詩『ただ一瞬の風と知りせば』 お題:肌

浮雲うきぐもよりも気まぐれなるひとの心が

こわかったのだ

わたしの為のオアシスを

求めていたのだ

そして、蜃気楼しんきろうに魅せられて

求め続けた

必ず、

 遠ざかっていったというのに


水をもとめるたびにわたしは渇いていく

 あらゆる疑問はもやもやとした熱気になって

頭の中で

  陽炎かげろうになって揺れて踊った


このさなかに風が吹いた


蜃気楼も陽炎もたったひと吹きの涼風すずかぜが抜けていったから

幻とはいえ、ありとあらゆるかたちが散った


思えば

そのあとの

風鈴さえもならぬ、あの静寂の中に

私の苦たるほとぼりをおいてきたのだ


風と知っているから、留めることは叶わない

別れは上手い冗談を言うように、ではなく

肌と肌との境目を確かめるような

握手というには動きのない

汗もろとも一握いちあくの中に閉じ込めるような互いの力のあとで

風は大切な一握からするりとぬけた


いまおもう、つねおもう


心に地獄を持たない人が天国を信じない人で

心に地獄を持たない人が生きて地獄を見る人だと


そのなかで

あなたに、だれかに、

ただ幸あれと願えることこそは

つねにみなもととなって

とうときの水たまりを満たすであろう



拝啓


今もなお、

 ただ一瞬の風を統べておりますでしょうか。

──おはり──


 解説……途方もない抽象的な詩です。

 この詩を作者として解説するのは読者として解読するのよりも難しいかもしれないです……苦笑


 強いて言うならばここだけは絶対に解説したくない、考えてほしいという部分があって、


『心に地獄を持たない人が天国を信じない人で

心に地獄を持たない人が生きて地獄を見る人だと』


 というところです。

 本当に、各々でじっくり考えてほしいなぁ……という部分でもあり、人それぞれの解釈というか個性が出るところだと思っているからです。このフレーズに対する反論も含めて個性かなぁと。

 作者の持つ(考えている)意味の解釈でさえも阻害してしまう。むしろ、作者の言葉だから強い影響を与えてしまう。

 ので、ここは解説できないです。本当にごめんなさい。

 

 あとは古文だと「せば~まし」の係り結びがあるのですが今回はそこまで厳格に考えないでもらえると助かります。むしろ、余裕のある方はタイトルの後にどんな「~まし」が来るのか想像(妄想)してください。

 そういう、隙間の多い詩だと思っていただければ本当に幸いです。

 あとは言葉遊びというか敢えて漢字を使わずに複数解釈可能なようにした部分も多々あります。(一例として、「たび」とか)

 

 

 ※ちなみにの解説。「せば~まし」は反実仮想で『もし~ならば、……だろう(に)』の意味で使われます。


 以上、解説でした!

 本作をもって『溢盃』は完結といたします。

 

 どうもありがとうございました。

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作品集「溢盃」 上月祈 かみづきいのり @Arikimi

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