第5話 メリーさんの疑問

 私、メリー。今、階段を使って三階に来たの。

この建物はカタカナの「コ」の字型になっているようだ。「コ」の一画目ら辺に入り口があって、私はそこから入ったらしい。

 三階へ行くと、木製の廊下とずうっと奥までいくつもの部屋があった。部屋の中には二十ほどの椅子と机が置かれていた。埃まみれで、本来の使い方ができないくらいに壊れているものが多い。


 「ベッドとかは無いの? そういえば、カーテンも無い」

 ここに住んでいた人間は一体何をしていたのだろう。

椅子と机が押し込まれている隙間からは、壁の色とは違う板が貼られていて

文章が書かれている。

「書いてある文字は読めないなぁ。消えかかってるし。」

 読めなくても私には関係ないから、まぁいいや。

 

「コ」の三画目、書き終わりの場所まで探したけどサファイアくんはいなかった。

 1番奥の部屋まで来たら、ここに来てから初めて見つけたものがあった。

「うわぁ。ベッドだ……」

 ここは寝室だったのだろう。

 でもおかしい。この部屋にも椅子と机があるのだ。それらは無造作に移動されていて、机の上には先ほど外で見かけたボトルが何本も転がっていた。

 残飯が入っている弁当箱も散らばっていて、まるで誰かが住んでいるようだ。

 だけど、カラスが外でつついているような変色した食べ物ではなく、そんなに日が経っていないようだ。

「うーん、私ってば名探偵。まぁここに誰がいてもどうでも良い」

 あれ?違う。

 違う、違う、違う。


「人間が近くにいるってこと? 今いるの?」

 疑惑が確信に変わりそうだ。

 もし、自分が人間ならばここで心臓が飛び上がるのかな。

 人形だから、心臓なんて持っていないけれども。

 一回くらい、子供から採っておけば私も分かったかな。


 サファイアくんはここにはいないから、早く二階へ移動しなければ。

部屋から出て、階段を目指した。

 階段を下る直前、狭い部屋が目に入った。

 これまでよりも入口が狭く、同じ大きさの入口が二つ並んでいる。

「見落としていたわ! サファイアくーん!」

 広くないのにわざわざ曲がり角が造られていて、奥には鏡が三つと

その下には陶器製の白いボウルと蛇口。

 向かい側には小さいドアが三つ並んでいた。

「サファイアくーん」

 

一つ目のドアを開けた。

 あったのは部屋ではなく便器だった。

「あー。ここトイレかぁ」

 じゃぁ便器が三つあるのかしら。椅子と机はたくさんあるのに、三つしかないなんて、ここは本当に何なの?


 二つ目のドアを開けると、穴の中が先程とは異なるようだ。

近くの窓からの明かりでうっすらと分かる程度だが、大量の紙でふさがれている。

 紙の色は赤黒く、たまに小さく上下に動いていた。うめき声も聞こえるような気がする。

辺りには、人間用の服と靴が散らばっている。黒ずんでいるので、これはずいぶん前の物のようだ。

 ここにサファイアくんがいないことは確実なので、このまま後ろに下がりましょう。


バタン、とドアを閉めて三番目のドアを開けた。


 

 

 

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メリーさんの失意 沖盛昼間 @okimori8864416

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