星空のダイヤ

半ノ木ゆか

*星空のダイヤ*

 平原に突き立てられた大型の機械が、掘り出した鉱物を地上に引き上げている。ベルトコンベアーで運ばれてきた物を見て、地球人たちは喜びの声を上げた。光を跳ね返してきらきらと輝くのは、溢れんばかりのダイヤモンドだったのだ。

 この夢のような惑星が発見されたのは、つい一ヶ月前のことだった。

 地球からわりあい近いところにある、目立たない星だった。恒星からほどほどに離れていて、大気と液体の海がある。生き物もいるにはいるが、浅瀬に原始的な藻が生えているくらいだ。地面は黒鉛で真っ黒。これといった使い道もなさそうなので、もし宇宙船が見つけていたとしても、素通りされていただろう。

 だが、地球の天文学者が望遠鏡でこの星を発見したとき、思いがけないことがわかった。表面を覆う黒鉛の下は、なんと、大量のダイヤモンドで満たされていたのだ。

 この時代、銀河系のいろいろな異星人と交流していた地球人だったが、どこの星でも、ダイヤモンドは貴重な鉱物だった。ダイヤでできた星が見つかったとなれば、奪い合いになるかもしれない。地球の政府は、他の星に悟られないよう、学者と役人を載せた宇宙船をこっそりと打ち上げたのだった。

 大粒のダイヤを拾い上げ、地質学者が皆に言った。

「ダイヤモンドでできた恒星や惑星は、今までにいくつも見つかっていましたが、遠すぎたり、暑すぎたりして、掘り出すのには向きませんでした。その点、この星はおあつらえ向きです。地球から近いので、運ぶのが安く済みます。暑くもなく、寒くもありません。藻類が酸素を吐き出すおかげで、このように息もできるのです」

 星の発見者である天文学者が言った。

「この惑星は、我々には大きすぎる。とても使い切れないし、使い切るべきでもないだろう。まずは、周りの星々とよく話し合うべきだ。ダイヤは必要な分だけ採掘しよう。平等に分け合って、皆が豊かになれるように――」

 彼の言葉を遮るように、役人が言った。

「この星を切り崩して銀河中に売り捌けば、大儲けできる。我が国の領土にして、ダイヤを独り占めしよう」

 新発見の惑星について論文が発表されるのと同時に、地球の領土に組み込まれることが宣言された。すると、銀河中の星々から批判が押し寄せた。「なんの話合もなしに、勝手に自分の物にするな」とか、「無闇な採掘は、自然破壊だからやめろ」とかいうような内容だ。でも、そんなのは建前だった。どこの国の政府も、心の底では、惑星を自分の物にしたかったのだ。

 ある国の軍隊がダイヤの星に乗り込むと、いよいよ、領土をめぐる戦争が始まってしまった。はじめは、惑星の上に陣取って睨み合っているだけだったが、やがて、お互いの星に爆弾を落とすようになった。広い宇宙にたった一つしかない、歴史ある建物が壊され、どんな宝石よりも値打のある、たくさんの命が奪われた。

 戦争に金を注ぎ込みすぎて、どちらの国も貧しくなってきた頃。しびれを切らした一方の国が、ダイヤの星めがけてミサイルを発射した。飛び散った星のかけらを、あとで拾い集める目論見だったが、彼らは大変なことを見落していた。ダイヤモンドは炭素でできていて、よく燃えるのだ。宝の星はあっという間に燃え尽き、ぐずぐずの炭の塊になってしまった。

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