胸キュン戦隊イケメンジャー2024 ~合体せよイケメンロボ!~
無月弟(無月蒼)
第1話
イケメンジャーには三分以内にやらなければならないことがあった。
それは敵の巨大兵器を破壊することである……。
いや、そもそもイケメンジャーってなに?
そう思う人もいるだろう。
だからまずは、彼らについて解説しよう。
皆さんはご存じだろうか。
悪と戦う、5人のヒーローの存在を。
ここはある学校の校舎裏。 一人の女子を、悪者達が囲むようにして立っていた。
「おーほっほっほ! わたくしは悪役令嬢ですわよー! ヒロインをいじめますわよー!」
「えーん、やめてー!」
悪役令嬢の魔の手が、ヒロインに伸びる。
しかしそんな中、 色とりどりのヒーロー達が現れた!
ドンッ!
「お前、コイツに手を出してんじゃねーよ」
壁ドンをする彼の名は、俺様レッド!
クイッ。
「やれやれ、あんまり手間を掛けさせるな」
顎クイをしながら冷たげな眼をするのは、クールブルー!
ぽんっ。
「そういう所も可愛いけど、ちょっとやり過ぎだよ」
頭ポンをしながら爽やかな笑顔を浮かべるのは、王子様イエロー!
「覚悟してよね、おねーさん♡」
身を屈めた状態で上目遣い。幼く愛くるしくい、ショタグリーン!
「さあ、悪い子にはお仕置きをしないとね」
凛々しい顔をしながら悪役令嬢をひょいとお姫様抱っこしたのは、女性メンバーの宝塚ホワイト!
「「「「「天下御免の胸キュン戦隊、イケメンジャー!」」」」」
5人はいずれも、目を見開くほどのイケメン。
彼らは悪役令嬢からヒロインを守るために戦う、乙女ゲームの攻略対象キャラをモチーフにしたふざけた戦隊ヒーロー。 『胸キュン戦隊イケメンジャー』なのである。
そして今回は、悪役令嬢の恐るべき作戦が行われそうとしていた……。
◇◆◇◆
みんなー、こんにちはー。私の名前は、披露院桃子。
イケメンジャーのサポートをしている、このお話のヒロインだよ。
今日もイケメンジャーの皆は街に現れた怪人をやっつけたんだけど、直後にとんでもない事が起きたの。
何が起きたのかって言うと……。
「くそ、悪役令嬢め。まさかあんなものを持ち出してくるとはな」
俺様レッドが言うと、他のイケメンジャーの皆も、レッドの視線の先にあるソレを見る。
彼らの暮らしている街の中に、突然ビルくらいの大きさの巨大なスピーカーが出現したの。
そしてスピーカーからは、悪役令嬢の声が聞こえてくる。
『おーほっほっほ! わたくしは悪役令嬢ですわよー! 突然ですけど、西英学園高等部1年2組のモブ山モブ子さん。チョコレートの大好きなアナタはニキビで困っていて、メイクで誤魔化していますわよね。それに3年1組のモブ川モブ美さん、アナタは美意識が高いですわね。ムダ毛処理のクリームをドラッグストアで吟味との目撃情報がありましてよ。そして2年3組のワキ役ワキ恵さん、ついに体重が60キロの大台を超えたと聞きましたわ。おめでとうございまーす!』
スピーカーからは次々と、個人のプライベートな情報が暴露されていく。
な、なんて酷い! 乙女の秘密を、街中に聞こえる大音量で流すなんて!
もしかしたらデマカセかもしれないけど、言われた子達はきっと傷ついてる。
こんなの許せない!
「知られたくない乙女の秘密を暴露するスピーカーを、放ってはおけない! お願いイケメンジャーの皆、あのスピーカーをやっつけて!」
「当たり前だ‼ しかしあんな巨大なものをどうやって壊すか」
俺様レッドが言うように、スピーカーは100メートルくらいある。大きすぎだよ!
他のイケメンジャーの面々も困ってるみたいだけど、待って。こういう時こそ、アレの出番じゃない!
「何をやっているんですか皆さん。今こそ、イケメンロボを使う時じゃないですか!」
イケメンジャー達に向かって、声を張り上げる。
イケメンロボって言うのは、戦隊ヒーローのお約束、巨大ロボットだよ。
イケメンジャーの5人それぞれが5つのメカに乗り込んで、それらが合体して一つの巨大ロボットになる。皆知ってるよね。
イケメンロボさえあれば、スピーカーくらいやっつけられるはず。
だけど。
「えー、イケメンロボかよー。アレ使いたくねーんだよなー」
「同感だ。何か別の手を考えよう」
俺様レッドに、クールブルーが同意する。
けど、ちょっと待ってよ!
「何言ってるんですか!? このイケメンジャーシリーズが始まって、今年で6年目なんですよ! 普通の戦隊ヒーローで言うところの、第6話。なのに未だにロボットが出てきてない事の方が、おかしいじゃないですか!」
「それはそうなんだけどさあ……王子様イエロー、ショタグリーン、お前らはどう思う?」
「それは……僕もちょっと」
「ボクもヤダ。ロボで合体なんてしたくないよ」
そんな、王子様イエローやショタグリーンまで反対だなんて。
で、でも、宝塚ホワイトお姉様は違いますよね?
恐る恐る彼女を見ると……。
「そんな事言ってる場合じゃないだろう。私達がこうしている間にも、傷ついている子がいるんだ。モタモタしててどうする?」
毅然とした態度で言い放つ、宝塚ホワイト。
さすがお姉様、分かってらっしゃいます!
