本編
――本編――
@スポット1 『カリスマDJの歓迎』
あなたと歩美は、小さな階段を一歩、また一歩下りていく。
目の前には人一人通り抜けられるほどの押しドアがあった。
「着いた」
歩美が扉を開けていくと、ギギギギィと軋む音が鳴る。
あなたは歩美と一緒に中に歩みを進めていく。
室内には電気が通っている電灯が備わっていない。
あなたと歩美は自分のスマートフォンの明かりを使って建物内を照らしていく。
視界に入ってきたのは、受付カウンターのテーブル。
店に活気があった時は、ここで受付の人が歓迎してくれていたのだろう。
しかしテーブルは朽ちていてボロボロのまま放置されている。
もちろん人の気配はなかった。
あなたと歩美はさらに建物の奥へ進んでいく。
すると、何十人も収容できるほどの広い空間に到着した。
壁には丸みがかったガラスのライトが何個もある。
だけどガラスは割れていて、長い年月の間、手入れがされていないことを物語っていた。
広場の奥には段差があり、そこに使われなくなった機械が放置されていた。
「あ、ここ、ここ! 幽霊が出るクラブハウス!」
あなたは歩美の言葉を聞いて、壇上の上に設置されている機材が何なのかを理解した。
「むかし有名なDJだった幽霊を見かけたって情報がネットに載ってたんだけど、うーん、出そうな気配がないね」
歩美に心霊情報を教えてもらったあなたは、広場の様子を窺うために見渡す。
部屋はとても暗いので、詳細な情報は確認できない。
確かなのは、幽霊を見つけることは出来なかった。
歩美は苦笑いを浮かべながらこちらを見る。
そして彼女はここまで通ってきた道を戻っていくのだった。
するとその時、あなたは広場の方から光がさしていることに気づいた。
背後を振り向くと、割れていた電灯から明かりが放たれ、広場内を照らしていた。
さらにあなたの持っているスマートフォンから突然、見知らぬ男性の明るい音声が流れてきた。
『――カモン! さあみんな一緒に、いくよー!』(ノリノリの声音)
@スポット2 『インフルエンサーの怨念』
あなたと歩美は狭い路地に到着した。
道幅は人間が三人並んで歩けるほど。
天候が良くても、建物に挟まれている路地なので、薄暗くなっている。
道の隅にはお菓子の袋やペットボトル飲料の空容器が無造作に捨てられていた。
あなたと歩美はしばらく歩いていると、『通行止め』と書かれた看板の近くにたどり着いた。
「よしっ、到着。えっとね、ここには少し昔に有名だった女性バーチャルライバーを見かけたって情報がネットに書き込まれてたんだ。もちろんそのバーチャルライバーは今現在は活動してないよ。その子については調べたんだけど、その子を応援していたファンの一人が、こっそり身元を特定したんだって。それで俗にいうストーカー行為に走ったんだけど、エスカレートしちゃって。ファンの人とその子が揉めた挙句に、ファンの人が暴走しちゃって彼女を殺めちゃったんだ。そんな悲しい事件があったんだけど、その現場がここ」
あなたは歩美から説明を受けると、女性バーチャルライバーの幽霊が居ないか周囲を確認した。
しかし良くも悪くも、閑散とした路地の風景しか目に入ってこない。
歩美とあなたはしばらくその場で待ってみるけど、幽霊の気配は感じられなかった。
「うーん、ここの情報は偽情報だったのかなぁ」
歩美は頭をポリポリと掻くと、看板から離れるように歩いていく。
あなたも彼女の後ろを歩いて行った。
すると、あなたのスマートフォンから知らない女性のうめき声が流れてきた。
『……あんたもわたしを付け狙ってるの?』(強い不満を込めた声)
@スポット3 『迫害の結末後』
あなたと歩美は、とある大きな建物の前に移動し終えた。
広い面積の土地の中に、広くて大きな建造物が堂々と建てられている。
しかし昔の面影が無くなった外観に変化していて、いま目の前にある建物は所々朽ちていた。
歩美と一緒にあなたは建物の入り口に入っていく。
建物内は電灯が切れている。
外の天気は晴れだけど、太陽の明かりは建物内を完全には照らしてくれない。
薄暗い闇が、あなたと歩美を歓迎している。
入り口には大きなロッカーがいくつも並べられていた。
あなたはただのロッカーではないことに気が付いた。
目の前に設置されているものはきっと下駄箱だろう。
この中に靴を仕舞うはずだ。
しかしその機能を果たしていたのは過去のことだ。
今はだれも使っていないその下駄箱は、あなたと歩美の歩行の妨げになっているだけだった。
そして下駄箱から連想したあなたは、歩美と一緒に入ったこの建物が、学校だということも理解した。
誰も使用していないだろう学校の中を土足で入ってもだれも文句は言わない。
あなたと歩美は廊下を進んでいく。
すると、上の階へ移動するための階段を発見する。
生徒が居ない学校の廊下や階段は、幅に余裕がありどこか寂しい気配を感じた。
歩美は意気揚々とさせながら躊躇せずに階段に足を乗せていく。
あなたも彼女の後ろをついていき、階段を一歩、また一歩上がっていった。
建物は時間が経っても丈夫さを保っていて、階段もあなたが乗っても問題がない状態だった。
2階に到着したあなたと歩美は、階段を上るのをやめた。
まだ上にも階段が続いているけど、歩美は進路を変え、廊下に足を運んでいく。
廊下にはいくつもの教室が並んでいた。
しかし賑わった様子は一切なく、多くの机と椅子が寂しく放置されている。
そして空き教室を三カ所通り過ぎたところで、歩美は近くの教室の中に姿を消す。
