透明味の恋愛
人を好きになる。
それはとても素敵なこと。
他者の魅力に気づき、魅了され、尊敬する、双方にとって素晴らしいこと。
人を好きになるのはすごく簡単だ。
その人の事を知ろうとすれば、とても条件が合わない人じゃない限り、簡単に好きになれる。恋愛もそう、顔や内面、価値観、様々な条件が合っていれば、すぐに魅了され、すぐに好きになる。
「飽きた」
「姉ちゃんなにしてんの」
目を開けたら、大きな大きな弟が、視界いっぱいに入る。蒸し暑い廊下でも、フローリングが背中を冷やしてくれる…はずだったのに、首を伝ってフローリングに滴る水分。
「何してんの」
「涼んでる」
「エアコンある部屋に行きなよ」
「頭冷やしてる」
「どういうこと?」
「大人にしかわかんないこと」
首、お腹、額、汗が伝う。
フローリングは暖かくて、不愉快で、寝返りを打ちたくなるけれど、そんな広さもない。
「邪魔なんだよ、通れないの」
「退けって?」
「そ、退いて」
弟の両手にはSwitch、よくわからないBGMが流れている。
よいしょ、と言いながら起き上がれば、私の寝てた跡がくっきりとフローリングに残っている。
「Switch〜??アタシがあんたくらいの時は、外で3DSで電波人間ってヤツをみんなで遊んでてさァ…アンタも外で遊べば?」
「電波人間でたよ、無料の」
「え?いつ?」
「最近」
「あ……そう。」
「姉ちゃん、服くらいはちゃんと着て」
「あーはいはい」
汗まみれになった頭をかいた。紫のネイルをした爪の隙間に、水分が染み込んで、私を腐食していくような気がした。
座った視界から見る弟は大きくはなかった。
立ってみればきっと、いつも通り小さい。
もう一度フローリングに仰向けになる。
冷房のない廊下の生暖かさと、木の匂いが少し心地よかった。
「飽きた」
もう一度呟いてみる。
どんなことも、ある程度進んで、そしてテンプレ化してしまったら飽きるものだ。
小さな頃は、どうぶつの森をやることがなくなるくらいやり込んで、そしてセーブデータを消した。最初のワクワクを取り戻したかったからだ。2周目はまだ希望に溢れていたが、少しずつテンプレ化していたことに気づく。やがて、もう一度消す頃には村を作った後の流れが毎回同じで、飽きてしまう。
ポケモンは大好きで、新作が出る度に毎回買うけれど、結局やる事は一緒で、内容が少し違うだけ。だんだん飽きが来る。
それは、ゲームだけでなく恋愛も同じだった。付き合うまではドキドキする。付き合ってからはテンプレ化。デートスポットに行ったり、キスをして、夜景を見て、映画見て、ホテルに行って、ああ、いつも同じことばかりだ。行き着く先はセックスで、それもいつかはマンネリ化して、喧嘩も増えてきて、別れる。いつもいつもいつも……テンプレだ。
村が違うだけの、シリーズが違うだけの、人が違うだけのテンプレに過ぎない。
ゲームなら数年単位空いてから新作が出るからまだ良いが、恋愛は数年も空かない。
とにかく飽きる、飽きでしかない、
だから……だから。
「姉ちゃん!!!!」
「ん?」
「もうそこいるのやめなよ!!変だよ!!」
「いいんだよ、ここで」
床の冷たさと温かさが、私の心を少しでも冷静にさせるから。
冷静にさせてくれないと――感情に支配されてしまいそうだから。
どうせまた同じことの繰り返し、そんな透明な恋愛は、この汗と同じ色をしているだろうか。
人生 ミマル @mimaru0408
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