するとこれには、俺様レッドも渋々了承する。
「分かったよ……ああ、もう、仕方ねーな! 来い、イケメンロボ!」
俺様レッドが言うと、それに呼応したように空の向こうから5体のメカが飛んできた。
あれぞ戦隊ヒーローの定番、ヒーロー達が乗り込むメカなの。
もちろん後で合体して一つの巨大ロボットになるんだけど、今は合体前の分離状態。
で、その合体前のメカがどんな姿をしているかと言うと、イケメンジャーの面々をそれぞれ巨大化させたような、人型なんだよ。
合体前のメカと言うと、飛行機だったり動物をモチーフにしたメカだったりする事が多いけど、彼らはイケメンを売りにしたイケメンジャーなんだもの。
だったらロボットの造作も、イケメンでなきゃね。
すると騒ぎを聞きつけてきたのか、イケメンジャーファンの女性達がわらわらと集まってくる。
「キャー、イケメンジャーよー!」
「素敵ー! しかも今日はロボットまでいるわー!」
「頑張ってー!」
ふふふ、さすがイケメンジャー、すごい人気だよ。
そしてファン達の声援を受けながら、俺様レッド達はそれぞれメカに乗り込んでいく。
まるで精巧に作られた、巨大なフィギアみたいメカ達。今でも十分格好いいけど、その真骨頂はなんと言っても合体だよね。
私は通信機を使って、メカに乗り込んだ俺様レッドに話しかける。
「さあ皆さん、合体してあの、巨大スピーカーをやっつけてください」
『ああ……あのさ、本当にやらなきゃダメか?』
「何を言っているんですか? せっかくメカに乗り込んだのに合体しなかったら、視聴者さんが怒りますよ!」
『視聴者と言うか、読者な。ええい、分かったよ……イケメン合体!』
俺様レッドの掛け声と共に、メカ達が合体を始める。
まずは宝塚ホワイトを除いた4人のメカが、組み合わさっていったの。
するとそれを見ていたファンの皆が、歓声を上げる。
「キャー、イケメンジャー達が合体して一つになるー!」
「イケメン達が絡み合うように折り重なっていってる。と、尊いー!」
「ああーっ! レッド様の突起物が、クールブルー様の中に入っていくー!」
人型だったメカが変形して一つになっていくのを目の当たりにしたファン達は大興奮。
今は俺様レッドのメカ腕が変形してクールブルーのメカにくっつく形で合体しているんだけど、この時点で何人かは鼻血を出して倒れちゃった。
分かる、分かるよー。
イケメンメカの合体には想像力を掻き立てられる、謎の刺激があるものね。
だけど合体の様子にうっとりしていると、通信機から俺様レッドの慌てた声が聞こえてきた。
『お前らヤメロォォォォッ! 合体なんて中止だ中止ー!』
途端に、折り重なっていた4つのメカが離れて言っちゃって、私は慌てて通信機に向かって叫ぶ。
「何故!? どうして合体を止めちゃうんですか!? イケメン合体はカクヨムではできないようなあんな妄想やこんな妄想を膨らませられるから、腐女子の皆さん大喜びなんですよ!」
『バカ野郎、だから止めたんだよ! とんでもねー妄想しやがってー!』
「そんな、爆上戦隊が結成できそうなくらい、私達のテンションは爆上がりだったのにー!」
『止めろ! とち狂ったお前らのせいで、最近始まったばかりの本家爆上戦隊に迷惑がかかったらどうする!』
「今回のお話、作者は3年前のKACの頃には既に考えていて、以来ずっとイケメン合体をさせたくてたまらなかったのですよ!」
『あのアホ作者の事なんてどうでもいいわ!』
いくら言っても、取りつく島もない。4つのメカは完全に離れちゃった。
すると通信機から、今度は宝塚ホワイトの声が聞こえてくる。
『おーい、男子達まだかい? 君達が合体してくれないと、私も動けないじゃないか』
「ホワイトお姉様。そういえばお姉様のメカは他の方々と違って、絡み合いませんでしたね」
『ああ。レッド達4人のメカは合体して、一つの巨大イケメンロボになるんだけど、私のメカは巨大な白い羽根みたいなパーツに変形して、最後背中にくっつくんだ。だから彼等が合体してくれない事には、どうしようもない』
「巨大白い羽根……それって、あの女性だけの歌劇団のトップスターが背中に背負う、あんな感じの羽根ですか?」
『そう、あんな感じの羽根』
なるほど、イメージできました。
分からない人は【宝塚 羽根】で検索してみてね。
だけどどうしよう。このままじゃ俺様レッド達は合体してくれないし、巨大スピーカーはある事ない事言いまくっちゃう。
いったいどうすれば……。
だけどここで、通信機からクールブルーの声が聞こえてくる。
『なあ、ちょっと思ったんだが、相手はたかがスピーカー。動かないし攻撃もしてこないなら、わざわざ合体しなくても勝てるんじゃないか?』
『それだ! いいかお前ら、あのクソスピーカーを、合体せずにぶっ壊すぞ!』
『『『了解!』』』
『放送時間の尺の問題や、巨大メカの戦闘に必要な予算の都合もある。三分以内にやるぞ』
『『『『了解!』』』』
こうしてレッドの指示の元、スピーカーをボコボコに破壊していく5体のイケメンロボ。
ブルーの言った通り、本当にすごくあっさり片付いて、三分どころか一分もかからなかったよ。
早っ! 同じ特撮のウルト○マンより、全然早っ!
ああ、そして結局合体は見られなかった……。
「くっ……まだです! イケメンジャーの皆さん、これで終わりと思わないでくださいね! 次はもっと強力な相手を用意して、今度こそイケメン合体をさせてみせますから!」
『お前が敵側にまわるなー!』
こうして今年も、イケメンジャーの戦いは続くのでした。
おしまい♪
胸キュン戦隊イケメンジャー2024 ~合体せよイケメンロボ!~ 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます