最強とは何か

ミネラル

第1話


「唐突だが、この世界は、滅んでいる」


「何度も何度も、滅んでいる」


「滅びすぎて、世界の法則が変わってしまった」


 世界の法則が新しくなった時、


 "世間は言う、これは陰謀である"、


 "世間は言う、これは天平地への前触れである"、


 "世間は言う、これは神の祝福である"、


 世間はいつもそう、憶測で物を言って、場の混乱を掻き乱す。


 SNSが流行ってからは、詐欺だ、誤報だ、捏造だ、のオンパレードである。


 最近では、ネット広告の電話番号を見て、トイレ業者を呼び出すと、何もしていないのに百万円を請求される、なんて詐欺があった。


 有名人なんて直ぐに、居場所がバレて、悪いことをすれば、顔、住所、年齢、経歴、すべてが白日の下に晒されてしまう。


「こんな長々と語ったのは、俺が最強であるからだ」


「俺の存在がバレれば、有名人への仲間入りは確実である」


「だから俺は、平凡生きようと思う」


「これまでも、そしてこれからも」


――――――


 ある日、目が覚めたら、日本という惑星がなく、宇宙という空間もなかった。


 ただただ真っ暗闇の中、時間の感覚もなく、生存本能だけで生きていた。


 空気、食事、睡眠、性欲、五感、本来人間に必要なものが欠落していたが、生存だけはできていた。


 何年、何十年、何百年、何千年、何億年、何兆年……


 数えきれない程の時を過ごして、唐突に右手の指先の感覚が理解できた。


 懐かしくなり、つい右手の指先に力を入れると、右手に風を感じた。


(……風……?)


「パリンッ」


(……音……それに他の五感も……)


「やぁ、君かい?」


 金髪碧眼の少女がいた。


(……光は、久しぶりのはずなのに、見える……?……)


「うーん、思考が読めないね君」

 

 少女が何か言っているが、俺は、五感が戻ってきたので、声が出せないか試してみる。


「……あ……」


(……もう少しかな)


「ん?」


 俺の口にした言葉に少女は首を傾げる。


「あーあー、テステス、できた」


 声を出すために、力んだため、無意識に周囲へ流れていた力が、強力な波動となり周囲へ伝わる。


「ギャーーー!!」


 少女が吹き飛んだが、後でどうにでもなるため、まずは現状を把握する。


(……できることが理解できる、不思議な気持ちだ)


「こい」


 意識して力を使うと、目の前に少女を呼び出した。


「ギャァァァァァァァ……あれ?え?え?」


(……ここは、輪廻の狭間にできた歪みで、俺が地球にある宇宙空間を破壊した)


(こいつは神、それも神の中の神で、名を○!※□◇#△という)


(俺が右の指先を動かしたことによって生じた穴から入ってきたのか)


「理解した」


 そう言って、俺は宇宙空間を地球や他の惑星ごと以前の状態に再生し、消えた。


――――――


 ここは、地球の日本列島にある、群馬県という県である。


 俺は、群馬県の男女混合育成高校で高校生にしかできない青春を満喫していた。


 あの出来事の後、俺は最強になった。


 具体的に言うと、俺が存在するだけで全てを破壊してしまうのだ。


 制御はできないため、どうすればいいのか考えた結果、


 破壊してしまうなら、破壊されたと感じない程、破壊と再生を繰り返せばいいと。

 

 めでたしめでたし。


 俺が及ぼす世界への影響は、


 "全ての生物が、事故で死ぬことやケガをしなくなったこと"、


 "全ての生物の、寿命が千年単位で伸びたこと"、


 の二つである。


 人類の悲願であった、不老不死の疑似的な再現ができたのである。


 俺が存在しなくなれば影響がなくなり、以前までの世界を取り戻せるので、


 それまでは、"自殺"や"殺人"はできないがな。


 やっぱり、俺に寿命はないので、一生無理かも、諦めて。


 世間では、急に発生した現象を議論し合っている。無駄なことを。


 他国では、人体実験もやっているらしい。


 死ねない身体に行うとは、人間の欲は限りないとはよく言ったものだ。


 「昴! 一緒にご飯行こう!」


 おっと、俺は彼女に呼ばれたからいく。


 俺は、平凡生きようと思う、これまでも、そしてこれからも。


 「昴!」


 「おう! 今行く!」

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