勇者佐藤VSメカシャロール ~けっして砕けぬ鋼鉄の想い~

砂漠の使徒

始まり

 ときは30XX年。

 度重なる戦乱によって、地球は枯れ果てていた。

 そんな荒野をさまよう男が一人。


「この土地も……ダメか」


 足元の土を拾いあげ、ポツリと呟く。

 かつては不死身の勇者と呼ばれていた彼のことを知る者は、もういない。

 彼もまた、もはや以前の自分には興味がなかった。

 今はただ、滅亡の一途を辿るこの星に残る僅かな生命を探すことだけが生きがいであった。


「今日は、風が強いな」


 男の旅路を阻むかのように、強い向かい風が吹き荒れる。

 砂が舞い、古びたマントが勢いよくはためいている。


「待つシャロ……」


 激しい風の音に紛れて、背後で砂を踏みしめる音が響いた。

 いや、それだけではない。

 どこか聞き覚えのある声もした。


「お前は……」


 風に押されるように振り向くとそこには……。


「私のことを知っているシャロ?」


 全身灰色のボディーから鈍く光を放つ人型が立っていた。

 瞳は人間のように輝いていない、が。

 その見た目は、男がある人を思い出すには十分だった。


「ああ、忘れるはずもない。お前の名は……」


「挨拶は……不要!!!」


 突如灰色の閃光が迫ってくる。

 人間離れした速度で近づいてきたそいつは、素早く右腕を突き出した。


「ぐはっ!」


 男の腹に深々と奴の右腕が……そう、鋭く尖ったブレード付きの腕が、刺さったのだ。

 まだ刺さったままの腹からは、わずかに血が滴ってくる。


「さすがは『勇者』といったところシャロね」


「ふっ……昔の話さ」


 どこか余裕そうな二人。

 しばらくして、鋭い右腕を引き抜く。


「どうして避けなかったシャロ?」


 抜いた瞬間、傷口を中心に煙が立ち込める。

 一瞬腹に空いた穴が見えなくなったかと思えば、もうふさがっていた。

 後に残ったのは、穴の開いた服だけである。


「たとえどんな姿だろうと……お前がシャロールだからだ」


 男は顔を上げると、にやりと笑った。

 まっすぐに見つめ合う。

 その瞳には、対峙する人型とは正反対に光で満ちていた。


「ば、ばかなっ。私はたしかにシャロールを模してはいるが……アンドロイドだ、シャロ」


「だとしても、だよ。少しでも君が君であるならば、僕は……」


「うるさい!!!」


 シャロールと呼ばれたアンドロイドが高速で腕を横に振るう。

 直後、男の体が真っ二つになり、上半身が地に崩れ落ちた。


「私を惑わすなシャロ……。私はしょせん、偽物シャロ……。お前の愛したシャロールでは……」


 苦悩した様子で、頭を抱える機械生命体。

 それを見て、なおもほほえみながら男は体をつなぎ合わせる。


「それは違うよ。僕はわかる。君もシャロールだって」


「え?」


「だって、手加減してくれたじゃないか」


「そ、そんなことは……」


「本当に僕を殺す気なら、真っ先に首を斬り落とすはずさ。それに、こんなに悠長におしゃべりなんかせずに殺し続けるはずだよ、不死身なんだから」


「……」


 もはや言い返す術はない。

 下を向き黙り込んだアンドロイド……シャロールに男は手を差し伸べる。


「一緒に行こう、シャロール。一人旅は寂しいからさ」


「し、しかし……無理、シャロ」


「どうして?」


「私の頭には、自爆装置が埋め込まれているシャロ!!! お前について行くなんて裏切りがバレたら……」


「それなら大丈夫だよ。もう斬ったから」


「へ?」


 勇者は腰にある長剣の柄にトントンと指を置く。


「さっき僕のお腹を突き刺したとき、頭の中から爆弾の音がしたからさ。破壊しておいたよ」


「そんなこと……できるわけ」


 こんななんの設備もない荒野の真ん中で、頭の爆弾の除去ができるとは到底思えなかった。


「できるさ。僕は勇者だからね」


 男の言葉は妙に安心できた。


「佐藤……」


(了)

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勇者佐藤VSメカシャロール ~けっして砕けぬ鋼鉄の想い~ 砂漠の使徒 @461kuma

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