第2話 綺麗なお姉さん


プロテインじゃ、なかった。

恐怖よりもがっかりの方が大きかった。


その腕は不自然に大きく、本物の人間の腕じゃないのはすぐに理解できた。

もう少し観察して見るとマーブル模様の石で、

つやつやしていて、高級感がある。

綺麗…。でも、ふつうに気持ち悪い。

見た目は大理石っぽくて、美術室にありそうな芸術的な彫刻だ。手のひらをみると左側に親指がある。


ということは、…左腕なのか。


これは、大理石で作られた左腕のようだ。


よし、ここまではわかった。

なぜ私のアパートにきたのか、どうしよう…。



…一旦、珈琲でも飲もうかな。

いつもだったら家にあるスティックにする所だけど、こんな日はお洒落なカフェに行こう。

一杯700円もする珈琲を飲みに出かけて、現実逃避を試みよう。

早々と支度を済ませ、玄関に置いてある腕を避けるように外へ出る。

雨はまだ降っていて、ビニール傘をさしながら3km先のお店まで歩いて向かう。


歩きながら考える…

うーん…。あれは間違えて届いた荷物のようだけど…あれ?でも伝票に私の名前書いてあったよね。

持ち主は誰なのか、左腕の持ち主。

美大とか美術館とか、それかアンティークマニア⁇芸術に詳しくないので価値がわからないけど、できれば早く、私の玄関内領域から出てほしいなぁ。


濡れたアスファルトはスニーカーだと

ギュッ ギュッ ギュッ 

と、捻ったような音がなる。


憂鬱な気持ちで歩いていると、

少し先で周りを見渡している女性がいた。

道に迷っているのかな…。

みた感じは観光客ではなさそうだけど。


警戒心のない私と目が合い、声をかけられる。


女性「あの、すみません。スマホを何処かに忘れてしまって…電話を数分かけたいのですが、少しお借りすることはできますか…⁇」


話しかけられると同時に、柔らかい香りがふわっとやってきた。


nene「あ…はいっ。いいですよ。ちょっと待っててください。」


少しおどおどしてしまったけど、自分のスマホを出し服の袖で画面を拭く。画面に汚れが無いことを確認して渡す。


女性「申し訳ないです…ありがとうございます。少しお借りします。」


その女性は肩にかからない長さの前下がりボブで、動くたびに髪が揺れ、毛先まで艶がある所から毎日お手入れをしているのが伝わる。

私のスマホで誰かに電話をかけてる際、困り顔で髪を耳にゆっくりかける。

瞬きのたびに、長いまつ毛もゆっくり動く。

その様子をじぃっと観察してしまう。

電話の相手は、彼氏かな。


電話が終わり、その女性は鞄からクロスハンカチを出し画面を拭いて返してくれた。


女性「ありがとうございます。私、今キャッシュを持ち歩いてなくて…」


nene「あ、いいですよ。気にしないでください。」


女性「いえ、あの、これで良かったら受け取って頂けますか…。私の職場のノベルティなのですが。」


その女性、いや、そのお姉さんは、お礼にハンドクリームとノベルティの日傘をくれた。お姉さんはハンドクリーム屋さんで働いているらしい。


nene「え…!こんなにすごいの良いんですか…⁉︎」


女性「いいの、本当にどうもありがとう。

こんな御礼しかできなくてごめんなさい。

あなたに逢えて良かった。どうもありがとうございました。」


お礼をしてくれたそのお姉さん、

いえ、その綺麗なお姉さんは

私の通っている大学の方向へ足早に去って行った。


アスファルトもヒールに突かれ、コツコツとなる。



綺麗だった。

ハンドクリームと日傘をもらってしまった。

これ、私に似合うかな…。


今度、クロスハンカチ買おう。


カフェへ向かう

ギュッ ギュッ ギュッ ギュッ…

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