第3話 k


ギュッ ギュッ ギュッ ギュッ…


カフェはコンクリートでできた建物のニ階に店舗がある。一階はブティックで、どちらからも個性的な服装の人が出入りしている。


カフェのダイセツマウンテンのドリップ珈琲は

フルーツのような甘い香りで、爽やかな酸味がする。


あ、よかった。これは美味しい。癒される。



「あれneneさん?だよね。同じ学部の…。」


近くに人がいるのに気が付かなくて驚いてしまった。声をかけてきたのは同じ大学で社会学部のk君だった。

長身で黒髪マッシュの、前髪が目にかかるくらいあるので、彼に私が見えているのか疑問だった。


「neneさんは、よくここくるの?」


「うん、たまにね。ここの珈琲好きなんだ。」


と言ったけど、本当は…2回目です。

初回は注文の仕方がわからず、焦りながらジャイアンみたいな名前の珈琲を注文した。

店員さんはパンチの効いた珈琲を淹れてくれ、味も含めて苦い思い出だった。



「俺、ここでバイト始めたばっかり。

知ってる人見かけてちょっと安心したわ。じゃ、また。」


「うん、…またね!」


k君のロングデニムエプロンはとても似合っているし、男性のワイシャツの腕捲りというのは

どうしてかっこよく見えるのだろうか。


帰り道、雨はまだ降るけど

さっきの会話を思い返したら明るい気持ちで歩ける。



救急車の音が聞こえてきた。

低い音、

高い音、

低い音を鳴らし走って行った。

雨粒も大きくなって、ぼろぼろと高い音から低い音に変わっていった。



あ、バス停だ。帰りはバスに乗るか。


屋根付きのバス停でバスを待っている人は1人しかいなかった。

私も屋根の中に入り傘についた雨水を切っていると、バス待ちをしてる人が声をかけてきた。


「あの〜、すみません。申し訳ないんですが。

スマホをQberに置いてきてしまって…。

現金も持ってなくて…。スマホ借りることはできますか…?」


スマホ置いてくる人、2人目に会ってしまった。


この男性はバスを待っていたのではなく、ただバス停で雨宿りをしていたのだった。

Qberタクシーにスマホを忘れ、現金も持っていない男性。バスケメーカーで有名なロゴのついた黒パーカーを着ている。よく見たら履いているスニーカーにもロゴがついてる。バスケやってるのかな。


あまり良い印象ではないので、スマホを渡したくなかった。


「スマホや現金はちょっと無理ですが…。このビニール傘でよければ…。」


さっきもらった傘もあるので、ビニール傘はなくても問題なかった。


「え…いいの⁉︎ 君、もしかしてこの辺の学生さん?この傘本当にいいの?

僕さあっちの大学で研究してるんだけど、今度お礼させて、あ、変な意味じゃないよ!

名前聞いてもいい?」


早口で話す。頭の回転が速い人なのかな。

研究…。大学生にしては老けてる。

その男性、いや、そのバスケさんの髪型は片側ツーブロックの上に編み込みだけど、なんの研究してるのかな。

それとも、今のナンパってこういう風にするのかな。


「いえ、傘はもう一個持ってて、それいらないのであげます。バス来たのでごめんなさい!」


たまたまきたバスに乗り、バスケさんからさよならした。



アパートに着くころ、アパート前に救急車が停まっていた。あれ…誰か倒れたのかな…?


…またお隣さんかな。



家につき玄関を開けると扉がゴンっという音がなり、最後まで扉が開ききらない所で思い出した。

あぁ…そうだ、この荷物どうしよう。


ん?何か下にもある。


左腕の下に手紙のようなものが入っていた。

そこにはこう書いてあった。



“幸福の左腕”



それは幸福と書かかれた不幸の手紙でした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る