔薬に、片輪 入道は眠りに落ちる。


 体育館の床入り口から、麻酔銃を持った『獄卒 方相』と魔賀下忍たちが、体育館になだれ込んできた。

 方相が下忍に言った。

「白狐 ダンには手を出すな……この状況での辱めや殺害は、わたしは望まないフェアプレイではないからな」


 魔賀の下忍たちは、死んだ蛇ノ目の体と、麻酔薬で眠る少女入道の体を死体袋に詰めると、迅速に体育館から運び去ってしまった。

 戦斧と日本刀が残る体育館の床から、日本刀だけを拾い上げた方相は、腰が抜けているダンに向かって板チョコを放り投げて言った。

「運動して疲れた体には糖質が一番だ、わたしの子供も部活でバスケットボールをしている……残る魔賀の忍びは、わたし一人だ」

 そう言い残すと、方相は体育館を出て行った。


  ◇◇◇◇◇◇


 魔賀のアジトに運ばれた、蛇ノ目の死体にと眠る入道には別々の処置がされた。

 蛇ノ目の死体は下忍の手で包帯が全身に巻かれ『人の字型』のミイラにされて放置された。

 眠る入道の方は裸に剥かれ、軟質のピンク色をした物質が満たされた長方形の木箱に、下忍の手で降ろされる。

 監修している方相が下忍に指示を出す。

「ゆっくりとな、傷つけないように……かぶせる箱の方には、呼吸できるように空気穴を」

 木箱に入った入道を、挟むようにもう一つの軟質材が入った箱がかぶせられ……女体化した入道の体型が型取りされる。

 数分後──型取りの終わった入道の体が慎重に箱から取り出され死体袋にもどされると、今度は獄卒 方相が全身になって入道が入っていた凹みに体を横たえる。


「十分間経過したら開けてくれ」

 十分後──型取りの木箱が開けられ、少女入道姿に変わった獄卒 方相が現れた。

 箱から出てきた、方相は身だしなみを整えてから、下忍たちに言った。

「可哀想だが、型取りしたオリジナルの妖賀忍びは不要だ……始末してくれ」

 獄卒 入道は死体袋に入れられたまま、下忍たちの手で惨殺された。


  ◇◇◇◇◇◇


 数日間が経過した魔賀のアジト──床に包帯を巻かれ、人の字型のミイラになって放置せれている蛇ノ目の死体の腹が膨れていた。


 いつものテーブルで椅子に座って、ジュースを飲んでいた女入道姿の方相が、包帯の下で膨れた蛇ノ目の腹を横目で見て呟く。

「そろそろ、出てくるか」

 蛇ノ目のミイラの腹が少し動き、股の間から人間一人分が入っていそうな、巨大な紫色の卵が生み出される。

 卵を生んだミイラの腹は凹み、代わりに卵の殻が割れて中から、透明な粘液にまみれた、裸の成人男性……魔賀 蛇ノ目が誕生した。


 昆虫の中には、オスのいない環境下ではメスだけで単為繁殖するコトもある。

 また、水槽でメスだけで飼育されていたサメが、単為繁殖で出産したという事例も報告されている。

 魔賀 蛇ノ目は男でありながら、単為で自分のクローン体を生み出すコトができた。


 自分の死体から生まれた蛇ノ目が、大きく息を吸い込む。

「ぷはぁ……魔賀忍法【自分卵生】成功」

 新生蛇ノ目は、自分が生まれた卵の殻から外に出るとテーブルの上にクリーニングされて置かれていた衣服を着衣しながら、少女姿の方相に訊ねる。


「その姿、獄卒 方相か? 状況はどうなっている?」

「なにも変わっていない、膠着こうちゃくしたままだ。妖賀の方には残る魔賀の忍びは、わたし一人だと思い込ませてある」

「上出来だ、これで油断した妖賀を欺ける……出陣してくれるか、方相。白狐 ダンを辱めるか殺害するために」

「しかたがない、これも忍びの定め……出ましょう」

 方相は鞘に入ったタガーナイフを手にすると、アジトから出て行った。


  ◇◇◇◇◇◇


 アギト島の大型商業施設──ダンと熊女は、ショッピングを楽しんでいた。

 女性の下着売場で、ランジェリーの物色をしている熊女に買い物袋を提げたダンが、顔を赤らめながら言った。

「もう、地下の食料品売場で必要なモノは買ったんですから、早くこの下着売場コーナーから離れましょうよ」

 熊女が黒いレースのショーツパンツを手に、左右に引っ張って眺めながら言った。


「なんだ、恥ずかしいのか……たかが繊維に動揺して、もしかしてバージン童貞か?」

「そ、そんなコト」

「恥ずかしがるな、わたしもバージン処女だ……そうか、ダンは女性との経験が無いのか」

 何かを深く考えている熊女の前に、数日前に学校の体育館から麻酔弾で眠らされて、魔賀に連れ去られ失踪中の少女姿の片輪 入道が現れた。


 日焼けマシンで日焼けした少女入道が、親しげな口調で熊女に言った。

「やっと見つけました、あっちこっち探しましたよ」

 熊女は、いきなり現れた、日焼け少女を訝しげに眺めながら質問する。

「魔賀に連れ去られたとダンから聞いている、連絡も無く今までどこで何をしていた?」

「ずっと、魔賀のアジトに監禁されていて隙を見て逃げ出してきました、連絡できなかったのは魔賀忍びの『獄卒 方相』に携帯電話を奪われてしまったので」

「ふ~ん、なぜ日焼けしている?」

「敵の目を欺いて追撃から逃れるために、日焼けマシンで肌を焼きました」

「そうか……」


 熊女はダンが持っていた紙袋の中から、饅頭まんじゅうを一個取り出すと、方相が化けた入道に差し出して言った。

「食べるか? 甘いぞ」

「わたしは、辛党〔酒好き〕なので甘いモノはちょっと……」

 差し出した饅頭を自分で食べながら、熊女が方相に向かって言った。

「おまえは、入道ではないな……入道だったら、甘い饅頭には目が無くて、すぐに飛びつく……それに、入道は酒を飲まない。人工的に日焼けした女が大嫌いだ」

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