あなたも彼女を見失わないように、進路を曲げて教室内に入っていった。
「ここ、ここ」
歩美は嬉々としながら教室内を見渡していく。
あなたも彼女と一緒に教室の様子を見ていった。
他の教室と同じように、使われなくなった古い椅子と机が乱雑に置かれた光景が目に入ってくる。
あなたは何となく、他の人が教室を荒らしまわった痕跡を感じ取った。
「この高校の2-Dの教室に幽霊が出るって情報がネットに書いてあったんだ。廃校の原因にもなった事件があるから、信憑性は高いよ。ちなみにその原因なんだけど、この高校でいじめが原因の殺人事件が起きたんだ。そのニュースは有名だから、すぐ調べたら情報出てくるよ。この教室の生徒だった女子生徒の一人が、クラスでいじめを受けていたんだ。先生もいじめについて気づいてても助けてくれず、この教室の生徒全員がもてあそぶように一人の女子生徒に危害を与え続けていたんだ。ある時、教室のリーダー格であり、いじめの主犯人の女子生徒がそのいじめていた女子生徒に危害を加えたとき、反撃を貰ったんだ。いじめられてた女子生徒も我慢できなかったんだね。それでその反撃が強い恨みが込められていたのか、リーダー格の女子生徒の息の根を止めてしまったんだ。で、その死んじゃった女子生徒の幽霊がこの教室に現れるはずなんだけど……」
歩美は目を輝かせ、口角を上げながら周囲を見渡す。
「何も起きそうにないね」
彼女は苦笑する。
そして歩美は幽霊探しを諦めて、教室から退室するのだった。
あなたも収穫がないことを確認すると、歩美の後ろを歩いていく。
すると、あなたが持っているスマートフォンから、知らない女性の声が流れてきた。
『みんな死んじゃえばいいんだ。ワタシだけじゃなくみんな死んじゃえっ!!』(攻撃性を感じる声)
@スポット4 『失われた信仰』
あなたと歩美は、とある四階建ての建物の前に到着した。
建物の玄関から中に入ると、中は荒れ果てた寂しい空間が待っていた。
あなたは歩美と一緒に、機能しなくなったフロントの受付を通り過ぎる。
それから階段を見つけたら、屋上を目指して登っていく。
階段に足を乗せるたびに、いつもよりも自分たちの足音が大きく鳴り、静かな建物内に響き渡っていく。
一歩ずつ確実に上がっていくと、続いていた階段が途切れた。
最上階についた歩美は、近くの金属扉を開けていく。
グイィィインと不気味な鳴き声を上げる扉の先には陽光で照らされて、はっきりと見える苔やほこりで汚れた屋上の景色だった。
「ここだここ。ここの屋上の端で幽霊が出るって噂がネットに書いてあったんだ。で、その幽霊ってのは、むかしの伝説的な歌姫のファンだったんだけど、その歌姫が引退するってことになって、絶望して命を絶った幽霊だって書かれてるんだ」
歩美はウキウキとしながら屋上の中央まで歩いていき、周囲を見渡していく。
「でも、見当たらないね。情報によると、端に立っていた女性がそのまま飛び降りていくってあったんだけど」
あなたも彼女と一緒に屋上の中心で周囲を見渡す。
天候がいいということは分かった。
歩美は肩をすくめながら不満を漏らす。
「どこにも居ないね」
彼女は諦めて、屋上の出入り口に向かっていく。
あなたも幽霊が見つからないと判断すると、歩美の後ろをついて階段を下りて行った。
あなたと歩美はフロントを通り過ぎ、建物の外に出る。
暗い場所から明るい場所に移動したので、少し眩しさを感じた。
歩美はスマートフォンで次の目的地を確認しながら足を進めていく。
あなたは彼女に付いていこうとした。
すると、あなたの持っているスマートフォンから、大人の女性のおぞましい音声が流れてくる。
『――ろちゃーんっっ!!』(発狂じみた絶叫)
『ドグシャッ』(弾力のある物体が固いものに衝突する音)
◎スポット5(最終・出口)
【スポット地域】の各所を回り終えたあなたは、歩美と一緒に感想を述べるのだった。
「うーん、ネット上ではみんな幽霊が出たーって大騒ぎだったんだけどなぁ。期待外れだったね?」
彼女の物足りなさそうな表情を見ながら、あなたも苦笑いを浮かべる。
「今回も例外なく話に尾ひれがついたネットの話だったね。くぅ、まんまと乗せられちゃったよ。ごめんね、わざわざ一緒に来てもらって、まさかこんなことになるなんて思ってなかったからさー」
歩美は両手を顔の前で合わせて、謝罪の仕草をした。
「まぁ、こういう日もあるってことで、帰ろうっか。今日はまだ時間ある? どっか買い物に行こうよ」
気持ちを切り替えた彼女の背中を見つめながら、あなたも帰路につくのだった。
幽霊その1「ふふっ、私たちに会いに来てくれてありがとう」
幽霊その2「せっかく仲良くなれたのに、このままさようならなんて悲しいこと言わないで」
幽霊その3「私たちの絆は永遠。離れていてもずっと一緒」
幽霊その4「……違う、離さない」
幽霊その5「あなたと私は常に一緒にいる運命」
幽霊その1「このスマートフォン、とっても住み心地がいいの」(悪戯ボイス)
幽霊その2「ここに居れば、ずっとあなたと一緒にいれる」(錯乱声)
幽霊その3「どこでも一緒にいれる」(狂気交じり)
幽霊その4「……逃がさない」(執着声)
幽霊その5「これからもよろしくね……」(ねっとり声)
SARF×カクヨム 短編こわ~い話コンテスト !~よたみてい書 @kaitemitayo
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