第12話 魔伯爵ルゴラウス

「どうなってやがる! おいお前達! 何故我ら魔族の言う事を聞かないのだ!?」

「ああん? 何故ワシが貴様らの言う事を聞かねばならんのかのぅ?」


 相変わらず瓢箪から酒を呷る鬼の魔物、ドウジはそう答えると持っている大きな金棒を振るい、一瞬で目の前の魔族を消滅させる。

 あいつ、魔法も使わずによくもまあ魔族をワンパン出来るよな。もしかして俺より強いんじゃねえのか?


「ドウジは武闘が優れております故」

「いや普通に俺の思考を読み取るんじゃないよ、ルース。怖いから」


 最早俺のプライベートスペースなんて無いのかもしれない。そんなことを考えながら俺は魔物達の軍勢の先頭を歩いてゆく。

 魔物達には人間は殺さず、魔族だけを倒してくれと頼んで各地へ解き放った。今頃、聖王国内部では混乱が生じていることだろう。


「た、助けて!」


 そうして俺達が進行している最中、突如そんな声が聞こえてくる。見れば人間の女性が魔族に剣を突き付けられていた。


「おい! どうやら人間の仲間らしいなぁ、お前達! こいつがどうなっても……」

「あまり主を怒らせないでくださいまし」


 その魔族が言い終わる前に瞬時に移動してその首が斬り落とされる。確かあいつは900階層目のダンジョン主である鎌鼬かまいたちの魔物のハヤテだったかな。

 魔物ではあるが姿かたちはまさに人間の女性そのもの。ただし、普通の女性と違う点は恐ろしく速いところである。

 今も瞬きもしない間に魔族の首を刀で斬り落としている。


「ハヤテでかした」

「主にそんな褒められ方されたら私舞い上がってしまいます」


 ダンジョンの魔物は俺を親のように慕っているからこれほど忠誠されているのだとルースに聞いたけど、親に対してこんな反応するもんか? まあ別に悪い気はしないけどさ。

 そしてハヤテによって無傷で助けられた女性はというと頭を下げて礼を告げてくる。


「ルルーシア。ところで聖都ってこっちの方角で合ってる?」


 一応中心に向かって進むようにしていたんだけど、そういえば場所を聞いていなかったなと思い出し、そう尋ねる。


「はい、合っております」

「オーケー、ありがとう」


 舞の中を魔物の軍勢が行進する。一見すれば地獄絵図なんだろうな。そんなくだらないことを考えながら魔伯爵とやらが住んでいるとされる聖都を目指す。

 その時であった。上空から少し大きな魔力を感じ取った俺は歩みを止めて前を向いたままサッと後方へと移動する。

 その直後、さっきと同じような色合いの炎に纏われた何かが地面に突き刺さる。


「てめえか。反乱の意思は」


 反乱の意思、そんな事を言いながら地煙の中から姿を現したのは深紅の翼を持った赤い魔族だった。

 他の魔族と比べればちょっと魔力量が多い気がする。もしかしてこいつ、上級魔族か?


「出ました。グリフ様。あれが魔伯爵ルゴラウスです」

「あー、あいつがそうなのね」


 でもそれにしてはあんまり強そうには見えないけど。まあ強い奴ってそれだけ魔力量を抑えるのが得意だって聞くし、そういう事なんだろうな。


「ほほう……誰かと思えば聖女様じゃあねえか。たくっ、駄目だろう? 勝手に逃げちゃあ」


 ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべると掌に赤黒い炎を生み出すルゴラウス。そして手のひらサイズのその小さな炎は一瞬にして家を一軒飲み込むほどにまで大きな焔の球へと成長する。


「大層な群を引き連れてキング気取りかぁ? クソガキが。聖女様も聖女様だぜ。こんな魔物ばっかの軍隊を引き連れるような邪悪な奴に泣き寝入りするなんてよ! ギャハハハッ!」


 長々と他人をけなすような言葉を並べ、大きな焔の球をこちらに向かって放り投げてくるルゴラウス。


「なんか言われてんぞ、ルルーシア」

「私の事は別にどうでもいいんです。そんな事よりも私の父や母、兄弟を殺したあいつが憎い」


 その眼差しは母を殺されたと気が付いた時の俺と同じ瞳をしているような気がした。仇敵を前にした彼女は普段の天真爛漫な彼女とは違い、表情はなくなり、ただ怒りに身を震わせている。


「なら慈悲はないか」


 その瞬間、俺は全身に武闘を纏うと飛来してきた赤黒い焔の球を殴り跡形もなく消し飛ばす。


「なっ……」

「お前の炎は何も熱くないな」


 俺は焔の球を消し飛ばすと同時にルゴラウスの下へと駆け、魔力を放出する。


龍焔演武りゅうえんえんぶ


 そして放つは龍の焔。いつぞやに見たファブニルの魔法だ。威力はまあファブニル程じゃないが、こいつを消し去るには十分だろう。


「私に炎の魔法など愚の骨頂だな!」

「食らえばわかるさ」


 放たれた龍の焔はルゴラウスの身体を焼き尽くす。

 最初の方は耐え抜いていたルゴラウスも徐々にその焔に耐え切れなくなってきたのか赤い翼が徐々にボロボロと崩れ落ちていくのが見える。


「くそ! くそ、何故消えねえ!」

「いや消えないっていうかお前が消せないってだけだけどな」


 まあ苦しみながらも普通に生きているのを見るに、炎に対してかなりの耐性はあるみたいだけどな。

 これじゃすぐには倒せないな。そう悟った俺は焔を消し、ルゴラウスを解放する。

 焔が消えた瞬間、ルゴラウスは地面に片膝をつく。


「よくもやりやがったな、てめえ。今度はこっちの……」

「やめろルゴラウスよ。相手が悪い」


 ルゴラウスが魔力を纏おうとすると、そんな声が聞こえてくる。誰だろ? 近くには俺の仲間以外他に居ない筈なんだけどな。

 そんなことを思っているとルゴラウスの懐の中から一冊の本が飛び出してくる。そしてその声はどうやらその本の中から聞こえてくるものだという事に気が付く。


「ザッカス。流石に冗談キツイぜ? 私が負けるわけないだろ」

「いや、この者の魔力保有量は大幅に貴様を超えている。このまま戦おうと負けるのは必至であろう。ここは反抗せず降参するべきだ」


 なんだあれ? 一人で寂しすぎて本に変な魔法をかけたのか?

 俺がそんなことを考えていると隣からルースによって本の正体が告げられる。


「魔導書ですね」

「魔導書?」

「はい。ただ魔導書とは元々この世界には存在しないものの筈。どうやらきな臭い予感がしてきましたね」

「俺もそう思うぜ、ルースよ」


 ファブニルとルースがそんなことを話し合うが、何を言っているのかは理解できない。まあ、どのみちルゴラウスを見逃すつもりはないから関係ないけど。


「まあ良い。どっちにしろ俺のやることに変わりはない」


 今度はルゴラウスの前まで走り寄ると、そのまま勢いよく拳を引き、そのままルゴラウスの腹をめがけて打ち出す。

 既に全身が痛めつけられて動きが鈍いルゴラウスにそれを止めるのは難しい。

 まさに俺が勝ちを確信した瞬間、俺の耳にこんな声が聞こえてくる。


「召喚:赤の魔獣ザッカス」


 そして俺の拳を受け止める巨大な赤い魔物が姿を現すのであった。

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終末世界のダンジョン王~幽閉されてた場所がダンジョン化して知らぬ間に最強ダンジョンの王になっていたけど、外では世界が滅んだそうです〜 飛鳥カキ @asukakaki

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