第5話 サモトラケのニケ ⅰ
nene「あの、u教授…この部屋は見た感じ網戸がないみたいなんです。今日みたいに暑い日はどうしたらいいでしょうか…」
u教授「あはは、この辺で蚊はあまり出ませんよ。それに、網戸がある住宅の方が少ないです。」
nene「え?そうなんですか?」
フランスのパリに着いた。
異国につくと無意識に五感が反応する。
視覚
宿泊先に着くと網戸がない事に気づき、
一緒に移動していたu教授に言うと
ここで蚊は出ませんよ。と笑われる。
聴覚
救急車の音が日本と違う。
pimpon pimpon pimpon…
味覚
ハムが、しょっぱい。
嗅覚
前に綺麗なお姉さんに貰ったハンドクリームをつけていると、同じ香りがするお店を見つけ、この国で作られていることを知る。
触覚
肌に触れる感覚だけど、夜が短い。
午後9時でも陽の光を浴びることができ、やっと夜が来たかと思えばあっという間にまた陽の光が登る。
日常で感じられない事が体験できて大変ありがたい。
パリではk君とレポートの参考材料も兼ねてルーブル美術館に行く予定があった。
決して観光目当てではなく、あくまでも研究の材料を集めに行く。
今日のために映画『ダ・ヴィンチ・コード』も4回観てきた。もちろん研究のためである。
nene「今日は、“モナリザ”と”落穂拾い”がみたいな。」
k「落穂拾いって、たしかミレーだっけ?」
nene「うん、そうそう。k君は落穂拾いで表現されてるのは何か知ってる?」
k「う〜んそうだな…秋の表現とか、なんか和やかな印象はあるよね。」
期待していた返答があったので、私はついニヤニヤしてしまう。
nene「それがさっ、あれは和やかな表現ではなくて、貧困や社会に対する怒りなんだよね。
あれに描かれてるのは、収穫の終わった畑に残った落穂を貧困者が拾っている風景なんだって。」
k「へぇ、そうなのか…知らなかったわ。neneちゃんは物知りだね。」
nene「ありがとう、絵は好きなんだ。レポートの材料にもなるし、今日はその絵を見てみたいと思います。」
k「でもneneちゃん、落穂拾いはルーブルにはないよ。オルセー美術館だよ。」
nene「…え〜!そこは調べてなかった!ルーブルに全部あると思ってた!」
k「あはは!オルセー美術館は明日行こう。ここから近いけど、ルーブル美術館は一日中まわっても全部見れないからさ。」
物知りな部分をk君にアピールしたかったけど、失敗に終わった。
ルーブル美術館に入館し、地上階から1階へ上がっていく。
日本でいう1階はここでは地上階や0階と呼ばれるらしく、慣れるまで自分は今何階にいるのかわからなくなり混乱した。
1階に上がっていくと広い踊り場があり、
そこに高さ3メートル程の翼の生えた女体の像が立っている。
存在感を強く放っており、惹かれるようにその像に近づいてみた。
近くで見るとその像は女性の身のこなしが作る柔らかさや曲線美の表現が美しく、今にも動き出しそうだった。その姿態に圧倒されてしまい、眺めている時間は時が止まっていた。
翻訳機で調べたらヘレニズム期の大理石彫刻で、
1863年にサモトラケ島で発見されたらしい
発見された時はもっとバラバラだったらしい。
そうか、だから腕や頭がないのか…。
像の名は
“サモトラケのニケ“
左腕の行方 サモトラケ @Samothrace
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