左腕の行方

サモトラケ

第1話 腕

ん…?あれ。何これ…?

腕?


腕だ。

しかも、表面がツヤツヤしてる。

光沢のマーブル模様の腕がダンボールの中に一つ入っている。

…綺麗。


プロテインじゃなかった。





雨がぱらぱらと降っていた。

こんな日は、モノプリのようなスーパーで買ったミナズキの花を飾りたい。

円錐状に積み重なる花への思い出でと、ぱらぱらとした雨音に浸っていたら、私のアパートに荷物が届いてたことに気がつくのに時間がかかった。


えっ、うそ。ぐしゃぐしゃじゃん…。


玄関を開けて届いた荷物を見つけた。

置き配で依頼したのは自分だけど、届くのが雨の日だとは思わなかった。ダンボールも伝票もぐしゃぐしゃだった。

伝票の文字もインクが滲んで読みにくくなっているけど、英字でneneと名前が書かれているところから自分の注文した荷物で間違いないと思った。

実は最近、海外のプロテインを初めて買ってみた。だいぶ奮発したけど、このプロテインという粉で綺麗になった人はいっぱいいるらしい。

濡れて汚れたダンボールを家の中に運ぼうとするが、重くて持ち上げられない。まるで岩みたいに重くて、粉がこんなにも重いなんて知らなかった。

荷物を押したり引いたりしながらだいぶ奮発した自分の判断に後悔しそうになった。


も〜なんでこんなに重いのかなぁ。このまま筋肉がつきそう。


ずるずると押したり引いたりを続けて荷物は1mほど移動し、アパートの外から私の玄関内領域に入った。このペースだと部屋まで運べないのでここで封を開けて少しずつプロテインの袋を持っていく事にしよう。


しゃがみながら玄関内領域に入った荷物を眺める。

このアパートに届くまでの間に幾つの国を跨いだのか、砂や雨が当たっていろんな汚れが付いていた。砂で剥がれかけてしまった粘着力も僅かなガムテープを最後まで剥がす。


海だったら何海里かけてここまできたのかなぁ。

ここからあの国は直線距離だと4968海里…、

1海里が1852kmだから…つまり相当な長い長い、ながい距離ということかな。


なんの役にも立たない知識だけど、 1海里はカレンダーで覚えたから知ってる。

カレンダーを1日の日から縦に数字を見ていくと1日・8日・15日・22日で、その下一桁が1海里の数字になる。そこまでは簡単だけど、そこから4968をかけて計算するのは、この箱の中のプロテインを運んだ後にしよう。

決して計算が苦手という訳ではない。

箱を開ける。



ん…?あれ。何これ…?

腕?


腕だ。


プロテインじゃなかった。

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